昨年12月号の雑誌「福井の科学者」に掲載したものを紹介します。
3月4月には知事選挙、県議会議員選挙、福井市議選、敦賀市議選などがおこなわれます。ぜひ、この問題を県民のみなさんが考えるきっかけにしていただければ、と思います。
■福井県民・JR利用者がのぞまない新幹線建設・北陸線第三セクター化計画を問う
―――「考える会」のJR利用者・県民アンケートを参考に
日本共産党福井県議会議員 佐藤正雄
1、はじめに
2014年の今年は東海道新幹線50周年ということで様々なイベント、グッズ、テレビ番組などがあふれている。いま、北陸新幹線の建設推進へ福井県庁などは用地買収と、建設前倒しに総力をあげている。東海道新幹線と違い、莫大な建設費の地元負担と在来線の買い取り・第三セクター化、という福井県と市町に大変な負担をあたえる現在の新幹線建設スキームに私は県議会でただひとり異議をとなえてきた。
西川知事は、私の議会控室で「金沢まで新幹線がくるというのに、福井に来ないのは悔しくないのですか」と、不満を漏らしたことがある。
いま、高齢化と人口減少社会に入りつつあるときに、「都市間競争」の論理で、他の都市となんでも同じハード整備をすすめることで「勝負」する時代なのか。福井は福井なりの「身の丈」を考えた都市計画が必要だし、そのほうが財政的にも居住性でも持続可能性が育ってくるのではないか。そもそも福井県民はこのような新幹線建設を本当にのぞんでいるのか。今回、「新幹線福井延伸と在来線を考える会」が県内JR駅頭で県民アンケートを実施した。このような取り組みは実は県内はじめてであり、その集計結果は新幹線推進の福井県庁・県議会に衝撃をあたえている。
2、新幹線計画の経緯
北陸新幹線の敦賀までの工事が認可された際に、西川一誠福井県知事はつぎのようなコメントをだした。「平成24年6月29日、北陸新幹線敦賀までの工事実施計画が認可された。県民一丸となった運動の成果であり、ともに喜びを分かち合いたい。 北陸新幹線は、これからの本県のベースとなる重要な事業。これをばねに、各地域で立ち上がってほしい。 また、大震災を経験した日本にとっても重要な国土政策。政府はさらに、工期短縮を図るべきである。」。
消費税10%への2段階増税計画が決まったのと時をおなじくして、福井県関係では8000億円の新幹線建設と1000億円の足羽川ダム建設にゴーサインがだされた。この事業費概算は消費税5%計算であり、10%になれば消費税負担分だけでも450億円ぐらい増えることになる。
私は福井県議会のなかでただ一人、北陸新幹線計画や足羽川ダムは不要不急の巨大公共事業であり、反対の立場で議会でも主張をつづけている。
多くの庶民が、消費税増税や年金・医療・介護の削減で苦しんでいる時に、社会保障を口実にした消費税増税で、社会保障にはまわされず、全国でももっとも小さい県のひとつである福井県で約1兆円もの公共事業がはじまったことにひきつづき警鐘を鳴らしつづけたい。「人口減少対策、子育て応援を」と安倍政権も福井県政も口では叫ぶが、予算が増大しつづけるのは、高度経済成長期と同じ公共事業であることは異常だ。
福井県のホームページから、あらためて新幹線計画の流れをみると次のようになる。
昭和42年 日本国有鉄道が全国新幹線網構想を公表
北廻り新幹線建設促進同盟会結成
昭和45年 全国新幹線鉄道整備法公布
昭和47年 基本計画決定、福井県北陸新幹線建設促進同盟会設立
昭和48年 整備計画決定
平成8年 小松-南越間の工事実施計画の認可申請
平成16年 政府・与党申合せ
○長野-金沢車両基地間
富山-石動間、金沢-金沢車両基地間を平成17年度初に着工することと
し、長野-金沢車両基地間で一体的に平成26年度末の完成を目指す。
○金沢車両基地-南越間
福井駅部:平成17年度初に認可・着工、平成20年度末の完成を目指す。
○南越-敦賀間
所要の手続き後、直ちに工事実施計画の認可申請を行う。
平成17年 富山-白山総合車両基地間、福井駅部認可、着工
平成17年 南越-敦賀間の工事実施計画認可申請
平成21年 福井駅部工事完成
平成23年 県内着工の政府方針決定
平成24年 金沢・敦賀間の認可、着工
私が県議会議員に初当選したのは約16年前で、その頃は県庁幹部や県議会議員が頭に「南越まで認可を」などと書かれた鉢巻をつけて政府陳情を繰り返していた。
