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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

ビールをおいしく飲む方法

2007年06月23日 | めんちゃん日記
飼い犬は聞いた。
ぼくは、カフェ6丁目の主人とカメラおじさんの話を聞いたよ。
「なぜお店で飲むビールってこんなに美味いの?」
「はい。」
「同じキリンやヱビスの銘柄なのに。ここで飲むビールって
 おせいじでなく味が違うんですよ。」

「飲食店の常識なんですけど。別に特殊なことはないんですよ。」
「はい?」
「グラスをよく洗うだけなんです。」
「洗う?」
「ええ。料理の皿なんかとは別のスポンジでよくグラスを洗うんです。」
「それだけ?」
「それだけ」
「たとえば洗ったグラスの内側に指一本つけただけでその脂で味が変わっちゃう」
「へーえ」と目から鱗のおじさん。
「今度家でやってみよう!」
情報源Cafe6丁目ーアンティークと手料理の店

・・・・・・・うむ。
なんとか云っておじさん、家で又飲むんですかぁぁぁ。
コメント (2)
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愛するココロ-14-

2007年06月23日 | 投稿連載
            愛するココロ  作者:大隅 充
               14
 歌舞伎町の新世界ビルの屋上で急激にのし上ってきた森下組のマサと
幕間芸人エノケンとが殴り合いをして、ヒラクチのマサが前歯を二本折って
負けたというニュースは、あっという間に東京中に広がった。
 それもその筈決闘をしたのが伝書鳩の小屋の中だっただけに
「鳩の糞まみれでマサ、エノケンにノサれる」なんて手書きのメッセージを
新聞社や運送会社の伝書の裏に書き付けたため、その日の内に知れ渡り、
マサに押さえつけられていた西新宿の愚連隊の一部が夜になるとキャバレー
や飲み屋でうっ憤晴らしで森下組のチンピラに襲いかかる騒ぎにまでなった。
「ヒラクチ蝮のマサも堅気にやられちゃ形無しだな。」
「散々人を情け容赦なく半殺しにしてたくせに」
 しばらくは、マサも姿を見せず森下組も商店街の地周りを静かにやっていた。
元々当時の新宿の興行主協会会長の正森忠三郎と森下組との微妙な関係で
エノケンを大っぴらに復讐して、今までマサが仁義なく徹底的に対抗やくざを
コンクリート詰めにして東京湾に捨てたり、見せしめに花園神社の鳥居に吊るしたり
してきたように抹殺することはできなかった。元博徒であった正森忠三郎の新世界劇場の
専属売れっ子芸人だったエノケンをいくら無慈悲なマサでも黙って、消し去ることは憚られた。
エノケン自体は、小柄で華奢な体つきをしていたが、子供のときから剣道の道場に
通っていて段持ちであっただけあって、裸になるとほとんど筋肉の塊だった。
190cmに近いマサの体格でもエノケンの俊敏さには追いつけなかった。
夏になるまでの一ヶ月。エノケンは、毎日のようにマリーと午前中の三時間
を美術館や公園でマリー手作りの弁当を食べたりしてお互いの楽屋入りまで間を過ごした。
この密会を知っているのは、掛持ち屋のゲンちゃんだけだった。
「あれがエノケンにとって最良の日々だったかもな。」
 昭和館の上映は、ハネた。姉さんと言われた受付のおばあさんの姿は、
とっくになかった。誰もいないロビーのソファで源蔵は、由香とトオルそして
エノケン一号に向かって昔話を鮮明に思い出しながら話していた。
「エノケンってそのとき五十に近かったんでしょう。結婚とかしてなかったの?」
と由香が興味津々で聞いた。
「何人か一緒に暮らした女はあったみたいだけど、たぶんマリーとの出会いが
最初で最後の情熱だったんじゃないかな。」
「そんなおっさんになって娘みたいな踊り子と・・・なんか変だよ。てか、キモイ。」
トオルは、正直に言った。
「エノケンは、それまでは舞台で笑わせることだけで生きてきたんだ。他のことを
犠牲にして。たぶんあの年になってはじめて自分は人間だったんだ、って気づいたんじゃ。」
「わかるような気がする。」
という湿り気を帯びた由香の言葉にトオルは黙りこんだ。
「たぶんその一ヶ月は二人には一生で一番楽しかったんじゃないかな。
美術館が飽きると私が手引きして隠れて競輪場でデートしてたよ。午前のレースの時間に。
そのときよくエノケンが昔無声映画で主演した時代劇の話なんかしていて、
何度もマリーは聞かされてストーリーを空で覚えていたじゃないかな」
「映画に出てたの?」
「戦前の古い無声映画がエノケンの人生の出発だったと聞いたよ。
ただほとんど無声映画数本出ただけで映画はすぐにやめて舞台一本になったというけど
何で映画やめたのか、話してくれなかった。たぶん水があわなかったと思うよ。」
「で、エノケンとマリーさん結婚したの?」
夢見る少女のような由香の質問に源蔵は、クスっと笑って真顔に戻った。
「いや。なかったよ。あの一ヶ月がすべてだったね。夏になる頃。
胴元の正森忠三郎が結核で死んだんだ。それからあの町はガラっと変わった。
跡を継いだ息子の正森忠男がだめでね。新宿は、どんどん住みにくい町になって行ったね。」
エノケン一号は、ロビーの火の消えた達磨ストーブと並んでグリーンの目を
点滅させながらじっとゲンちゃんの話を聞いている。

 エノケンは、アロハシャツの袖を路地の軒先に引っ掛けてひらひらと破れたまま、
娼妓小屋が密集したいわゆる今のゴールデン街の青線地帯を全力で走っていた。
すぐ後ろから胸を肌けて、チンピラが十数人追いかけてきた。

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