世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

2013-02-05 06:34:58 | 詩集・貝の琴

昔は 
宝物をいっぱい 持っていた

大きな翡翠の実 真っ赤な真珠
青い珊瑚 金の冠
絹の羽織に 空のような傘
白い牡牛の引く 螺鈿の車
銀の鈴なる 月毛の馬
月の桂の香りする 館
青い海のほとりに住む 美しい乙女なる 妻
すなどりなどして 春と秋にはともに住み
冬と夏には別れて住んだ
潮の香りのする文が 彼女から届くのが
それは幸せだったからだ

長い年月が経った
妻はいなくなり 館もなくなった
馬も牛も傘も服も金も珊瑚も珠玉も
すべて 消えた
砂時計の 砂とともに
時の中に吸い込まれていった
別に かまわないのだ
幸せのそれはふちどりにすぎなかったから
それはきれいなふちどりであったが
わたしは 簡素な幸せでも かまわない

なのに

猫が一匹 残った
猫が

わたしのもとに 残った
たった一つの 宝は
一匹の 水晶の目をした 白い小さな
猫 だった



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1 コメント

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絵の解説 (てんこ)
2013-02-05 06:42:18
竹内栖鳳、「斑猫」。

「はんみょう」と読む。
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