その後、新幹線の福井延伸の保障として福井駅部工事がおこなわれた。これは、ナトリウム火災事故以来停止しつづけていた敦賀市にある高速増殖炉「もんじゅ」の運転再開目指す改造工事を福井県や福井県議会が認めることと一体でおこなわれたものである。その間、県議会でも国の原子力政策に協力している福井県の新幹線の早期認可を求める県議会意見書が繰り返し私以外の県議会議員によってだされていた。
新幹線は「政治新幹線」とよく言われるが、福井県の場合は「原発政治新幹線」である。
日本共産党で原発問題の第一人者の吉井英勝氏が衆議院議員時代、原発行政の所管ではない国土交通省で原発幹部と出会って、「ここでなにをしているのか」と尋ねたら、「福井の新幹線の陳情です」と答えたというエピソードもお聞きした。
県議会では私一人だけが問題点を追及する新幹線計画だが、これは現在の北陸本線の第三セクター化を条件としている。
2012年3月9日、北陸新幹線の県内での開業に伴いJRから経営分離される並行在来線について、沿線の7つの市と町の首長が出席して、JRから経営分離される並行在来線の運営形態について、意見のとりまとめを行い「第3セクター方式」で運営する事で合意した。住民合意や各議会審議の手続きも経ないで北陸本線の「JRからの経営分離、第三セクター化」が県庁主導で決められたことは、北陸本線と沿線住民、県民の歴史に重大な汚点を残すことになるだろう。
3、北陸新幹線福井延伸と在来線を考える会」のアンケート
このような計画に福井県民はどう思っているのだろうか
私も参加する「北陸新幹線福井延伸と在来線を考える会」(以下、「考える会」)は福井市、越前市、敦賀市、あわら市で県庁の担当者もよんで住民との懇談会を開催してきた。少なくない県民のなかに否定的な意見が多いことが実感できた。しかし、県庁、県議会だけでなくマスコミ各社も、新幹線推進の県や議会の立場での報道を繰り返すだけで、新幹線建設と北陸線第三セクター化に疑問をなげかける報道、記事はほとんどみられない。
そこで考える会として福井、鯖江、武生、芦原温泉、丸岡、春江、森田、敦賀など県内主要駅頭などでの住民アンケート調査を実施することを決め、7月~8月におこなった。
7月22日に福井駅頭でおこなった活動はNHKでも報道され、大きな反響をよんだ。
当日のNHKはつぎのように報道した。
「北陸新幹線の敦賀延伸や、新幹線開業後、JRから経営が分離される並行在来線のあり方について、県民の意見を聞くアンケート調査が、JR福井駅前で行われました。このアンケート調査は、県労連などでつくる団体が行ったもので、JR福井駅前には団体のメンバー6人が集まりアンケート用紙を配りました。
アンケートでは、平成37年度に開業予定の北陸新幹線の敦賀延伸について、ばく大な税金が投入されることについてどう思うかや、新幹線の開業に伴って、JRから経営が分離され、県などが出資する第3セクターによって運行される見通しの並行在来線は、運賃が値上げされる可能性があることについて、どう思うかなどをたずねる内容です。
アンケートを行った「北陸新幹線福井延伸と在来線を考える会」は、7月いっぱい北陸線の8つの駅で調査用紙を配り、郵送で回答してもらう予定で、橋川洋事務局長は、「アンケートを通して県民が北陸新幹線に対してどう考えているかをまとめ県などに意見書として提出していきたい」と話していました。」
「考える会」はアンケート集計結果をふまえ、9月3日に教育センターで報告会を開催し、翌4日に県庁に申し入れをおこなった。
会の申し入れは、平澤代表、事務局の橋川氏、山野氏、奥出氏、南部氏が参加、私が同行した。県庁・新幹線建設推進課では西村課長が応対した。
平澤氏らは県民の7割近くが新幹線に反対しているというアンケートの結果も伝えて「新幹線で在来線が第三セクターになることを知らない県民も多い」「敦賀駅で全乗客を乗り換えさせるのではなく、フリーゲージトレインができるまでは現行の特急を存続させるべき」などを要望した。
県側は「県民負担のデータが不正確なアンケートであり、結果にコメントできない」「今後も広報をやっていく」「敦賀駅での乗り換えに時間がかからないようにJRに要請する。現行特急存続はJR負担が過重になる」などと答えた。
私も、「FGT(フリーゲージトレイン)開発が間に合わず、利用者の利便性が低下するのは国とJRの責任だ。そういうなら、県としてつよく、在来線特急の存続で従来の利便性確保をはかるように求めるべきだ」と発言した。
新幹線賛成が2割、反対が7割、というアンケート結果に福井県も衝撃をうけたことがうかがえる交渉であった。
アンケートの最終集計は別添のとおりである。駅頭を中心に約2000枚のアンケートを配り、286通、14%もの返信率はJR利用者・県民のこの問題についての関心の高さの表れだと思う。
