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古典の季節表現 冬 十一月初卯日 相嘗祭

2017年11月22日 | 日本古典文学-冬

 十一月にもなりぬれば、斎院の相嘗(あひむべ)の程、いとゞ見捨てがたくて、御神楽の夜にもなりぬ。例の、殿上人・上達部、参り集(つど)ひて、御前の庭火、おどろおどろしく、昼よりもさやかなり。御几帳の帷(かたびら)、菊の織物どもにて、咲ける籬と見えたるに、女房の袖口ども、紅葉襲の打ちたるどもに、同じ色の二重(ふたへ)織物の表着(うはぎ)、龍胆(りんだう)の唐衣、地は薄きに、文(もん)は、いと濃く織り浮かされたるは、ほかの色にも似ず、なべてならず清らかなり。物の音(ね)ども、掻き合せ、こなたかなたの楽の音(をと)も、ほかの遊びにも似ず、篳篥(ひちりき)の、すぐれて響き出でたるは、いとおもしろし。(略)更けゆくまゝに、雪、折々うち散りて、木枯、あらあらしう吹しきりたるに、庭火、いたくまよひて吹きかけられるゝを、払ひ侘びつゝ、煙の中よりにがみ出たる主殿寮(とのもづかさ)の顔ども、いとをかしう見やられ給ふにも、
 おぼろけに消(け)つとも消えむ思ひかは煙の下にくゆりわぶとも
など、思ひ続けられ給ふにも、「今日、明日」と、それにつけても、さしも、猶安からず思(おぼ)え給。暁になりて、事果てぬるに、さるべき上達部など、受け取りて、謡ひ遊び給へる、なまめかしうをかしきに、大将殿、「明星(あかぼし)」謡ひ給へる、扇の音(おと)まで、なべておもしろきを、「神も耳とゞめ給ふらんかし」と聞ゆるに、うちうめかるゝ声ぞ、心後(をく)れたるやうなる。あくるまで遊びて、まかで給ふに、さまざまの、女房の装束・細長・小袿など、押し出でさせ給へり。
(狭衣物語~岩波・日本古典文学大系)


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