雅工房 作品集

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地蔵菩薩像を完成させる ・ 今昔物語 ( 17 - 25 )

2024-03-27 08:01:35 | 今昔物語拾い読み ・ その4

     『 地蔵菩薩像を完成させる ・ 今昔物語 ( 17 - 25 ) 』


今は昔、
因幡国高草郡の野坂の郷に一つの寺があった。名を国隆寺(コクリュウジ・未詳)という。この国の前の介(スケ・次官)である[ 欠字。姓が入るが不詳。]千包(チカネ・伝不詳)という人が建立した寺である。

この寺に別当(事務を統括する職務だが、大寺に置かれるので、やや不自然。)の僧がいたが、仏師を呼んで、かねてからの宿願である地蔵菩薩の像を造らせることにした。
ところが、この別当の僧の妻が、他の男に奪われて姿を消してしまった。そこで、別当の僧はすっかり逆上してしまって、東西南北とあちらこちらと捜し回って大騒ぎしているうちに、あの地蔵菩薩像を造り奉ったことも、すっかり忘れてしまった。そのため、仏師たちがその仕事場に来ても、施主である別当から何の面倒も見てもらえないので、食べることさえ出来ず飢えてしまっていた。

ところで、その寺に専当(セントウ・別当の下位にあって、寺務を管理した。)の法師がいた。この仏師たちが食事も出来ないのを見て、善心のある者だったので、食事を準備して、仏師たちを世話していたが、数日経って木造りの像は完成したが、まだ彩色し奉る前に、この専当の法師は急に病にかかり死んでしまった。
妻子は泣き悲しんだが、どうすることも出来ず、お棺に入れて側に置き、葬らないで朝晩に見ていると、六日目の未時(ヒツジノトキ・午後二時頃)の頃に、にわかにこのお棺が動き出した。妻は恐ろしく思いながらも、不思議に思い、近寄ってお棺を開けてみると、死人は既に蘇(ヨミガエ)っていた。
妻は喜び、水を口に入れてやった。死人は起き上がり、妻子に語った。

「私が死んだ時、たちまち猛々しく恐ろしげな大鬼が二人やってきて、私を捕らえて、広い野原に連れ出して、さらに私を追い立てていくうちに、一人の小僧が現れた。姿は美しく厳かである。
この小僧が、私を捕らえている鬼たちに仰せになった。『これ、鬼どもよ、この法師を許してやれ。こう言う我は、地蔵菩薩である』と。
二人の鬼はこれを聞くと、地にひざまずいて、私を許してくれた。
すると、小僧は私に向かって仰せになった。『汝は我を知らないか。かの因幡国の国隆寺において、我が像を造っている時、施主の別当に事件が発生し、我が像を造ることを忘れてしまった。その時、汝はその仏師たちの世話をし、我が像を完成させた。汝は、ぜひともそれに彩色を施し供養せよ。あの施主は決して完成させることはあるまい。くれぐれも、汝はこれをやり遂げるのだ』と。
そして、道を教えて返してもらえる、と思ったところで蘇(ヨミガエ)ったのだ」と。
妻子はこれを聞いて、涙を流して感激し、尊ぶこと限りなかった。

その後、僅かな全財産を投げ出して、あの地蔵菩薩像に彩色し供養し奉ったのである。
その地蔵菩薩像は、その国隆寺に安置して、今もそこにおいでである。
これを思うに、地蔵菩薩の誓いというものは、他のものに勝っていらっしゃる。心ある人は、専らに祈念し奉るべきである、
となむ伝へたるとや。   

     ☆   ☆   ☆


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