4、福井県議会での論戦から
私は、2014年9月30日の福井県議会予算特別委員会において、新幹線、在来線問題を取り上げた。
★「どんどん膨らむ恐れ 新幹線建設、第三セクター事業費」
私は新幹線建設と北陸線買い取り・第三セクター化にかかる県の負担を質問した。
東村総合政策部長は、「本県区間の新幹線建設費は7800億だが、貸付料や交付税措置などにより実質は800億負担。駅ができる市の負担は4市で50億円。第三セクター負担については開業3年前に明らかにする」と答えた。
私は「第三セクター負担もふくめ、全体の事業費を県民にしめさないのはおかしい。これまでそのような事業はあるのか」とただした。
東村部長は「富山県の例で言うと、資本金に県が25億、市町が11億。JRからの資産取得に185億。運賃値上げ抑制の基金に県が30億(全体は65億)」などと答え県の負担分だけでも240億円にのぼることを説明した。
私は「そういう税金負担が発生することを県民にしめすべき」と述べるとともに、「7800億円そのものが消費税5%時代の試算で、仮に10%になれば数百億円増える」と指摘した。
大変な財政負担になる計画であることは明らかであり、福井県は県民への説明責任を果たすべきだ。
★「在来線特急存続を求めよ」
ひきつづいて、現在の特急の利用状況を質問。
東村部長は「福井駅から大阪へは1500人、京都へは1200人。逆もほぼ同数」と答弁。
私は石川県が石川県内でおこなった調査では、大阪方面が4400人、米原方面が2100人であり、毎日相当数の利用客があるのが関西・中京方面との在来線特急である、と指摘し、「敦賀駅で乗り換えが発生し、運賃が高くなる計画では利用者に迷惑をかけるのでは」とただした。
東村部長は「並行在来線分離は新幹線着工の条件であり、在来線特急存続はできない」と答弁。
私は「北陸線が3セクになっても特急を走らせてもらえばいい。JR経営の立場でなく、お客さんの立場にたたなくてはだめ」と強調した。
北陸⇔関西・中京は1日2万人ぐらいが特急で移動している。「新幹線料金で運賃があがって、利便性低下」の新幹線なんて大問題だ。
★「金沢開業で、最速新幹線は10本だけ」
私は、新幹線の金沢開業で、金沢―福井間の特急3本が新設される活用策を質問。
東村部長は「ビジネス用務で東京滞在時間が増えるように、3本増便はこの要望にもとづくもの」と答えました。
私は「福井県民・市民がより金沢にアクセスが便利になる。ストロー効果にならないか」と質問。
部長は「まだ十分検討してないので検討する」と答弁した。
私は「利便性プラスと福井の商圏にマイナスになる面がでてくる。ダイヤの改定で、現行の普通列車が減便にならないようにしているか」と質問。
部長は「減便にならないように求める」と約束した。
さらに私は「富山―金沢間に新幹線シャトル便ができ、第三セクターにも影響を与える、とみられることもある。ところで、金沢―東京間は時間短縮効果の宣伝をしてきた最速タイプは1日10本。数十本走る新幹線のうち、10本だけでは」と質問した。
部長は「1時間に1本であり、いまの米原まわりと比べて遜色ない」と答えた。
私は「福井はいまと変わらないようであれば効果ない」と指摘。
もともと福井県が宣伝する時間短縮効果も福井市中心で、丹南、嶺南の住民にとって恩恵は薄い。あらためて福井県民にとっての新幹線効果の疑問が浮き彫りになった。
9月県議会の最終日、10月3日に県議会本会議で新幹線予算に反対討論をおこなった。内容は次のとおり。
「「考える会」が県内JR各駅の利用者を中心に約2000名にアンケートを配布し、286通が返送されています。
最終集計によれば、新幹線が必要は20%、必要だとは思わないは70%です。
北陸本線の第三セクター化については、やむをえない・負担を軽くしてほしい、が26%、反対は66%です。
つまり、新幹線建設と北陸本線の第三セクター化には6割から7割のJR利用者・県民が反対しています。かりに、このアンケートがJRを利用してもいない、年金生活者もふくめておこなわれれば、さらに不要論が高くなることも想像されます。
福井県庁、福井県議会は、この県民の声を真摯にうけとめなければなりません。
しかも、FGTが完成しなければ、高さ24メートル、在来線ホームとの距離200mに建設される新幹線敦賀駅での乗り換えが発生することになります。
現在、福井県民をふくめ、県内を走るサンダーバード、しらさぎ号の利用者は少なくとも1日あたり2万人前後にはなるでしょう。
