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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

真鍮の風

2013-05-05 07:06:08 | 詩集・貝の琴


ほしきものの かずかずを
心去りて 気狂ひし オフェリアのごとく
満身に花と飾り 歌歌ひて
絹のスカートを風に揺らし
胸元のレースをもてあそび
蝋燭の火のごとき
赤き珠玉の宿る光を 唇に塗り
笑ひ笑ひて 風にきしる
鳥の声のごとく叫びぬ

重き罪を
石のごとき鉢にかぶり
見えぬ顔で笑ひ
笑ひ 魂の去りゆきし 
蛇の宿る眼に
憎き者探す 邪悪なるもの生きる
そ ら を 夢に染めよ
見はて 見はてぬ夢に 染めよ
虹のごとき色にて大気を汚し
真鍮の空気で さいはひの
高殿を建てよ
砂 砂 砂 ばかりの 荒れ野に
幻の 貧者の金の 塔が
そびえたつ

喜べ よろこべ あまたのものよ
われわれは 阿呆 ではない

馬鹿だ



コメント (1)
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空に

2013-05-02 07:03:13 | 詩集・貝の琴

かなしみを 鳩に託して
空に解き放つ
影を塗られた
君の微笑みの仮面の
割れ目に潜む
ちいさな黒いトカゲが
白アリのように
君のたましいをむさぼっている

なにがほしいときくと
君は言う
おまえが ほしいと
わたしが ほしいと
君はだれにでもそういう
すべてが ほしいと
自分以外の すべて

悲しみを 鳩に託して
空に解き放つ
地上をただよう
硬い幽霊の群れが
何もない空っぽの魂を抱いて
歩いていく
風の中を泳ぐ
見えない魚が
ミントの香りを放ちながら
君の心臓を通り抜けていく

悲しみを鳩に託して
空に 解き放つ
見てしまった真実のかけらに
わたしの心臓は
水をたっぷりと吸った海綿のように
重く垂れさがる
けれども

夢のように 希望を解き放ち
静かな声で歌うわたしの
誰の耳も染めぬその声を
風がさらってゆき
白い鳩の翼を染めて
太陽に溶けてゆく

悲しみを鳩に託して
空に解き放つ




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刺繍

2013-04-18 06:59:38 | 詩集・貝の琴

けっしてやってはいけないことを
あなた方は今 たくさんやっている
それを今 すべて教えるわけにはいかないが
いずれあなたがたにも
わかるときがくるだろう

ルーヴルの宝と言われているものの中に
たくさんのガラクタに等しいものがあることを
あなたがたが その真実の感性で
わかるようになる その時は来るだろう

一体自分たちは何をしていたのかと
あなたがたは たいそう驚くだろう
夢よ
幻の虹のごとき夢よ
あこがれのとけた金のワインの中で
まどろむ魂が目を開けるとき
あなたは 絹を裂くような人の叫びを聞く

新しきものを 作れ 人々よ
それは あこがれのすたあの並ぶ
きらびやかな光の舞台にあるのではなく
小さな再生紙のメモ帳に描かれた
一匹の青い蝶の中にあるのだ

光を探せ 音を探せ 色を探せ
闇に塗り込められた はるかな記憶を探せ
神が小さきあなたをあやす
ささやきのごとき 美しい愛の衣が
あなたを包んでいた頃の
甘やかな花の香りのごとき
あなたのまことの美しさを

それは巨大な神殿の奥に垂らされた
掛け軸の中に描かれた神の姿の中にあるのではなく
母の薄紅色のエプロンに縫い付けられた
青い花模様の刺繍の中にあるのだ




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いがぐり

2013-04-16 03:33:37 | 詩集・貝の琴

ちいさないがぐりの形した
かわいい人形を買った
修学旅行のおみやげに
おかあさんに あげようと思って

よろこんでくれたら
うれしいなって
思って 家に帰ったら
箱ごと渡した
でも おかあさんは
特に興味もない様子で
さっさと隅っこにおいて
それきり忘れたみたいだった

そんなもの買ってきても
どうせわたしの稼ぎなんだからと
言われた覚えがある
それはかなり わたしの心臓深くに
棘刺さって まだ抜けない

悪いことしてしまったのかな
馬鹿なことしてしまったのかな
どんなにがんばっても
よいことができないのはどうしてだろう
なんでわたしはいつも へまばかりやるのだろう

