青年はわずかに灯りの漏れている庫裏を見つけると
「こんばんは」「こんばんは」と何度か声をかけ
玄関を軽く叩いたが返事は返ってこない
仕方なくそっと引き戸を引いて中を窺った
人の気配を感じてもう一度大きな声を張り上げた
しばらくすると「ああ、おまたせしました」と住職が現れた
うっかり境内の落葉の上で寝てしまい宿の手配をせずに
夜を迎えて困っていることを伝えると住職は
軒下を貸してくれればという青年に「あいにく今日は家内の具合が悪くて
お構いできませんが本堂で横になってください」と本堂に案内した
住職が灯してくれた本堂の隅の電灯の明かりを頼りに
青年は図多袋からおにぎりを取り出した
おにぎりは昼寝の際枕にした頭陀袋の中で押し潰されていた
前夜の宿とした百姓家のおかみさんが持たせてくれたおにぎりで
中の大粒の柔らかい梅干しも押し潰され
白い飯は柔らかい梅肉で赤く染めていた
今朝早く出発しようとする青年に「ちょっと待ってな」と
百姓家のおかみさんは目の前で羽釜からお櫃に移した白飯を
扇ぎ扇ぎ荒熱をとって握ってくれたのだった「朝御飯も食べて行き」
と羽釜に残ったお焦げを握り「これはまた旨いで」と
炊きたての味噌汁を椀によそい竈の淵に置いて
「そこに座って食べて行き!」と居間への上がり框を指差したのだった
おかみさんの顔を浮かべながら大きなおにぎりを二つ平らげた
手軽な弁当としての冷めても旨い飯のおにぎりがありがたかった
水筒に残ったお茶を二口三口飲んで
本堂の畳に寝袋を広げて青年は眠りについた
「こんばんは」「こんばんは」と何度か声をかけ
玄関を軽く叩いたが返事は返ってこない
仕方なくそっと引き戸を引いて中を窺った
人の気配を感じてもう一度大きな声を張り上げた
しばらくすると「ああ、おまたせしました」と住職が現れた
うっかり境内の落葉の上で寝てしまい宿の手配をせずに
夜を迎えて困っていることを伝えると住職は
軒下を貸してくれればという青年に「あいにく今日は家内の具合が悪くて
お構いできませんが本堂で横になってください」と本堂に案内した
住職が灯してくれた本堂の隅の電灯の明かりを頼りに
青年は図多袋からおにぎりを取り出した
おにぎりは昼寝の際枕にした頭陀袋の中で押し潰されていた
前夜の宿とした百姓家のおかみさんが持たせてくれたおにぎりで
中の大粒の柔らかい梅干しも押し潰され
白い飯は柔らかい梅肉で赤く染めていた
今朝早く出発しようとする青年に「ちょっと待ってな」と
百姓家のおかみさんは目の前で羽釜からお櫃に移した白飯を
扇ぎ扇ぎ荒熱をとって握ってくれたのだった「朝御飯も食べて行き」
と羽釜に残ったお焦げを握り「これはまた旨いで」と
炊きたての味噌汁を椀によそい竈の淵に置いて
「そこに座って食べて行き!」と居間への上がり框を指差したのだった
おかみさんの顔を浮かべながら大きなおにぎりを二つ平らげた
手軽な弁当としての冷めても旨い飯のおにぎりがありがたかった
水筒に残ったお茶を二口三口飲んで
本堂の畳に寝袋を広げて青年は眠りについた
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