雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

二条の姫君  第百九回

2015-07-24 08:31:21 | 二条の姫君  第三章
          第三章  ( 三十五 )

御歌会の後には、御蹴鞠が行われるということで、皆さま色とりどり袖を出だし衣として出されました。
天皇、春宮、亀山院、関白殿、内の大臣方をはじめとして、思い思いのお姿は、それは華やかなものでございました。
後鳥羽院の建仁年間の例にならって、亀山院が御上毬(アゲマリ・最初に毬を蹴上げる役で、貴人や名人がする)をなさいました。

御蹴鞠が終わりますと、天皇は今宵還御なされます。
なお、まだお楽しみになられたい御様子に見受けられましたが、春の除目があるということで、還御を急がれたそうでございます。

次の日は、天皇還御の後でございますから、六衛府の官人の姿も見えず、全体に打ち解けた様子でございました。
正午の頃、北殿より西園寺にかけて筵道が敷かれました。両院は御烏帽子に直衣、春宮は御直衣に括りをあげておられます。
あちこちの堂を御巡礼され、西園寺邸内の妙音堂に御参拝になられました。
いかにも今日の御幸をお待ち申し上げたかのような桜がたった一本見えますのも、「ほかの散りなむ後に咲くのがよい」などと、誰が教えたのかとゆかしく思っておりますと、
「管弦の御遊が始まります」
ということで騒ぎ立てるものですから、衣被きの女房たちに交じって大勢人が出てきますと、両院・春宮は建物の内に入られました。

廂には、笛が花山院大納言、笙が左衛門督、篳篥(ヒチリキ)が藤原兼行殿、琵琶が春宮の御方、春宮大夫は琴、太鼓は源具顕殿、羯鼓(カツコ・鼓の一種)は藤原範藤殿、調子は盤渉調にて採桑老・白柱・千秋楽などが演奏されました。
兼行殿が、「花上苑に明らかなり・・」と朗詠されました。
楽器の音色が調和して素晴らしかったうえに、二度繰り返して終わった後に、「情けなきことを機婦に妬む・・」と後深草院が朗詠されましたのに、亀山院と春宮が御声を加えられましてのが実に見事でございました。
演奏が終わりますと還御なさいましたが、集まった人々はまだ名残が尽きないご様子で、豪華であった催しの数々を繰り返しお話されておりました。

     * * *

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