これらの利用者に対して、新幹線料金で料金はアップしながら、敦賀駅乗り換えという利便性低下を生じさせるような新幹線計画ではあまりにお粗末です。
利用者の皆様の利便性確保、福井県などの第三セクター経営の健全化の観点からも現行の在来線特急の存続をつよく国とJRに求めていくべきであります。」
5、今後は
「考える会」では今後、新幹線駅がない鯖江市での住民討論会の開催(2月28日)や、沿線各自治体との懇談などを計画している。
仮に、新幹線建設と北陸線第三セクター化がこのまますすむとしても、「考える会」が継続しておこなってきている問題提起は、県民・利用者本位の交通のあり方を考え、提案しているものであり、さまざまな形で行政の施策にいかしていかなくてはならない、と考える。
また、新幹線トンネルの敦賀・中池見湿地への影響も自然保護団体から懸念されている。
多くの県民のみなさんが「考える会」に参加し、ともに考え、行動されることを期待している。
詳しくは「考える会」事務局・橋川洋氏まで。0776-73-1229
★付記
12月県議会でも「会」がサンダーバード存続など請願したものが不採択となった。賛成は私のみ。
自民、民主、公明などは不採択を主張した。無所属の細川議員は継続審査を主張した。
以下、不採択にたいして抗議の討論をおこなったもの。
請願第60号は、新幹線工期の短縮がおこなわれれば、現在のように乗り換えなしでの関西・中京圏との行き来ができなくなる問題について、その対策としても現行のサンダーバード、しらさぎの運行をもとめ、県民はじめ利用者の利便性を確保する要求であり採択すべきです。
巨大公共事業についての賛否はさまざま会派によって違うわけですが、道路にしても利便性が低下する道路はつくらないわけです。
ところが新幹線と並行在来線の扱いでは、利便性が低下するものをつくろうとしているところに大きな問題があるのです。その解決をはかることは国、JR、県庁、県議会の共同の責任ではありませんか。
新幹線は来たが、県民利用者は不便になりました、ではお話しになりません。
北陸本線金沢~直江津、信越本線直江津~長野の3セク化より3年が過ぎようとしています。近畿から東北への交通の中を受け継ぐ役割を持つ、一続きの北陸本線。それが県という縄張り意識のもと、輸送体系の連続性はニの次に、3会社に分断する愚行がまかり通りました。
はっきり言いますと、3セク化により以前より不便になったと言えます。
まず、運賃計算は会社毎に別個になり、それぞれの会社を跨がって利用する際の運賃計算は煩雑になりました。特に会社境界駅の前後区間の跨がり利用では特例の割引運賃が設定されたものの、運賃の高額化が起こっています。
次に富山県~新潟県への直通列車が極端に少なくなり、泊駅での乗り換えが強いられるようになっています。富山県と新潟県の間の流動が富山県と石川県の間のそれより圧倒的に少ないのは事実ですが、新潟県境跨がり利用をよくしていた私には差別的な扱いと感じました。泊駅では乗り換えとなる2列車が同一ホームに入るため、一方の列車は入駅前に誘導信号機で一旦停止、それから徐行で入駅します。入善から糸魚川へ行く場合など、直通運転していた頃より所要時間が伸びてしまいました。
そして、直江津から富山へ向かう上り最終列車の時間帯が前倒しされ、新潟方面での滞在時間がシビアになっています。
また、以前は使えた青春18きっぷの利用が不可となったことも見過ごせません。北陸本線は近畿から東北地方への幹線ですから、帰省シーズンなどには安価に旅行できる青春18きっぷを使う利用者も少なからず存在します。こういった客層は全く新幹線の恩恵など受けていないのに、明らかに割を食っています。
このようなマイナス要因から、私自身3セク化後はマイカーでの移動が増えました。
福井県下の北陸本線も3セク化されるとなると、北陸本線は4社分断。直通利用の場合、今にも増して厄介なことになりそうです。しかも厄介を被るのは新幹線の恩恵など関係ない地域へ向かう利用者、青春18きっぷ利用者です。
日本の鉄道は明治時代、民間による敷設が先行したため、事業者が乱立し、円滑な輸送に障害を来しました。それを正すため、鉄道国有化法により、国による一体運営がおこなわれるようになったのに、このネットワーク社会に時代を逆行するような3セク会社乱立の動きに大きな怒りを感じます。それがニッチな利用客層も含めた公共の利便性の維持という視点からではなく、整備新幹線建設促進とJRの経営云々という視点から進められているところ、我が国の病的な一面であると思います。