りなりあ

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指先の記憶 第二章-15-

2008-12-12 21:57:13 | 指先の記憶 第二章

「先生も行くから、話しを聞こう。とにかく…目立つんだよ。車も運転している人も。一緒にいる女性も。早く校門前から移動してもらいたい。」
先生の言葉の中の“目立つ”という単語に反応したのは私だけではなく、須賀君は私と自分の鞄を手に取った。
「姫野。行くぞ。」
須賀君が私の腕を掴んだ。
彼の動揺が伝わってきて、私は途端に不安になってしまった。

◇◇◇

私と須賀君の後ろを先生が付いてきてくれていた。
そして、少し距離を保って数名の部員達が歩いていた。
部員達は帰宅する訳だから彼らを止める事は出来ないけれど、私を待つ“親戚”を見られる事に抵抗を感じた。
思い当たる人の顔を思い出してみるが、私の心の中には、その人達に会いたい気持ちと逃げたい気持ちが混ざっていた。
親戚と表現するのは違うが、母の可能性を考えてしまう。
そして行方の分からない祖父。
杏依ちゃんに見せたアルバムには母の写真は一枚もなく、祖父の写真は棚に飾っている一枚だけ。
母と祖父に会う事など本気で考えた事がなかった自分に気付いて、私は2人に会う事を諦めていた事にも気付いてしまった。
“親戚”と表現するのなら、母にも“親”や“きょうだい”がいるだろうし、“祖父”には“家庭”がある。
私と血の繋がっている人達が存在するのは事実で、私がその人達の事を知らないだけで、その人達は私の事を知っているのかもしれない。
「っいたっ…ちょっと、須賀君?」
私は突然立ち止まった須賀君の背中に当たってしまった。
「どうしたの?」
須賀君の横に立って、彼を見上げた。
彼の視線の先を追った私は、校門の前に明らかに邪魔な感じで停められている車を見つけた。
そして、車の前に立っている人に向かって私は駆け出していた。

◇◇◇

「どうしたんですか?こんな所に車を停めたら邪魔です!それに、親戚なんて言わなくても。」
「だって、好美ちゃんと私の関係、説明する言葉がなかったから。」
綺麗に化粧をしている絵里さんの微笑みに、私は思わず俯いてしまった。
「…先生でいいのに…勉強、教えてもらっていたし。」
「そうだったわね。それじゃ、その先生役、そろそろ復活させてもらおうかしら。」
「え?」
驚いて顔を上げた私は、今度は絵里さんに見惚れてしまった。
「好美ちゃん京都は楽しかった?5月のお誕生日会も終わったし、そろそろ時間に少しは余裕が出来たかと思って。好美ちゃんは学校と部活で忙しいから、こうして迎えに来ないと会えないと思ったの。」
絵里さんが私に会いに来てくれた、という事が嬉しくて、私は心が躍る。
それなのに。
「前に話したでしょ?好美ちゃんには色々と見せたいものとか教えたい事があるの。お習字も子ども達とするよりも…どうして逃げるの?」
少しずつ後ろに下がっていた私を絵里さんの言葉が止める。
「受験が終わってから、入学式を終えてから、高校生活が落ち着いてから。ちゃんと好美ちゃんの希望通りに待っていたわよ?」
「だって…忙しいもん。」
「時間は自分で作るものよ。好美ちゃんの希望を聞いていたら、いつになるか分からないわ。」
絵里さんの表情は、とても輝いていた。
それは家庭教師をしたいと言ったあの頃と似ていて。
「康太君。いいでしょ?好美ちゃんは、ちゃんと家まで送り届けるわ。」
絵里さんの言葉に、私は須賀君の事を思い出して振り向いた。
彼は先ほどと同じ場所で、立ったままだった。
「須賀君?」
呼ぶと須賀君が少し視線を泳がせた。
「どうしたのかしら?」
絵里さんの言葉に、また彼女に視線を戻して、私は初めてもう1人の存在に気付いた。
「倉田…直樹さん…。」
呟いた私の声に、直樹さんが視線を向けてくれる。
「久しぶりだね。姫野好美さん。」
どうして、この人は私の名前を知っているのだろう?
「彼、友達?」
直樹さんの視線が須賀君を捕らえた。 
「はい。家が隣で…同じ中学で。」
須賀君と私の関係を表現するのも難しい。

絵里さんが“親戚”だと言った気持ちが分かる気がした。

親戚とか知り合いとか、そういう単語は便利だ。



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