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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

帰ろう

2015-04-07 07:11:41 | 瑠璃の小部屋

子供の頃
川沿いの土手の上を歩くのが好きだった
青い川が見える
河原には緑の野があって
そのふちに一本の名も知らぬ木が立っていた
青草の揺れる河原の野を
ぼくはよくその木に向かって歩いていた
何だか 木がぼくを呼んでいるような気がして

ぼくはその木のそばに行くと
挨拶代りに言ったものだ
やあ 君もひとりぼっち?
誰か友達はいる?

すると木は 川風に緑の梢を揺らして
答えてくれる
なんて言っているのかはわからない
けれど答えてくれる
どこからか 小鳥の声がして
ぼくは空を見る

心臓が 鉛のように重くて
ぼくはいつも 生きるのが苦しかった
悲しみは涙に溶かして
この木の前で 秘密の言葉にして
風の中に捨てた
ぼくは笑う 笑う なぜって
もう笑うことしかできないからさ

そうして僕は家に帰る
木は黙ってそこに立っていてくれる
また来よう
きっとぼくはひとりぼっちではないのだ

ああ
だれの胸にも 明日の鳥は鳴いている
やすらぎの卵の中で
ガラスの小さな卵の中で
もう明日は始まっている
鳥よ
君の故郷は空にあるのだ

いつかきっと帰ろう
ぼくの魂が 呼吸できる
ほんとの大気のある 小さな星に

鳥のように 翼に載って
帰ろう




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恐竜の涙

2015-04-06 07:10:28 | 瑠璃の小部屋

晴れた春の日に吹く
光に染まった風をほどいて
一本の小さな糸を作る
何本か作ったその糸をよって
丈夫な光の糸をこしらえると
ぼくはその糸に
恐竜の涙でこしらえた
小さな虹色の星をとおしてゆくんだよ

恐竜の涙は不思議な玉で
うっすらとすきとおって
時々 あるのやらないのやら
わからないように点滅して
蝋燭のともしびのように
消えてゆこうとする
けれども 決して消えはしないんだ

恐竜はもう とっくの昔に滅んでしまったけれど
恐竜の涙は まだ残っているんだよ
誰にも教えない ぼくだけが知っている
秘密の地層から ぼくが発掘してくるんだ
貝殻や かわいい古代魚の化石といっしょに
それは地層の中に眠ってる
ぼくがそれを見つけると
涙はうれしそうに 栗鼠のような鳴き声で答えてくれるんだよ

ほんとうに ほんとうに
長い間
恐竜の涙は 自分を誰かに見つけてもらうのを
待っていたんだ

ぼくはその恐竜の涙を
光の糸に通して 
きれいな首飾りを作る
でも首飾りは女の子の首を飾ったりはしないのさ
十分な長さにして輪にしてあげると
風の中で くるくる回って
昔の蓄音機から流れてくる
古い音楽のように
ふしぎな歌を歌い始める

誰も知らないだろう
恐竜が生きていたときには
神様が地上にいつもいて下さって
ふしぎな歌や踊りで
恐竜たちをなぐさめてくださっていたことを

生きることは 苦しかったんだよ
恐竜も 苦しかったんだよ
だから涙を流していた
いつも流していた
空を見ては 何かを探していた
それは大切なもの
忘れてしまっては悲しすぎるもの
でも決して思い出してはいけないもの