そんな思いが 日に日に
わたしの心に塗り重ねられていく
墨のように 黒い影が深まっていく

忘れたつもりだったけれど
今でも鮮明に思い出すのは
まだ癒えていないからだろう

痛いことは終わればもう痛くないから
すべて忘れて 明日に飛び込もう
わたしはそれでずっとやってきた
そうしたら 気付いた時には
わたしの心臓はまるでいがぐりのように
棘だらけになっていた
刺さった棘は 無理に抜こうとすると痛い
とても複雑に絡みついていて

甘すぎて優しすぎる自分の弱さは
こんな風に 皆に嫌われてできたのだと思う
わたしはよくたくさんの人に嫌われた
特に悪いことなどした覚えはなかったが
わたしがいるだけで 人は気持ちがいやらしくなって
その自分のいやらしさがいやで
人はわたしに気持ちをぶつけてくるのだった

心臓の棘は 時間をかけて
ゆっくり抜いていかなといけないらしい
それにはもう 残りの人生すべての時間がかかるらしい
わたしは 自分ではわからないが
ほんとうに 大変なことになっていて
とても深く傷ついているらしいのだ
心が崩れないように 誰かが支えてくれているのには
本当はだいぶ前から気付いていた

いいんだよと言った あのときのわたし
痛いことは終わってしまえば痛くない
すべて忘れて ないことにして
明日の光を浴びるために前に進もう

愚か者とはわたしのことか
彼は 少しは自分を大事にしろと
言いたいのだろうな




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あをあをと

2013-04-15 06:41:40 | 詩集・貝の琴

うるはしくも あをき くすのきの
ひめたる 愛の ささやきをいま
ここにあかさむ
あをあをと きよらかなるそのこころの
なにをあいし なにのために
なにをなして来しかを

野の隅にひとり立つ こどくなるくすのきは
神の心吐きたまふ 星光の
かすかな歌に 愛を載せ
あなたがたに 決して
痛きかなしみのかげが
よりつかぬやうにと
きよらかな魔法を行ひて立ちをりき

知らずともよい 知らずともよい
何の縁か そこに立ちてをりし
くすのきの あをあをと清き心は
誰知らぬ 清らかな歌を
木漏れ日と風に騒げる梢の音と香りと
決して見えはせぬ愛の微笑みにて
歌ひをりき

人を愛し 人の生くる苦しみを
少しでもかろくせむがために
水晶に宿りし星のごとく
甘やかにも悲哀のうるはしく変容せし
澄みとおりし愛にて あなたがたを包み
守らうとしてありき

誰も知らぬ 誰も知らうともせぬことを
わたしはいふ
一本のくすのきの
倒れし ちひさき町にて
消えゆきし愛の何なるかを
わたしはあなたがたに教ふ

かろがろと 木を切ることなかれ
人よ
一本のくすのきのうつくしき心に
きづくことならぬ人の心の
いまだちひさきことを
かみしめよ

鉄の鉈に血を吸われ
倒れゆきし木の
痛みも苦しみも ひとときのことにて
すべては よきことのみとして
なに責むることなく消えゆく愛の
愛たることのうつくしきを

ああ 青空に吸はれゆきし
その魂の声を
かすかにも 耳の鼓膜に触れることに
人よいつか その思ひ目覚め
胸の心鳴り 涙にじむこと
なせるやうにと

わたしは 願ふ



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ある

2013-04-07 06:37:42 | 詩集・貝の琴

感性

意志













存在



エネルギイ

言葉

ある

すべて 備わっている

わたし

わたし

わたし

わたしは わたしの わたし

ある

いる



すべては

わたしだったのか




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帰って来い

2013-04-06 06:52:27 | 詩集・貝の琴

帰って来い おまえ
父ちゃんの家に 帰って来い

小さな畑だが 豆がたくさん育っている
母ちゃんの作ってくれる豆粥は 
そりゃあうまいぞ
いり豆もあるぞ

隣村の親戚のヤギが 双子を生んでなあ
雌ヤギを一匹 分けてくれた
もう少し大きくなれば 乳を飲ませてくれる
山にゆけば きのこが採れる
川にゆけば 鮒がいる
子供の頃よく一緒に釣ったなあ
ああ もう少し寒くなれば
庭の柿の実が ちょうどよく熟れてくる

