雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

継子と継母(2) ・ 今昔物語 ( 巻 26-5 )

2016-02-02 14:29:43 | 今昔物語拾い読み ・ その7
          継子と継母(2) ・ 今昔物語 ( 巻 26-5 )

 ( (1)より続く )

大夫介の後妻に入り男の子の継母となった女は、目を付けていた郎等の男を完全に手なずけた後で、その男に娶せた女からその男に、「今はすっかりあなたを頼りにしているので、思ってい事を何もかも打ち明けなければなりません」と言わせた。
男は「それこそわしが望むところだ」と答えたので、妻となった女は夫の心を十分に引き付けておいて、「実は、私がお育てしている姫様は、性質も良く物の道理をわきまえておられ、とても情け深い方なので、この先も幸せに恵まれることでしょう。実の父上に先立たれてからは、とても心細い日を送られましたが、ここの大夫介殿が母上を迎えられてからは、然るべき前世からの契りがあったのでしょうか、姫様をとても大切にされていて、『わしが生きているうちに夫を持たせよう』と申されていて、それも今日か明日かに迫っています。そこで、『この大夫介殿の財産を、分けることなく姫様に渡るようにしてあげれば、お前様の世となるだろう』と思うのですが、どうすれば良いのでしょうか」と言った。

夫は、妻の話を聞くと不敵な笑みを浮かべて、「お前は、たいそう難しいことのように、そして大事かのように言うものだ。そんなことは、わしの決心次第だ。奥様さえお許しくだされば、誰がやった事とは分からぬように片づけてやるが、そうなれば、あの莫大な財産はどうされるのかな」と答えた。
妻は、「ほんとにねぇ。奥様もその事を考えておられることでしょう」と言うので、夫は、「それでは、うまく奥様に伝えてくれ」と言うと、妻は承知した。

翌朝早くに二人は継母のもとに行き、話があるような素振りをした。継母は、もともと自分が画策したことなので、すぐに察して人気のない所に呼び寄せて、雑談でもするかのようにして話を聞く。
男は、いかにも自分が思いついたことのように話した。「ふつうにお仕えしていた時でさえ、深いご恩情をいただきましたことをとてもありがたく思っていましたのに、この女人まで頂戴しましたので、『何とか奥様のお役に立ちたいもとだ』と前々から考えておりましたところ、『あの若君さえ居られなければ、姫様の御為にきっと都合が良いだろう』と思い至りました。お許しをいただければ、今日などはお屋敷の人も少ないので、実行に移りたいと思うのですが、いかがでしょうか」
継母は、「これほどまで親身に思ってくれていたとは、思いもよりませんでした。本当に頼りになる方です」と言って、上に着ていた衣を脱いで与え、「では思うようにしてください。だが、どのようにやるのか」と聞くと、男は、「これほどよく考えた上で申し上げていますので、失敗などいたしません。ただお任せいただいて、ご覧になっていてください」と言って、その場を離れていった。

継母はうまくいったと思うものの、胸騒ぎを押さえられないでいたが、男が外に出てみると、ちょうど若君は一緒に遊ぶ仲間がおらず、小弓と胡録(ヤナグイ・矢を入れる武具)を持って一人でやって来た。男はその姿を見つけてひざまずくと、若君は駆け寄ってきて、「某々丸を見かけなかったか」と、いつも一緒に遊ぶ子供のことを尋ねた。
男は「その子は親と一緒に遠くに行ったと聞いています。若君は、なぜ寂しそうに一人で歩いているのですか」と言うと、若君は「仲間を捜しているのだが、一人もいないのだ」と答えた。
男は「それでは一緒においでなさい。叔父様(大夫介の弟)の所へ連れて行ってあげましょう」と言った。若君は無邪気にうなずいて、「母上に申し上げてくる」と言うのを、「他の人には言わないで、そっと参りましょう」と男は言う。

若君が嬉しそうに走って行く後ろ姿は、髪がふさふさと揺れて可愛げなのを見ると、可哀そうで害することをためらったが、奥様に頼もしく思ってもらう爲だと心を鬼にして、馬に鞍を置いて引き出してきた。
男は「この子に刀を突き立てたり、矢を射て殺すのはあまりに可哀そうだ。野原に連れて行って、穴を掘って埋めてしまおう」と思って、弓矢を持って、下人も連れず、白い馬の手綱を引いて待っていると、若君は小さな胡録を背負って走り出てきて、「母上は、『早く行きなさい』と言っておられたよ」と言って、馬に乗った。
                                          (以下 (3)に続く)

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