前評判も高く待望のシリーズ第三作目ということで、期待値の高さは同じながら、見終えた後の感想が、まるで正反対だった二つの作品。『Mi:3』と『ボーン・アルティメイタム』
前者を観たときの失望感は記憶に新しい。
なぜ、面白くなかったのだろう。トム・クルーズにとっては、かなり思い入れの強い作品のはずだったのに。
その理由を考えたくて、この連休に再び『Mi:3』を見直した。
やはり、大甘であまりにも冗長だ!
という印象は、変わらなかった。
これは、やっぱり、脚本と監督に問題があるぞと。
面白くない映画の監督の名前は覚えないせいか、『ミッション インポシブル 3』の監督が誰なのか、記憶にない・・・・

確かに、局部的にはこうしたド派手な爆破シーンもあり、
いかにもミッションインポシブル的なのだけれど・・・・前2作とは、根本的に違う。
1作目は、ブライアン・デ・パルマ監督で、
2作目は、ジョン・ウー監督作品。

こうしたシーンを静止画面で切り取ると、ジョン・ウー監督の作品だと言われたら信じてしまいそう。けれど、映画は全然違うもになった。三作目は、残念ながら、面白くもなんともなかったと言いたくなる出来。
こんなつまらないスパイアクション映画を作った監督は誰かと調べてみたら、三作目は、J・J・エイブラム監督とあった。この人、誰? ということで、経歴作品を眺めて、「あ”っ」と思ってしまった。あの『アルマゲドン』が担当した映画のリストにあるのを見て、どおりで、大甘で間延びした映画になってしまうはずだと。冗長な大甘映画となった『アルマゲドン』の脚本と同じだ!そんな監督を、『Mi:3』の監督に迎えたことが大きなミステイクだ!と思ったら、監督ではなく脚本の方だった。
思い出してみよう。
あの『アルマゲドン』がイマイチ失敗作だった理由を。
ブルース・ウィリスの父性の魅力、リーダー的魅力が全開したかのような映画だったにもかかわらず、そして脇役にスティーヴ・ブシェーミ のような個性派の役者を配置したにも関わらず、マイケル・ベイ監督の『アルマゲドン』が駄作に終ってしまったのは、ひとえに脚本の冗長さにあった。
彼の娘役のリブ・タイラーの大根役者ぶりも映画を台無しにした。ベン・アフレック共々売り出すためだったのだろうけれど、せめて、脚本がもっと締まっていたら・・・・何とかなったかも知れない。
そんなJ.J.エイブラムスを脚本&監督として起用した時点で、『ミッションインポシブル3』は、ミッションとは無関係の愛妻救出物語に堕してしまった。トム・クルーズは48時間の内に愛妻を救出するために、あれもこれもやらなければならず、一人大忙しだったけれども・・・・、観ているこちらはちっともそういう感覚になれなかった。プロットがめまぐるしく変わり、それらのプロットが有機的に繋がらず劇を守り立てる集中に欠けるので、しらけてしまった。
仕事の使命で生まれる緊張感と愛妻の救出での緊張感は別物だということをトム・クルーズは見逃したようだ。

せっかく敵役にフィリップ・シーモア・ホフマンというユニークなキャスティングを配置したのに・・・・・、その威力も半減してアクション映画としてはイマイチのエンターテイメントになってしまった。
トム・クルーズ自身製作に名を連ねているほど、思い入れの強い作品だったはずなのにこうなってしまったのは、そこに客観性を担保するような仕掛けがなかったからではないかと思われてくる。いっしょに組んでいるプロデューサーはかなりの辣腕家らしく興行的には良かったのかもしれないが・・・・逆に言えば、仲間内で盛り上がる危険(=クリエーターにとってはとてもマズイことだと思うけれど、それ)を回避できなかったのだろう。
それに比して、マット・デイモン主演の『ボーン』シリーズは、回を重ねるごとにますます面白くなっている。この違いはどこからくるのか。どうしてそういう結果になったのか。この二つを比較してみたくなった次第です。
なぜだろう・・・・と。

