わたしに
いとおしいと 言ってくれる人は
いなかった
父も 母も 子供の頃にいなくなったし
わたしはどこへいっても邪魔者で
役立たずで だから
一生懸命 そこにいてもいいというものに
なろうとしていた
そのためには
世話になっている人のいうことは
なんでもきかなければいけなかったし
馬鹿だと言われても
やっかいものだと言われても
はいそうですと 言うことしかできなかった
わたしには この世界で
いるところがなかった
ああ 何度夢見たことだろう
風のようなものになりたいと
暖かな炎を心臓に燃やし
風のように 誰にも見えないものになりたいと
そうすれば いる場所など必要なくなる
嘘と真実の間の境界に
無理矢理ナイフを刺しこんで
悲鳴のような嘘をつこうとして
つくことができずに
心がこわれてしまいそうになることもない
そうとも わたしは風なのだ
見えても だれにも見えはしない
わたしの心も わたしの瞳も
もはやはるかかなたに飛んでいってしまった
わたしはだれか?
ここにいる わたしはだれか?
わからない
確かにわたしは 地球上のある場所にいることはいるのだが
ほんとうはどうやら いないらしいのだ
どういう仕組みでそうなったかはわからぬが
なんだかわたしは とても変わったことになってしまったらしい
風の声を聞く
光の歌を歌う
野のしとねを仮の家として
たんぽぽのごとく横たわる
胎児の心臓の音に耳をすますごとく
地球の声に耳を澄ます
白い魚が 耳の奥で光る
小さく ぱしゃりとはねる
見えぬが いるぞ
わたしは
見えても おらぬぞ
わたしは