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古典の季節表現 十一月 大嘗会、豊明節会、五節

2013年11月29日 | 日本古典文学-冬

同十一月十三日福原には、内裏造出して、主上御遷幸有り。大嘗會あるべかりしかども、大嘗會は十月の末、東河に御幸して、御禊有り。大内の北の野に齋場所を作て、神服神具を調ふ。大極殿の前、龍尾道の壇下に、迴立殿を建て、御湯をめす。同壇の竝に、大嘗宮を作て、神膳を備ふ。宸宴有り。御遊有り。大極殿にて大禮有り。清暑堂にて御神樂有り。豊樂院にて宴會あり。然を此福原の新都には、大極殿も無ければ、大禮行ふべき處もなし。清暑堂無れば、御神樂奏すべき樣もなし。豊樂院も無れば、宴會も行はれず。今年は唯新嘗會五節許有るべきよし、公卿僉議有て、猶新嘗の祭をば、舊都の神祇官にして遂られけり。
五節は、淨見原の當時、吉野宮にして、月白く風烈しかりし夜、御心を澄しつゝ琴を彈給しに、神女あま下り、五度袖を飜す。是ぞ五節の始なる。
(平家物語~バージニア大学HPより)

文和三年十一月大嘗会悠紀方の額書とて、代々の古本をみ侍て 従二位行忠
みるたひに思ひそいつる水くきの跡はわすれぬよゝのかたみを
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

流れて早き月日にて過ぎもてゆけば、五節に、中宮の女房、「梅鶏舌を含むで」といふ詩を装束きたり。梅の織物、香染、紅梅の紅に匂ひたるなどなり。「緑の文を帯びたり」とてしたる緑の衣着たり。殿上人誦じなどしていとをかし。唐衣の紐などにやがてこの詩を結びたり。八重紅梅の唐衣など色々にをかし。
(栄花物語~新編日本古典文学全集)

殿の大納言、五節出させたまふ。皇后宮の女房、中﨟、下﨟のきたなげなきどもを出させたまふ。われはと思ふ際のは出させたまはず。装束、有様いふ方なし。この御時には制ありて、衣五つなどあれど、厳しからねば、さるべき所どころにはいみじくせさせたまふ。後一条院の御時こそはかかりしか。女房、童女、下仕の装束、人々当りて、心も尽すともおろかなり。中宮より童女の装束奉らせたまへり。紅の打ちたるに、菊の二重文の、その折枝織りたる衵、蘇芳の汗衫、竜胆の上の袴、みな二重文なり。打ちたる袴など、例の事なり。瑠璃を文に押しなど、いみじう尽されたり。世の中にめづらしき五節の有様なり。
(栄花物語~新編日本古典文学全集)

十一月十四日の夜、雪いとおもしろく、みちたえてつもりにけり。夜番にて、花山院宰相中將・頭中將など候ひけるも、院の御所へ參りにければ、人々清凉殿へたちいでゝみれば、竹にさえたるかぜのおとまでも身にしみておもしろきに、月はなほ雪げにくもりたりしも、中々見所あり。大宮大納言・萬里小路大納言などまゐらせたまひて南殿にてよもすがらながめ給ひけるが、曉がたことにさえたりければ、うへのをのこども、殿上のをりまつめしけれども、つきたるよし申ければ、ひろ御所のきたむきにて、かれたる萩の枝など、をり松にせられけるときゝし、いとやさしくて、辨内侍、
霜がれのふるえの萩のをり松はもえ出る春の爲とこそみれ
有明の月くまなかりしに、雪のひかりさえとほりて、おもしろくみえ侍りしかば、常の御所のかうらんのもとへたちいでたりしに、公忠の中將・大宮の大納言殿の、すゞりこはせ給ふとて、もちてまゐりしも、いづくの御文ならむとゆかしくて、辨内侍、
明けやらでまだ夜は深き雪のうちにふみゝる道は跡やなか覽
十四日のよ、少將内侍女く所へわたりゐて、心ちなほわびしくて侍りければ、なにごともしらずふしたるに、曉がた、はるかに雪ふかきをわけいるくつのおとのきこゆるにおどろきて、こゝちをためらひて、やをらおきあがりてきけば、「大宮大納言殿より。」といふこゑにつきて、つまどををしあけたれば、いまだ夜はあけぬものから、雪にしらみたるうちのゝけいき、いつのよにもわすれがたくおもしろしといへばなべてなり。御ふみをあけてみれば、
こゝのへのうちのゝ雪に跡つけて遥に千代の道をみるかな
その雪のあした、少將内侍のもとより、
九重にちよをかさねてみゆるかな大内山の今朝のしらゆき
返し、辨内侍、
道しあらんちよのみゆきを思ふには降る共のべの跡はみえなん
(弁内侍日記~群書類從18)

