「あるべし」が撥音無表記となっている例を、バージニア大学の古典テキスト検索で探してみました。(「あべい」「あべし」「あべき」「あべけ」「あべか」で検索。「あべく」は用例ヒット無し。)
「あるべき」→「あべき」
その御心づかひなむあべき。(源氏物語・胡蝶)
いとこまかにあべきことども教へきこえたまへば、(源氏物語・行幸)
世のあべきさま(紫式部日記)
かくてあべきほどばかりと思ふなり(蜻蛉日記)
うたてあべき物かな(和泉式部日記・図書寮本)
「げに、ただひとへに艶にのみあるべき御仲にもあらぬを、いたう衰へたまへりと言ひながら、物越にてなどあべきかは」(源氏物語・葵)
「あるべき」→「あべき」→「あべい」
悲しうもあべいかな。(源氏物語・真木柱)
をこがましうもあべいかな(源氏物語・夕霧)
御心など移りなば、はしたなくもあべいかな。(源氏物語・朝顔)
さもあべいことなれば、(源氏物語・胡蝶)
いでや、今は、かひなくもあべいことを、(源氏物語・東屋)
かの御尋ねあべいことになむありけるを、(源氏物語・行幸)
いまゆくすゑは、あべいやうもなし。(更級日記)
儀式など、あべい限りにまた過ぎて、(源氏物語・行幸)
「あるべし」→「あべし」
そのころ院ののりゆみあべしとてさわぐ。(蜻蛉日記)
かよふ人あべし(蜻蛉日記)
少納言の乳母と言ふ人あべし。(源氏物語・若紫)
あくればこのぬるほどにこまやかなる文みゆ。「今日はかたふたがりたりければなんいかゞせん」などあべし。(蜻蛉日記)
「あるべけれ」→「あべけれ」
いとあさましう、からうこそあべけれ(源氏物語・空蝉)
をかしきことも、もののあはれも、人からこそあべけれ。(源氏物語・澪漂)
なのめならずいみじくこそあべけれ。(源氏物語・浮舟)
「あるべからむ」→「あべからむ」
人のかう推し量りたまふにも、いかがはあべからむ」と(源氏物語・胡蝶)
この人のあべからむさま、夢に見せ給へ(更級日記)
「あるべかりけり・る」→「あべかりけり・る」
あはつけきやうにもあべかりけり。(源氏物語・真木柱)
げに後に思へばをかしくもあはれにもあべかりけること(源氏物語・帚木)
言はまほしからむことをも、一つ二つのふしは過ぐすべくなむあべかりける(源氏物語・帚木)
「あるべかるめり・る・れ」→「あべかめり・る・れ」
この盛りに挑みたまひし女御、更衣、あるはひたすら亡くなりたまひ、あるはかひなくて、はかなき世にさすらへたまふもあべかめり。(源氏物語・朝顔)
人の嫉みあべかめるを(源氏物語・若菜上)
世人もやうやう言ひなすやうあべかめるに、(源氏物語・総角)
おもひたつことほのきゝけるひともあべかめるに(和泉式部日記・図書寮本)
「さこそは あべかめれ」と(源氏物語・真木柱)
こなたは、さま変はりて生ほしたてたまへる睦びのけぢめばかりにこそあべかめれ。(源氏物語・若菜上)
御ゆるされあらんところよりさぞあらんときこそはわびてもあべかめれ(蜻蛉日記)
月も花も心にそめらるゝにこそあべかめれ。(更級日記)
いとはしたなくかなしかるべきことにこそあべかめれとおもへど、(更級日記)
「あるべかるなる」→「あべかなる」
あな物ぐるほしいとたとしへなきさまにもあべかなるかなと(蜻蛉日記)