神様はいつも 
歌って 踊って
悲しみが恐竜の心を全部溶かしてしまわないように
気をつけてくれていたのだ

さみしい恐竜の涙を
ぼくは秘密の地層からとってきて
小さな首飾りのような輪にして
はるかかなたの歌を聞く
そしてわかる

今でも神様は 
どこかで歌って 踊っている
ふしぎな 聞こえない歌
踊りは喜びの風になって 世界をかき回す
ぼくたちの心が 悲しみに溶けてしまわないように

ああ 愛が
雨になって降ってくる
光の水になって 降ってくる
ああ 苦しかったんだよ
ぼくは とても
でも もういいんだ

神様の 愛の雨が降っている





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小鳥

2015-04-05 06:33:35 | 瑠璃の小部屋

あおぞらを 野に敷いて
ことり小鳥よ 来いや来い
野は空でいっぱいだ
果てもない青でいっぱいだ
どこまでいっても深くて青い
ことり小鳥よ 来いや来い

小さな白い小鳥よ 来いや来い
のっぱらに青空は光り
水もないのに ころころ歌う
まるで清水の湧く音のように
どこからあふれてくるのか
ああ この胸の思いは

あおぞらを 野に敷いて
ことり小鳥よ 来いや来い
すばらしい おてんとうさまの
金の鈴は どうやったらもらえるのだろう
きっと小鳥は かわいい心で
とてもいいことを したんだね
だから おてんとうさまがくれたんだ

ああ ことり小鳥よ 来いや来い
その澄んだ金色の声を
聞かせておくれ
秘密の歌のことばを 聞かせておくれ

ことり小鳥は降りてきて
ぴるるるる と一息歌い
野に敷いた あおぞらに
はるかな青に とけてゆく

あおぞらを 野に敷いて
ことり小鳥は きれいに歌う
かなしまないで
かなしまないで
空いっぱいに塗った 青い光の下で
静かに隠れている星が
ちょうちょうのように
あなたの耳にとまる
そうすると 貝が真珠に隠した
神様の声が聞こえてくるよ




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2015-04-04 07:29:12 | 瑠璃の小部屋

ぼくを入れる 小さなお棺は
透き通った水晶でできていて
太陽の光に染まった
きれいな水が入っている

底には 金色のバイカモが
光を跳ね返しながらきらきらと揺れていて
時々 透明な岩魚が翻って
宝石のような光の模様を
水の中に描くのだ

ぼくは 青ざめた顔をして
その中に入ってゆく
水が入っているけれど
濡れたりはしないんだよ
それは不思議な水だ
足を入れると かすかな波紋が広がる
少し経つとそれは
ふしぎな薄紫色の花になって
水の上を睡蓮のように浮かびながら
静かな歌を歌う
それは 柔らかな白い真綿の上に
ひとつぶの真珠を落としたかのような
かすかな歌声だ
けれど 痛いほどぼくの胸を刺す

故郷は本当の故郷ではなかった
確かなものは 確かなものではなかった
本当だと思っていたことはみな 嘘だった

悲しいけれど 喜んでいるふりをし続けてきた
ぼくの愚かな努力は 笑うに笑えない道化の
下手な芸でしかなかった


て 笑うのはぼくだ
ぼくの下手な芸を笑うのはぼく
ああ 本当のことを知っていたのに
ぼくは 嘘の王様に滑稽なギャグを言い続けた
みんな嘘だって知っていたのに
何も言えなかった
言いたかったんだよ ほんとうは君に

それ みんな嘘だろう?
ぜんぶ こんなの お芝居だろう
こんなことが どうして幸せなんだ?

ああ ぼくはぼくのお棺に
片足を入れ もう片足を入れ
金色のバイカモの上に静かによこたわってゆく
水は入っているけれど
濡れたりはしないんだよ
ただ 水に溶けている日の光に
染まってゆくだけだ

棺に横たわったぼくを
光が溶かしてゆく
ぼくは 水晶の中の不思議な炎で
静かに燃えていく
そうして
しばらく眠った後 ぼくは
いつしか 虹を秘めた白い蛋白石の
きれいな骨になっているのだ

透き通った岩魚が
ぼくの思考が入っていた頭骨の中を
ひらりと通り抜けていく
そのとき ぼくは
ああ と声をあげた

今 ぼくは 本当のことが わかった




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鳥音渡第2詩集・菫色の空

2015-04-03 06:45:35 | 瑠璃の小部屋

これは架空の詩人、鳥音渡の第2詩集である。鳥音渡が死の間際に残した詩集だという設定で、そのせいか、どこか詩集にかすかな死の匂いがする。
かのじょ自身も運命の流れの中で、何かに感づき始めていた。本当は、かのじょはもう疲れ果てていた。われわれがバックから支援しないと、何も書けないほどになっていた。