せまい家だが お前の寝るところくらいある
しばらくは 父ちゃんと同じふとんだが
豆を市場で売って金ができたら
おまえのふとんを買おう

もう帰って来い
おまえは そんな暮らしが
できるやつじゃない
ほんとうはもう
なにもかも いやになっているんだろう
父ちゃんは おまえのことが
いちばんわかる

待ってるぞ 帰ってきたら
いちばんに 抱きしめようおまえを
どんなにか
待っていたか
おまえを
愛していると言おう

涙がすべてを洗い流してくれる
すべてを

もう我慢しなくていい

帰って来い




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さくら さくら

2013-04-04 06:40:47 | 詩集・貝の琴

さくら さくら
れんぎょう
ゆきやなぎ

花が 愛したいと
思うと 風が 来る
神さまの すきとおった
指のように

なずな なずな
ひめきんぎょそう
しろい すみれ
おらんだみみなぐさ
ヒマラヤすぎは 青い

神さまの 指は
やわらかな ガラスでできていて
せんぼんもある
風の中を 魚のように飛んで
花をゆらしにくる

はやくゆかないと
愛したいのに 動けない と
花が小さな涙を落とすから

からすのえんどう
たんぽぽ なのはな
はなかいどう
もくれんが 風に散る
白い花びらは
小さなお人形の
ブラウスをつくるのに
ちょうどいい 布

きれいだね
去年よりずっと きれいだね
わたしを 深く愛してくれる

去年は 犬と一緒に歩いた
花の散歩道を
今年は ひとりで歩く
時は 風といっしょに流れてゆく
記憶の 小さな割れ目に
すいせんの香りを塗り
わたしは何かをしばし忘れる

ながみひなげしは
今年 咲いてくれるだろうか
去年は 少ししか咲いてくれなかった
何かつらいことがあったのだろうか
花はときどき
種はあっても 自分の意志で咲かないときがある
今年はいっぱい咲いておくれ

さくら ゆきやなぎ
せんだんはまだ はだかの枝
くすのきは
月の空




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その身の

2013-04-02 06:46:28 | 詩集・貝の琴

おまへの
耐えがたきも耐ゆるべき
その罪の重さの
林檎よりも軽く
月よりも重きものを
そも
いづへにか
連れ去らむとす

灰色の猫のまなざしが
ひそやかにおまへを追ふ
インド翡翠の小さな夜蛾が
静けさに舞ひ踊りて
かすかに月光の地に落つる音を
おまへに伝へむとす

言ふべきことも
言はぬでよきことも
どちらも悲しい
おまへのために秘する
蛾に記してありし
愛を 未だ生まれぬ
こいぬのまなざしの中に閉ぢこめ
月満ちて生まれくるものを
またむともするか

悲しみよ
林檎を選べば おまへは落ちる
月を選べば おまへは落ちぬ
だが

逃げるおまへの足元から
珊瑚が光を産卵するかのように
インド翡翠のかけらが飛ぶ
翠の光に囲まれて
おまえはまるで
夜光虫をまとった幽霊のようだ
どんどん消えてゆく

足元のくぼみにつまずき
声もなく倒れるお前の背中に
小さな猫の眼球が二つ
びいだまのように転び
にゃあ と鳴く

いつまで いつまで
逃げる気か



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葡萄色の夢

2013-04-01 06:58:32 | 詩集・貝の琴


葡萄色のビロードのカーテンに似た
砂のような霧の幕が晴れるとき
君は初めて知るだろう
今まで 自分が何をしていたのかを

何もかも 幸せだと思っていたものは
おかしなキノコを食べて見ていた
古いアニメのような夢だったことを
君は初めて知る
すべては あまりにも 君が
何も知らなかったからだ

道化よりも恥ずかしい
とりどりの色や文様や宝石の光を縫いつけた
珍妙な鳥のようなその服を
着ているのが恥ずかしくて
早く脱ぎたいのに 君は
代わりの服を持っていないんだ
だって ほかの服はみな
馬鹿みたいなものだと思って
捨ててしまっていたから

ぼくは 風の精にお願いして
一組だけ 白い綿のシャツとズボンを
貸してもらった
そうやって君は
ようやくあの服を脱げたのだけど
恥ずかしさだけはまだ脱げなくて
森の中へ走って逃げてしまって
そのままどこかへ行ってしまった

ああ 逃げることなどないのに
みんなとっくにわかっていたのに
君の気持ちは ずっと前から
みんなわかっていたんだよ
だから 隠れていないで 出ておいで

みんな同じだよ
恥ずかしさに耐えて
それでも生きていく
馬鹿だったのは君だけじゃない

帰っておいで




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