日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

最後のランチ(19)

2014-04-10 23:35:14 | B級グルメ
修行を重ねた料理人による本格的な和食を楽しめるのが、先日紹介した「丈太郎」だとすれば、いわゆるおふくろの味といえるのが、すぐ近くにある「紅緒食堂」でした。
ところどころに料亭が建つ裏路地に建つマンションは、かなり古びていながらも、凝った造りからして当時の最先端を行く建物だったと見受けられます。その建物の奥まった区画で、無口で無表情な店主が一人でひっそり営業していたのがこの店です。

出窓を使った小さな部屋は、元々は喫茶店か何かだったのでしょうか。しかし、場所柄店舗に適しているわけでもなく、店舗でなければ何だったのだろうと想像させられます。こぢんまりした店内には、白木を門型に組んだカウンターが一本あり、背後にはこれまた白木で角形に組まれた食器棚が据え付けられて、整然と並んだ食器と調理器具を眺めるだけでも、この店は違うということが一目瞭然です。後ろにあるテーブル席とソファ席も、椅子、テーブル、クロスの全てが凝っており、女性店主ならではの細やかな感性というものが感じられました。
900円の定食は、大皿の中から主菜を二つ、副菜を一つ選び、あとはご飯に味噌汁という組み合わせで、どれも手作り感に満ちています。夜にはさらに品数が増え、定食も一品追加で1300円という価格設定のため、軽く一杯引っかけてから定食で締めくくるにも好適と見ました。
しかし、それを試す機会がないまま店が次第に休みがちとなり、やがては一月のうち空いている日が十日そこそこという状況になって、ついに飛び込んできたのが閉店の知らせでした。店主の地方転居が理由だそうで、休みがちになっていたのもそのことと関係があるのでしょう。まず思いつくのは家庭の事情ですが、立ち入ったことも聞けないまま閉店の日を迎えてしまいました。

真偽のほどは不明ながら、店のblogによれば、転居先での再開をにおわせるような言葉もありました。今のところ実現したという話は聞かないものの、忘れた頃に告知が出るかもしれません。もしそうなったときは、旅のついでに何食わぬ顔で訪ねてみようかと思っています。店主の人柄からして、向こうもおそらく何食わぬ顔で迎えてくれるでしょう。
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