麗しの枕草子物語
雅やかな細殿
登花殿の細殿のお話を続けましょう。
たくさんある局のなかでも、登花殿の細殿は、人々の訪れも多く、華やかな宮中の風情が数多く見られる所です。
多勢の人々が、詩を吟じ歌など詠いながらやってきますと、私も戸を開けて歓迎いたしますが、まさかお入りにならないと思っている方々までも足を止められるものですから、狭い私の局ではとても座ることも出来ません。
多くの人は、立ったままで夜を明かし、話をし、歌など詠うのですが、それはそれは、何とも情緒があるものですよ。
若々しい公達は、立派なお召物なのですが、何分お盛んに動き回るものですから、背中のあたりが少しほころびていて、それを気にされているお姿の何と瑞々しいことでしょう。
六位の蔵人は、位は低いのですが青色の制服姿が凛々しくて、その所作も好ましい人が多いのです。この賑やかな場にあっても、青色の衣を着ている限りは、姿勢を正して立っているのですよ。
また、世慣れた殿方たちは濃い色の指貫に、直衣は色鮮やかなものを着て、袖口から下襲や単衣をのぞかせているのもいかにもおしゃれで、鬢など直しているお姿はとても風情があるものです。
それにも増して、賀茂の臨時祭の調楽などは、主殿寮の官人の持つ長い松明に照らされて、笛など吹きながらゆく貴公子たちのお姿は、それはそれは雅やかで、すばらしいものでございます。
(第七十二段 内裏の局、より)
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