月光院璋子の映画日記

気ままな映画備忘録日記です。

「陸軍中野学校 密命」

2008年11月22日 | ◆ラ行

下書きしたままアップするのを失念していた映画です。
古い映画ですけれど、市川雷蔵ファンの一人としては、
この映画を挙げておくのもいいかなと。

主演、市川雷蔵の1966年制作の映画。
監督は増村保造。

スパイ天国と揶揄されて久しい国家としての背骨が溶解して久しい日本ですが、戦前には諜報活動をしていたなんてこともウソみたいですが、専守防衛を旨とするなら、せめて諜報や防諜、宣伝などに国家として力を入れなくていいのかと疑義の念を抱かされて久しい一人ですが、戦争に負けるまで日本も秘密戦に関する教育や訓練を目的とした部署があったのです。
それが旧日本陸軍の中野学校ですね。

日本がドイツ、イタリアと同盟関係を結んだ頃の日本の諜報部員を描いた本作が、戦後十数年経って制作されたこてゃ感慨深いものがあります。

物語は、日本から機密情報が漏れているということで、ドイツ大使から「こんなことでは同盟国として、日本とは外交機密どころか、軍事機密も共有できない!」と叱責される日本の必死の諜報活動が描かれているわけですが・・・・


(現代劇でも市川雷蔵のこの横顔には、やはりしびれちゃいますね)

機密が漏れるというのは戦前に限ったことではなくて、いまでも同じようです。国家の背骨が溶解しつつある日本ではありますが、日本人というのは、上から下まで国民の国際感覚が他国とはかなり違うのかもしれません。

上司の中佐に召集された場所が、最初の映画で靖国神社だったと記憶していますが、国家のために諜報部員としてやがて命がけで滅私奉公する市川雷蔵たち(無論、役です)がその使命に準じるべく誓いを立てる場所が靖国神社だったというのは、とても象徴的だったなあと。
本作はシリーズ化されて本編は4作目。
この映画を観ていつも思うのは、1960年代にこの映画をご覧になっていたはずの大人たちが、その後、どうして日本に情報省の設置を考えなかったのかなあということです。

さて、映画のお話。
中野学校で訓練を受けた優秀な諜報部員となった一期生たちは、その後世界各地で活躍することになるのですが、本作で活躍する市川雷蔵は椎名次郎という役。軍の上層部の計画で中国から日本に送還された彼は、密命を受けます。
元外務大臣の親英派の政治家高倉周辺から国家機密が漏れているらしいということで、彼の身辺を探りイギリスの諜報機関の人間に情報を漏らしている人間を捕まえること。

ところが、元大臣には怪しいところがない。上司には催促され、彼は、こう言っちゃいます。「この際、自分の身分を≪正直に≫元大臣に話して、彼の本心を聞こう」と。
いかに雷蔵ファンでも、これにはさすがに「あちゃ~」と思わざるを得ませんが、ここが日本人的発想なのでしょう。

ところが、身分を明かした途端、「諜報の人間なんか嫌いだー、出てけー」となる。そこで、彼は、自分の好意をよせる高倉の娘を利用することにします。「お父様のことが心配なんだ。だから、お父様に関していろいろと探って僕に教えてほしい」・・・・

国際情勢に明るい親英派の外務大臣などと聞くと、現首相の祖父の吉田茂のような人物を想像してしまいますが、

当時の日本は、それこそ開戦間際まで勝ち目の無い戦争を回避するため尽力した政治家や官僚や財界人がいたという史実に照らし合わせて考えると、政治はやはりパワーがなければダメなんだと思い知らされますね。この高倉はやがて右翼的な青年将校に暗殺されてしまいます。

各国の在外公館でのパーティで、彼は情報通の男爵未亡人の交友関係の広さと羽振りの良さに注目し、彼女から情報を得ようと接近。

まさに色仕掛けですが、この男爵未亡人えお演じているのは野際陽子。いま70歳くらいになられたと思いますが、ちっとも変わっていない!その容姿に驚かされます。

戦前に外国の要人との交際があった日本女性といえば、多くは貴族階級の女性とその子女だろうと思いますが、そんな女性の一人である彼女の、戦争への関心など超越したニヒリズムには驚かされます。 

なかなか機密を英米に漏らしている人物が特定できないまま、部下がミスを張り込み中の相手に逃げられるというミスを犯してしまう。その責任を取って≪自害せよ≫というところも、実に日本的で・・・・けれど、彼は部下の責任と覚悟を試しただけ。

まあ、こうしたメンタリティでは、日本人はとても諸外国と諜報戦で渡り合えないどころか、100年かかっても無理なんじゃないかと思ってしまいます。昔、日露戦争の頃には明石大佐のような人物もいましたが・・・・もう、敗戦根性が身に染みてしまった日本では、諜報活動の教育をする人間もいないのではないか・・・・

スリリングな展開を経てやがて、スパイを逮捕する陸軍中野学校卒業生たち・・・・・あっと驚く犯人を逮捕後、市川雷蔵は、戦争が逼迫しているため情報を得るべく大陸(中国)に渡っていきますが・・・

極め付けがここ。
彼の上司が、何と元外務大臣の葬儀の後で、
彼から預かった手紙を娘に手渡すシーン。 

諜報活動などという非人間的な仕事をしている男である市川雷蔵扮するスパイにとって、彼を慕う純情な娘というのは、
贖罪と救済の象徴的存在になる。女性側からすれば、そういう存在として祭り上げられるという感じですが・・・

大陸に渡る船上で、
彼女とは二度と会うことは無いだろうと語る雷蔵。

あ~、こんなくわえ煙草でハードボイルドを気取っても似合わない。市川雷蔵に甘ちゃん諜報部員なんかやらせないでほしかったですね。ファンとしては、彼にそんなヤワナ台詞を言わせないでもらいたかったです。(苦笑汗)

 


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