海峡を わたる橋を
幻の 空飛ぶ鯨でつくる
あるいは
緑山の谷間の 渓流の音の
空耳で つくる
ああ せめて
一枚の青いけやきの葉の
舟さえあれば
きみたちのところに
ことのはを とどけることが
できるのだが
なにもない
わたしには
ただ 小さく閉じた
かたつむりの しづかな声だけがある
小さな あまりに小さな
貝の 声が
一匹の白い猫を抱き
わたしは岸辺に立って
海に吹かれる
遠く離れていった
きみたちの 顔を見ることも
声を聞くことも もうできない
海峡は ハサミのように
深く きみたちとわたしの間を
切る
帰ろう と猫がわたしに言う
ああ 帰ろう
わたしは海に背を向けて
家に帰る
また明日 海辺に来ようと思っていると
だれかが ぱたりと音を立てて
わたしの背中の窓を 閉める
もう二度と来てはならないと
潮風が わたしに言う