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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

愛するココロ-13-

2007年06月15日 | 投稿連載
       愛するココロ  作者:大隈 充
         13
 「時をかける少女」を見ているロボット。
それは、エノケン一号と呼ばれる小さな冷蔵庫のような箱型の
ロボットであるが、前列の二三人しかいない観客からしたら、
なんだか小さな子供が入ってきたような感じがした。
おそらく館内の客席にいる十人足らずの観客はみんな夕暮れまで河原の
草むらを走りまわった男の子が親を訪ねてそっと通路へ入ってきた、
そんな生き物の実感をもったに違いない。誰一人それが機械で出来た
人工知能の器であるなんて思ってもみなかった。
黴臭い映画館の薄暗い通路でそれは、じっと動かないで
確かな呼吸で息づいていた。
スクリーンは、いつの間にか音のない光の渦で溢れていた。
エノケン一号のアンテナの耳からは、映写室の源蔵と由香たち
の話が聞こえてきた。
「あれは、昭和28年だったねえ。ちょうど私が18才で
エノケンはもう四十代で父ちゃんと子供ぐらい開きがあったなあ。」
源蔵は、A、B二台の映写機のリールの切り替わりを小窓から
スクリーンの右上のロール替えマークを見て確認しながら話をつづけた。
「あの当時の新宿は、駅前で風車が屋根にあったムーラン・ルージュ
劇場が姿を消して、都電の走っていた辺りはバラックづくりの飲み屋
と一緒に歌舞伎町までキャバレーや映画館がにょっきりと
軒を連ねていたよ・・」
 映画は再び音を取り戻して、場内を物語の荒波に埋め尽していた。
エノケン一号は、ゆっくりと後ろのドアまで下がって
うす暗闇に身を静かに委ねた。
そしてそのエノケンの乗り移ったロボットの眼が赤からグリーン
に変化して、今何かを思い出しているかのようにゆっくりと
点滅しはじめた。それは遠足で小高い山の上の展望台から自分の街
を初めて眺める少年の目のような澄んだ色合いをしていて、
どこか懐かしさと驚きを露にした瞬きにも似ていた。
「マリー・・・・」
エノケンは呟いた。
「マリー・・・・」
60年近く前の東京は新宿。
マリーと呼ばれた踊り子は、キャバレー新世界のナンバーワンだった。
日本人離れした大きなバストとすらっと伸びた長い脚にアンバランス
な童女のような黒目が額縁ショウの観客の人気を一手に集めた。
 伏見京子。これがマリーの踊り子名簿に書かれた名前だった。
二十歳を過ぎたばかりのマリーの素顔の頬には、赤い身が透けて見えた。
楽屋にいても一目見ただけでマリーの居場所だけ輝いてすぐに見つけられた。
「マリーちゃん。森下のマサさんが寿司おごってくれるって。
下で待ってるよ。」
とボーイが花束を手渡した。
「そこに置いてて。シツコイナ。」
「頼んだよ。俺は伝えたからね。」
と洗濯に出す踊り子の衣装の入ったカゴをもって坊主頭の
ボーイは出て行った。
森下組の若頭村越マサは、新宿の特攻くずれの愚連隊を配下に
おさめた新興のチンピラだった。そのマサがマリーに惚れた。
マサは、そのリーゼントの黒髪が一度も崩れたとこを見せないように
その暴力と支配欲への執着も一度も崩れず、貫徹する怖さがあった。
マリーは、大きなため息をついて廊下へ出ると猿の扮装をした
エノケンにいきなり抱きつかれた。
「何?エノケンさん。」
「非常階段へ出て。」
『非常階段?」
「そこから下の映画館の映写室に降りられるから
そこへ入って裏口へ抜ける道がある。」
「・・・・・・」
マリーは、被り物を外したエノケンの真剣な顔を見つめて、
この人は味方だとすぐに悟った。
「映写技師には話してある。逃げ道はそこしかない。」
「だって・・・・・」
「自分を買かぶるな。」
「買かぶってなんかいないよ。」
「自分は器用に生きられるなんて思うな。」
「・・・・・・」
マリーは、エノケンの目に見つめられて何故だか涙が出てきた。
他人から面と向かってしかられたことがなかった。
「早く!」
「ありがとう。」
廊下のホール出口と反対のトイレのある非常階段へ走った。
そしてドアを閉めるとき、振り返ってもう一度エノケンの目
を見て歌うように言った。
「ありがとう!」
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キッズ、What's up?

2007年06月15日 | 写真コラム
代々木上原駅。
エスカレーター工事中。
何やってるの?
っておじさんに子供が聞いたら、
ママが何やってるの?
っとその男の子に聞いてきて
ぼく、エスカレーターに乗りたかったのに・・・
何で動かないのか、このおじさんに聞いていたんだ。
と英語で母子のやりとり。
ガードマンのおじさん、説明したいけど
言葉がわからない。
コウジ、ダンダンダンとプレートトリカエ、アブナイヨ・・・・
はい。わかりますよ。とママのきれいな日本語。
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