これらの詩群はみな、われわれが、かのじょの精神の底辺を支えながら、書いてもらったものだ。わたしたちがかのじょの疲れ果てた精神にエネルギーを注ぎ込むと、かのじょは水を得た魚のように、美しい言葉を書き始める。
かのじょは、あらゆることに耐えて、みんなのためにがんばってくれた。だが人間は誰もかのじょを助けなかった。

詩集の中にはかのじょのそんな淋しさが、笛の音のように流れている。

明日から計12編、一日に1編ずつ紹介していく。




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酸素のない森

2015-04-02 06:47:59 | 瑠璃の小部屋

そこは 暗い砂の洞窟の向こうにある
酸素のない 灰色の森の中を
石の魚が 泳いでいる
木々の梢は まるでモザイク画のようで
その複雑な模様の向こうに
何かが隠し絵のように動いているような気がする

世界を 逆に見てしまえば
こんな風になるという感じだ
どう見ても おかしくないようで
どこかが おかしい
何が おかしいのだろう

酸素のない森で ぼくは
金の林檎をかじりながら 歩いている
その林檎には 濃い酸素が含まれていて
それに口をつけている間は
ぼくは呼吸ができて 生きていられるのだ
林檎は すっかり食べてしまうと
いくつか種が残る
その種を森の土に植えると
あっという間に金の林檎の木が生えてきて
ぼくはまた 金の林檎を一つもいで
それを噛みながら この不思議な世界を歩いていく

だれか 見えない人が
ひそひそと 誰かの悪口を言っている
ぼくはそれを聞くと 悲しくなる
ああ 神様がくれた 君のくちびるを
そんな言葉で汚してはいけないよ
神様は 君のくちびるを
薔薇の花のように 美しく作って下さったのに

また 金の林檎を食べつくしてしまったので
ぼくはりんごの種を土に埋めた
そのとき 後ろから誰かがぼくをよぶ声がした

ああ もういいよ 君
十分に 林檎の木を植えてくれた
それで だいぶたくさんの人が
この酸素のない森で 生きてゆくことができる

ぼくは後ろを振り向いた
すると 数歩先でもう森は途切れていて
その向こうに 美しく澄み渡った
菫色の空が見える

ああ そうか やっとわかった
ぼくはまちがえていたんだね
本当の世界は あっちのほうだったんだね

ぼくは酸素のない森を出て
菫色の空に向かった
清らかな水のような酸素が
涼しく肺に入ってくる
ああ 生きることが
こんなに楽だったなんて
知らなかった




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どこへ

2015-04-01 06:38:22 | 瑠璃の小部屋

海の魚 空の鳥
風の蝶々 砂の真珠
にんげんの 声

昼の太陽 夜の星
秘めやかに照る 昼の月
愛に濡れる 夜の月

川の蛙 鳴く
草むらに光る 花
すみれ たんぽぽ のぎく
のばら はこべ みみなぐさ
なのはな なのはな なのはな
まっしろな だいこんの はな

走る 人
燃える 獅子
銀の 茶碗
金の 匙
ガラスの 鈴
黒い 酒の瓶

緑の 麦
米を溶かした 乳
おかあさんの 胸
眠る 赤ん坊

こどもは 夢の中で
月に 飛ぶ
銀の栗鼠 飼う
胸の籠
かすかな 痛み
ちいさな 涙
ああ

どこへゆくのだろう
ぼくは




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コイン

2015-03-31 07:04:18 | 瑠璃の小部屋

オレンジ・ケーキの中に
小さな金のコインをひとつ
隠しておいた
誰か当たった人には
幸せが来る
どんな幸せかな

オレンジ・ケーキを切り分けて
みんなに分けてあげよう
幸せだな だれに届くだろう
金のコインにこめた
小鳥のような はちみつの愛のささやき

あ 誰かに当たったみたいだ
ケーキの中からコインを取り出して
幸せそうに笑いながら
みんなに見せている
みんなもうれしそうに言っている
よかったねえ 今日は君が
いちばんの幸せ者

ぼくはわくわくしながら見ていた
コインを当てた子は
金色のコインを明りにかざして
きらきらするのを嬉しそうに見ている
ああ ほら
ぼくがコインの中に込めた
愛のささやきが落ちてくるよ
ほうら今 君の口の中に入って行った
甘いだろう 信じられないくらい
ミントよりすがすがしくて
オレンジよりもあたたかくて
りんごよりも甘酸っぱい

