雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

歴史散策  神武登場 ( 4 )

2015-09-01 09:27:21 | 歴史散策
          神武登場 ( 4 )

天つ神の宣言

さて、建御雷神(タケミカヅチノカミ)と天鳥船神(アメノトリフネノカミ)の二柱の神は、出雲国の伊耶佐(イザサ)の小浜(オハマ)に降り着いて、十掬の剣(トツカノツルギ・大刀)を抜き、波頭に逆さまに刺し立て、その剣の切っ先に胡坐(アグラ)を組んで座り、芦原中国の大国主神に問いただした。
「天照大御神、高木神の仰せで、お前に問いただすために我らを遣わされた。お前が領有している芦原中国は、我が御子の支配する国であると委任された。そこで、お前の心はどうなのか」と尋ねた。

これに対して大国主神は、
「私には申し上げることが出来ません。我が子である八重言代主神(ヤエコトシロヌシノカミ)がお答えするでしょう。ところが、鳥の猟、魚の漁の為に御大之前(ミホノサキ)に行っていて、まだ帰ってきていません」と答えた。
そこで、天鳥船神を遣わして八重事代主神を連れ戻してきて問いただしたところ、八重事代主神は父の大神に語りかけ、
「恐れ多いことです。この国は、天つ神の御子に差し上げましょう」と言うと、直ちに乗ってきた船を踏んで傾け、天の逆手(アメノサカテ・逆の柏手、つまり手の甲と甲を打つことか? いずれにしても、呪術的な意味を持っている)を打って、船を青柴垣(アオフシガキ・漁に用いる垣か?)に変えて、身を隠した。

そこで、建御雷神は大国主神に、
「今、お前の子である事代主神は、このように申し終えた。他にも申すべき子はいるのか」と尋ねた。
「もう一人、建御名方神(タケミナカタノカミ)という子がいます。これ以外にはおりません」と大国主神は答えた。
このような問答の間に、その建御名方神が、千引の石(チビキノイワ・千人かかってようやく引けるような大岩)を手先で差し上げながら来て、
「誰なのか、我が国に来て密やかにものを言っているのは。それならば、力比べをしたいものだ。私が、まずそちらの手を取ろうと思う」と言った。
建御雷神がその手を取らせたが、たちまちのうちに相手の手を氷柱に変え、また剣の刃に変えた。建御名方神は恐れて退き下がった。

今度は建御雷神が建御名方神の手を取ろうとして、求めて引き寄せて手を取ったところ、若い芦を取るようにやすやすとひねり上げ投げ飛ばしたので、建御名方神はたちまち逃げ出してしまった。
建御雷神は追って行き、信濃国の諏訪湖にまで追いつめて殺そうとした時に、建御名方神は、
「恐れ入りました。私を殺さないでください。この場所以外、他の所には行きません。また、我が父大国主神の仰せに背きません。八重事代主神の言葉にも背きません。この芦原中国は、天津神の御子の仰せのままに献上いたします」と誓った。

     ☆   ☆   ☆

国譲り

そこで、建御雷神は再び帰ってきて、大国主神に、
「お前の子どもたち、事代主神・建御名方神の二柱の神は、天つ神の御子の仰せに従って背くことはないと誓った。お前の心は、如何に」と尋ねた。
これに対して、大国主神は、
「私の子である二柱の神が申し上げたことに従い、私は背きません。この芦原中国は、仰せのままにすっかり献上いたしましょう。ただ、私の住処だけは、天つ神の御子が天津日継(アマツヒツギ・天つ神が血統を伝える表現)を伝える天上の御住居のように、大磐石の上に宮柱を太く立て、高天原に千木を高くそびえさせて祀って下されば、私は多くの道が曲がりくねった果てにあるこの出雲に隠れておりましょう。また、私の子どもたちである多くの神々は、八重事代主神が諸神の先頭に立ち、また後尾に立ってお仕え奉るので、背く神はありますまい」と、こう申して、出雲国の多芸志(タギシ)の小浜に天つ神の為に殿舎を造り、水戸神の孫の櫛八玉神を調理人として天つ神に御食事を奉った時に、祝福の言葉を唱え、櫛八玉神は鵜となって海の底に入り、海底の粘土をくわえてきて、天つ神のために土器をたくさん作り、海藻の茎を刈り取って火をおこすための臼を作り、海藻の茎で火をおこすための杵を作り、火をおこした。

そして、さらに言うには、
「この、私のおこした火は、高天原に向かっては、神産巣日御祖命(カムスヒノミオヤノミコト・この神は芦原中国の側に立っている天つ神らしい)の、満ち足りて立派な天の新しい住居に、煤が長く垂れるほどに焼き上げ、地の下に向かっては、地底の大磐石に至るまで焼き固めて、栲縄(タクナワ・楮で作った縄)の千尋の縄を張り伸ばし、釣りする海人が、口の大きな尾ひれの張った鱸(スズキ)を、ざわざわと音を立てて寄せ上げて、載せる台がたわむほどに天の魚料理を差し上げます」

やがて、建御雷神は高天原に返り上り、芦原中国を説き伏せて、帰順させ平定したことを復命した。

     ☆   ☆   ☆



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