題不知 よみ人しらす
神無月ふりみふらすみさためなき時雨そ冬の初なりける
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)
冬歌の中に 藤原為仲朝臣
外山より時雨てわたる浮雲に木葉吹ませ行あらしかな
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
小少將の君の、文おこせたる返り事書くに、時雨のさとかきくらせば、使も急ぐ。「又空の景色も、うち騒ぎてなん」とて、腰折れたることや、書き交ぜたりけん。暗うなりにたるに、たちかへり、いたう霞めたる濃染紙に、
雲間なくながむる空もかきくらしいかにしのぶる時雨なるらむ
(紫式部日記~バージニア大学HPより)
題しらす 馬内侍
ね覚して誰か聞らむこの比の木葉にかはる夜半の時雨を
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
堀川院の御時、百首の歌奉りける時の、時雨の歌 二条大皇太后宮肥後
ふりはへて人もとひこぬ山さとは時雨はかりそ過かてにする
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
題知らず 面影恋ふる三位中将
物思ふ心の内を知り顔に絶えぬ時雨の音ぞ悲しき
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
物思ひけるころ、しぐるる空を見て 道心すすむる右大臣
かきくらす空の時雨はしぐれかは身より余れる夜はの涙を
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
時雨を読侍ける 刑部卿頼輔
長夜のねさめの窓にをとつるゝ時雨は老の友にそ有ける
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
神無月の比、法性寺にて母身まかりにける時、しくれのふりけるによめる 安喜門院大弐
常よりもしくれしくれて墨染のころも悲しき神無月かな
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
題不知 土御門院御歌
とへかしな槙たつ山の夕しくれ色こそ見えねふかきこゝろを
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
小野宮歌合に、忍恋のこゝろを 太上天皇
我恋はまきの下はにもる時雨ぬるとも袖の色に出めや
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
わかこひはこけのいはやのしくれかはおとにもたてすもるかたもなし
(壬二集~日文研HPより)
いとせちに思ふこと侍りけるころ、うち曇りしぐれければ 埋れ木の少将
晴れ間なき心や空にまがふらん涙しぐるる袖の上かな
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
神無月ばかり、時雨いたうする日、女に遣はしける とりかへばやのさきの太政大臣
物思へば心も空に乱れつつ時雨に添ふる我が涙
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
十月許に、女につかはしける 前中納言匡房
ひとりぬるね覚の床のさむけれは時雨の音をたえす聞哉
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
たいしらす 相摸
神な月夜はの時雨にことよせてかたしく袖をほしそわつらふ
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
神無月ばかり、女のもとにまかりて、人違(ひとたが)へして帰るあしたに、もとこころざし侍りける人に遣はしける 里のしるべの大将
それと見し雲間の月のさてもなどよその時雨にかきくらしけむ
返し 式部卿の宮の三の君
しぐれける雲間の月のよそながらたが面影を思ひ出づらむ
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
また十月ばかりに「それはしもやんごとなきことあり」とていでんとするにしぐれといふばかりにもあらずあやにくにあるになほいでんとす。あさましさにかくいはる。
ことわりのをりとは見れどさよふけてかくやしぐれのふりはいづべき
といふにしひたる人あらんやは。
(蜻蛉日記~岩波文庫)