雅工房 作品集

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流れ着いた巨人 ・ 今昔物語 ( 31 - 17 )

2023-06-25 08:18:37 | 今昔物語拾い読み ・ その8

      『 流れ着いた巨人 ・ 今昔物語 ( 31 - 17 ) 』


今は昔、
藤原信通朝臣(生没年未詳。1024 年に常陸国守( 介 )に就いている。
)という人が、常陸の守として在任中のことである。
その任期が終るという年の四月の頃、風がものすごく吹いて大荒れの夜、[ 欠字。郡名が入るが不詳。]郡の東西の浜という所に、死人が打ち寄せられた。

その死人の身長は、五丈(約 15m )余りもあった。さらに、半ば砂に埋もれているのに、臥せっている胴の高さは、背の高い馬に乗って近寄ってくる人が持っている弓の先が、少しばかり見えるだけである。これでその高さが推し量れるだろう。
その死人は、首から切断されていて頭がなかった。また、右の手、左の足もなかった。これは、鰐(ワニ・鮫の古称。)などが喰い切ったのであろう。それらがもとのようについていれば、大変なものであろう。
また、うつ伏せになって砂に埋まっているので、男女いずれかも分からない。ただ、体の様子や肌つきからは女のように見えた。
国の者どもは、これを見て、驚きあきれ、周りを取り囲んで大騒ぎした。

また、陸奧国の海道という所において、国司の[ 欠字。人名が入るが不詳。]と言う人も、「このような大きな死人が打ち寄せられた」と聞いて、家来を遣って検分させた。
砂に埋もれていて、男女の区別が分からない。「女であろう」と推定したが、学識ある僧などは、「この全世界に、このように大きな人が住んでいる所があるとは、仏も説いておられない。思うに、これは阿修羅女などあろうか。体の様子などもたいそう清気なので、そうかも知れない」と推測した。

さて、国司は、「これは希有の事なので、何よりもまず、朝廷に報告しなければならない」と言って、京に使者を送ろうとしたところ、国の者どもは、「報告すれば、必ず朝廷の使者が検分に下向されるでしょう。そうなれば、その使者の接待が大変厄介です。この事は、ひたすら隠しておくことです」と進言したので、守も報告せずに隠し通してしまった。

ところで、その国に[ 欠字。人名が入るが不詳。]という武者がいた。その武者は、この大きな死人を見て、「もし、このような巨人が攻め寄せてきたら、どうすれば良いのか。矢が立つかどうか、試してみよう」と言って、射ると、矢は深々と突き立った。
そこで、これを聞いた人は、「よくぞ試した」と誉め称えた。

さて、その死人は、日が経つにつれて腐乱し、十町二十町もの間には人も住めず、逃げ出してしまった。あまりの臭さに耐えられなかったからである。
この事は隠していたが、守が京に上ったので、いつしか世間に伝わり、
此く語り伝へたるとや。

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