五節は十六日よりはじまる。月ことにさえておもしろし。丁だいのこゝろみ、ふたまよりやをらみやりしかば、攝政殿・内大臣殿・おほみやの大納言殿、のこりの人々はいともみえわかず。
とらの日、月いとあかきに、五節所へ行幸なりしに、攝政殿まゐらせ給ふ。左大臣殿御供にまゐらせたまひたりしが、御ぶんとていだされたりしくしを、御ふところへいるゝよしにて、さながら御袖のしたよりおとさせ給ひし御ことがら、いひしらず見え給ひしかば、辨内侍、
霜こほる露の玉にもあらなくに袖にたまらぬ夜半のさし櫛
御覽は、殿いたさせ給ふ。わらはもなべてならずみえ侍りき。ひとりはふるきはしたもの、ふくらかにうつくし。いま一人はいづくのきみとかや、ほそらかに思ひいれたるけしき、とりどりなり。人々ことにもてなして、かざみの袖などつくろひ侍るもめとまりて、辨内侍、
あかずみるをとめの袖の月影に心やとまる雲のうへ人
節會は十八日なれば、月いとあかゝりしに、めしにすゝみて侍りし、御階の月わすれがたきよし、中納言のすけどのに申しいでゝ、辨内侍のかみあげのきぬ、ゆきのしたのこうばい、
雪のした梅のにほひも袖さえてすゝむみはしに月をみし哉
權中納言、五節いださるゝときゝて、くしこひたてまつるとて、辨内侍、
思ひやれ誰かはみせんこゝのへや豐の明りのよはのおきぐし
返し、大納言、
たれこめて豐の明りもしらざりき君こそみせめよはのさし櫛
いたはることおはしけるともしらで、申したりけるも、げにこゝろづきなくて、辨内侍、
たれこめし比ともしらぬおこたりに豐の明りの月は更けにき
(弁内侍日記~群書類從18)

 御神楽の夜になりぬれば事のさま内侍所のみかぐらにたがふ事なし。これは今すこし今めかしく見ゆる。みな人たち小忌(をみ)の姿にて赤紐かけ日蔭の糸などなまめかしく見ゆるに、かざしの花の有様見る、臨時の祭見るここちする。皆座に着きておのおのすべき事どもとりどりにせらるるに、殿も本末(もとすゑ)の拍子とり給ふぞ麗(うる)はしき。日(ひ)の装束なる殿は、今すこし人たちの座よりはあがりて御ざしきなれば、それに居させ給ひたり。つかひのかざしの花ささせ給ひたる見るにさまかはりてめでたき。本(もと)の拍子按察使の中納言、笛その子の中将信通、琴その弟の備中守伊通、篳篥安芸前司経忠、あまた居たりしを事長ければ書かず。
 かくて御神楽はじまりぬれば、本末(もとすゑ)の拍子(はうし)の音、さばかり大きに高き所に響きあひたる声、聞き知らぬ耳にもめでたし。(略)
 かくてみあそびはてかたになりぬれば、殿御琴、治部卿基綱琵琶、拍子もとの如く宗忠の中納言、笙の笛内大臣の御子の少将雅定、笛・篳篥もとの人々御つがひにて、殿の御声にて「まんざいらく出せ」とて、われうちそひさせ給ひて、ふたかへりばかりにて、あなたふと・伊勢の海など、みだれあそばせ給ふ。宗忠の中納言拍子をとりて出す。
(讃岐典侍日記~岩波文庫)

宝治百首歌に、冬月 後深草院少将内侍
雲のうへのとよのあかりに立出て御はしのめしに月をみるかな
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

官庁にて、五節の夜いたうさえたりけるに 後深草院弁内侍
霜雪もさそこほるらんもゝしきやふるきみかきの豊の明は
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

