雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

落穂を拾う ・ 今昔物語 ( 12 - 18 )

2017-10-06 11:45:27 | 今昔物語拾い読み ・ その3
          落穂を拾う ・ 今昔物語 ( 12 - 18 )

今は昔、
河内国石川郡に八多寺(ヤタデラ)という寺があった。その寺に阿弥陀の絵像が安置されていた。
その郷(サト)の古老が語るところによれば、
「昔、この寺のそばに一人の女がいた。その女の夫が死んだ日に、この仏の像を描き奉ろうと願を立てたが、この女は寡婦となったうえ貧しかったため、この願を果たすことができないまま月日が過ぎた。とうとう秋になったので、女は自ら田に出て落穂を拾い集めて、それにより一人の絵師を招いて、あの像を描かせて供養しようとしたが、絵師も女の心に感動して、願主の女と同じように信仰心を深め、心をこめてこの仏を描いて供養させた。女はすぐに八多寺の金堂に安置して、常に恭敬礼拝しようと思っていたが、程なく、盗人が火を放ってその堂を焼いてしまった。全焼で何も残らなかった。

ところが、焼かれた火の中に、この絵像は燃えることなくいらっしゃる。『不思議なことだ』と思って、ある人が近寄って取って見ると、まったく塵ほどの痛みもなかったのである。その辺りにいた人々はこれを見て、限りなく尊んだ。そして、『これは、あの女人が心をこめて描き奉ったゆえに、仏が霊験をお示しになったのだ』と思った。この女は貧しい者だといっても、秋になって田に行って自ら落穂拾い集めて願を遂げたことは、そうそう出来ることではない。それ故に、仏もその志に感じて、このような霊験をお示しになったのである。積む功徳はたとえ少なくとも、信仰心が大切なのである」ということである。

この話は、古老の言い伝えによって、
語り伝へたるとや。

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