★ 『ボーン・アイデンティティ』
---原作:ロバート・ラドラム著「暗殺者」
---監督:タグ・リーマン
(彼は、2、3作目では製作指揮を執っている)
---脚本:トニー・ギルロィほか
★『ボーン・スプレマシィ』
---原作:ロバート・ラドラム著「殺戮のオデッセイ」
---監督:ポール・グリーングラス
---脚本:トニー・ギルロィ&ブライアン・ヘルゲランド
2作目で脚本担当に新たにブライアン・ヘルゲランドが加わっています。彼は、『13日の金曜日』というTVドラマで脚本を修行したらしく、ミステリー脚本を得意とし、やがて『陰謀のセオリー』『L・A・コンフィデンシャル』で脚本賞を受賞している。いわば、そうした新たな才能を『ボーン』製作者はスタッフに迎えたわけだ。
脚本に新しい血、新しい強力な才能をいかに注入しようとしたかが分かる。
★『ボーン・アルティメイタム』
---原作ロバート・ラドラム「最後の暗殺者」
---監督:ポール・グリーングラス
---脚本:トニー・トニー・ギルロィ&ジョージ・ノルフィ、スコット・J・バーンズ
3作目でも、またここで脚本に新たな脚本家を加えている。『陰謀の星条旗』『オーシャンズ12』の脚本家ジョージ・ノルフィと新人のスコット・J・バーンズを加えている。
つまり、回を追うごとに、『ボーン』は脚本に新しい強力な血を注入したということです。
全てを通してタグ・リーマン監督が製作に大きな力を発揮したのだろうと思われるけれど、その彼が後任の監督として迎えたのが、ポール・グリーングラス監督。
脚本だけじゃなく監督にも新しい血を入れたということになる。これは凄いことだと思います。
そのポール・グリーングラス監督、どういう監督かというと、以下、経歴を貼り付けたのでお読みいただくとして、そもそもがスパイ小説の作家だという点は、無視できないぞと。特筆すべきはドキュメンタリー・タッチの長編『ブラディ・サンデー』(02)の脚本・監督をつとめ、いきなりベルリン映画祭金獅子賞を受賞していること。
一昨年、『ユナイテッド93』も撮っている。その視点はドキュメンタリーで鍛えられたリアリズムにあるのだろう。緊張感溢れるタッチの映像にそれが表れている。
まさに、『ボーン』映画が、スパイサスペンスアクション映画として映画史にその名を刻むことになったのも、興行での成功に重点を置い商業主義的視点に堕するのを排し、スパイ映画作りのプロに徹したこと。
しかも、そのプロの血を、入れ替えるのではなく、新たな血を古い血に注入した。そうすることで新鮮さと客観性を担保しようとしたのではないかと思われます。関係者のその姿勢に勝因があった。そこが、『Mi:3』のトム・クルーズの側に欠けていた大きな点じゃないかと、そう思うのは私だけだろうか。
無論、キャスティングも良かった。
ちゃらちゃらした女優や存在感んも軽い女優、美人なだけの女優を起用せず、若手では、マリー役に『ラン・ローラ・ラン』のドイツの若手フランカ・ポテンテを配し、ボーンの同僚役の女性にはジュリア・スタイルズ。そしてジョアン・アレンという地味ながら迫力のある演技派の女優を配している点は見事だと思う。
トム・クルーズがいかに演技にプロ意識をもった野心家で自信家だったとしても、彼自身ワスプ的な上流家庭育ちの雰囲気をもった美人女優好みゆえ、『ボーン』の女優たちはなかなか選びにくい女優たちかもしれない。良き妻、良き主婦、愛される妻として普通の若い女優を起用したキャスティングでも『Mi:3』は失敗したと言える。
←ジョアン・アレン
『ボーン』のように、二作目、三作目の俳優陣が、ブライアン・コックスだの、クリス・クーパーだの、CIAの局長にデヴィッド・ストラザーン、長官にスコット・グレンだのといった渋めの男優陣を配している以上、彼らを相手にして戦っているボーンのサイドに配置する女優である以上、やはり生半可な女優では太刀打ちできない。ジョアン・アレンというキャスティングは成功だ。
←デヴィッド・ストラザーン
←スコット・グレン
ということで、同じエンターテイメントのスパイ映画でも、
『Mi:3』と『ボーン・アルティメイタム』では、かように製作において決定的な差があったということですね。
それが『Mi:3』が三作目にしてこけた理由であり、『ボーン』が面白い映画になった理由だと思います。これこそ、私からのアルティメイタムかな。
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★ポール・グリーングラス監督(サイトからの貼り付け)
1955年イギリス、サリー州チーム生まれ、ケンブリッジ大卒。多彩な才能をもち、ジャーナリストとしても活躍する傍ら、イギリス最大の民間放送局ITV(独立テレビジョン)で、“World in Action”の製作担当としてキャリアをスタートさせ、英国アカデミー賞TV賞を受賞。
“Resurrected”(1989年ベルリン映画祭インターフィルム賞、OCIC功績賞)で監督デビュー。“The Theory of Flight”(1999年ブリュッセル映画祭外国語映画賞)、“The Murder of Stephen Lawrence”(2000年英国アカデミー賞TV最優秀シングル・フィルム賞、2000年バンフTV映画祭審査員特別賞)等を発表。
北アイルランドで1972年頃に起き、13人の犠牲者を出した市民権運動を描いたドキュメンタリー・タッチの長編『ブラディ・サンデー』(02)の脚本・監督をつとめ、2002年のベルリン映画祭金獅子賞、サンダンス映画祭ワールド・シネマ観客賞、そして英国インディペンデント映画賞を受賞、一躍、脚光を浴びる。
2006年に公開された『ユナイテッド93』では、観客・批評家双方に高い評価を得、アカデミー賞(R)にノミネート、英国アカデミー賞を受賞。脚本・監督・製作を担当したグリーングラスは、全米脚本家協会のオリジナル脚本賞にもノミネートされ、その他無数の賞を受けている。
なお、ピーター・ライトと共著であるベストセラー・ノンフィクション「スパイキャッチャー」(1987刊行)は英国諜報機関の内実に触れ、物議をかもした。
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今後がますます楽しみな監督として、
この名を記憶にとどめておきたいものです。