豊の明りの節会に、小忌(をみ)にて侍りけるに、まかづとて、有明の月のおもしろく冴えわたれるに 御垣が原の右大将
珍しき豊の明りの日陰草かざす袖にも霜は置きけり
まことに置きたりけるにや、うち払へるけはひをかしかりければ 大納言典侍
日陰草かざすにいとど霜さえて氷や結ぶ山藍の袖
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

豊明節会をよませ給ける 今上御歌
雲のうへのとよのあかりに月さえて霜をかさぬる山あひの袖
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

 十一月 五節
百しきやながき霜夜のそら更て袖うちかへす朝倉の声
(「藤原定家全歌集」久保田淳校訂、ちくま学芸文庫)

百首よませ給うけるに 後嵯峨院御製
をとめ子か袖白たへに霜そをく豊明も夜やふけぬらん
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

豊明節会をよませ給うける 御製
天つ風袖さむからし乙女子かかへる雲路のあけかたの空
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 藤原懐通朝臣
雲の上の豊明も明行は日影さしそふをみ衣かな
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

清暑堂の御(み)神樂は、御代のはじめの御(おん)祈なれば、ことに君も臣も御(おん)神事にてもてはやし給ふことなれば、所作(そさ)の人、かねてより其人々と定められて皆まゐりぬ。御神樂の裝束果てて、出御なりてはじまりぬ。物の音すみのぼりて、玄上(ママ)の御(おん)撥音(ばちおと)ことに響きのぼりて、和琴の調、本末の拍子に合せて掻きなす、面白くやさしきに、古めかしなど申すもおろかなり。八十(やそぢ)にあまりたる實清(さねたか)二位の聲の色、むかしゆかしく覺ゆ。時々消えかへりて、年のしるしと、かすかなる折にも、玄上の御撥音にまぎれて、おもしろくやさしく聞ゆ。やうやう御神樂も果つれば空も明けぬ。
(中務内侍日記~有朋堂文庫「平安朝日記集」)

五節の舞ひめを見てよめる よしみねのむねさた
あまつ風雲のかよひち吹とちよ乙女の姿しはしとゝめん
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

五節の舞姫の、すぐれて見えけるに遣はしける 顔よき舞姫の蔵人少将
いかにせんをとめの姿恋しくは天つ空をやいとど眺めむ
返し とばりあげの君
天つ空をとめの姿眺むとも雲の袂はまた見えんかも
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

左大将朝光、五節舞姫たてまつりけるかしつきをみてつかはしける 前大納言公任
あまつ空とよのあかりに見し人の猶おも影のしゐて恋しき
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

貞応元年豊明夜、月くまなきに思いつることおほくて、前中納言定家のもとにつかはしける 西園寺入道前太政大臣
月のゆく雲のかよひちかはれとも乙女のすかた忘しもせす
前中納言定家
忘られぬをとめの姿世ゝふりてわかみし空の月そはるけき
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

豊明節会のこゝろを 前関白太政大臣
みしまゝに思ひやりてそ忍はるゝ豊のあかりの月の面影
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

 豊明は今日ぞかしと、京思ひやりたまふ。風いたう吹きて、雪の降るさまあわたたしう荒れまどふ。「都にはいとかうしもあらじかし」と、人やりならず心細うて、「疎くてやみぬべきにや」と思ふ契りはつらけれど、恨むべうもあらず。なつかしうらうたげなる御もてなしを、ただしばしにても例になして、「思ひつることどもも語らはばや」と思ひ続けて眺めたまふ。光もなくて暮れ果てぬ。
 「かき曇り日かげも見えぬ奥山に心をくらすころにもあるかな」
(源氏物語・総角~バージニア大学HPより)

冬の御歌の中に 後伏見院御製
みしやいつそ豊のあかりのそのかみも面影とをき雲のうへの月
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

堀河院かくれさせ給て後、五節に殿上人引つれて皇后宮にまうてたりけるに読侍ける 堀河院中宮上総
あはれにも尋けるかな有し世に見しもろ人の面かはりせて
返し 権中納言師時
あらぬ世の豊のあかりにあふ人はみし面影を恋ぬ日そなき
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)


2 コメント

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Unknown (mono)
2015-11-14 12:58:21
源氏物語を追加しました。
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Unknown (mono)
2020-11-27 15:44:03
栄花物語と讃岐典侍日記と藤原定家全歌集を追加しました。
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