君が大好きで 抱きしめたい心を
神様はいつも我慢している
だって神様に抱き締められてしまったら
人間は愛に溶けてしまうから
だからぼくは かわりに小さな詩人になって
オレンジケーキの中の秘密に
神様の愛を隠したのだ

金色のコインは君の宝物
神様からもらった愛の宝物
そこからしたたり落ちる愛のささやきは
金色の小鳥の一節の歌
君のこころに 愛の卵を生む

今日の一番の幸福者は君
神様が選んだ 君
ああ きっと君は幸せすぎて
明日から 神様の愛を誰かに伝えたくて
たまらなくなるだろう

そしてきっと 小さなレモンパイをつくって
その中に かわいい銀の鍵を隠すのだ
小さな幸せの歌をこめた

次の幸福者は いったい誰だろうね




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すきとおった悲しみ

2015-03-30 07:05:48 | 瑠璃の小部屋

すきとおった 悲しみを
小さなガラスの りんごにして
ろうそくのように 火をともしてみた
すると炎は りんごの中で
星のように 火花を散らしながら
くるくると回って 歌を歌うよ
ふしぎな色の 歌を

すきとおった 悲しみを
小さなガラスの 魚にして
火をともして 池に放ってみた
すると魚は 水の中で
ぴちぴちはねて 泳ぎながら
歌を歌うよ ふしぎな光の歌を

透明な水が 水晶の板のように
つやめいて そこから虹が立ち上る
夢のようにきれいな七色を織りあげながら
ふしぎな香りを放つ虹が
空に向かってのぼってゆく

ああ 空は深い 菫色だ

すきとおった 悲しみを
ほんの小さな 微笑みにして
君にあげるよ
するとぼくの瞳から
ちいさなすきとおった星が生まれて
君の心臓の中に溶けてゆく
ああ

まだ君はきづかないけど
きっといつか きづいてくれるね
だれだかわからないけれど
自分を愛してくれた人が
いたってことに




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2015-03-29 07:08:00 | 瑠璃の小部屋

春の風にかくれて
ひとびとの 青いため息が吹きだまった
小さな日陰の 池を見に行った
小さな池は 鏡のように
凍っているように見えたが
春は日陰にも ささやかに暖かさをくれるので
凍ってはいない
ただ 小さな風のささやきにさえ
耳をかそうとしないだけだ

悲しみを忘れるために
みんながため息の中に捨てて吐いていったものは
一体なんだろう
ぼくは池をのぞきこむ
でも 池の底は灰色の泥に覆われていて
そこに何があるのかはわからない
けれど 奥底の方から
ゲンゴロウに似た青い水棲昆虫が出てきて
水面から顔を出して しばらく息をしては
また池の底に戻ってゆく

青い水棲昆虫は 
まるで瑠璃のさざれ石のように美しい

ねえ 悲しくはないのかい
ぼくは池の底に向かって話しかける
答えてくれるものはいない
池はガラスのように凍っているふりをして
ずっとぼくからそっぽを向いている
ぼくは池に自分の顔を映してみた
ねえ 悲しくはないのかい

すると池に映ったぼくは
それは淋しそうに笑っていうのだ

泣けたらいいんだけどね
泣けないんだよ
泣きたいのに 本当は泣きたいのに
泣けないんだよ

すると 青いゲンゴロウがふと
水面に映ったぼくの目に入ってきて
それは不思議な涙のように光りながら
ゆっくりとしたたり落ちたのだ

ああ どんな小さな
はかない池にも 小さな虫がいる
ひとりぼっちじゃないことを
だれかがぼくたちに教えようとしているかのようだ

ああ そうだよ
君はひとりぼっちじゃない
風と光を混ぜて 神様が作った
愛のおべんとうを
君が持っていることに まだ気が付かないだけなんだ

春は光に満ちてきて
悲しみを埋めてゆく
淋しくなんかない
悲しくなんかない
世界はすべて 愛でいっぱいだ




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