りなりあ

番外編 12 4/7 UP 
ありふれた日常 4/8 UP
ありふれた日常 5/30 UP

指先の記憶 第二章-42-

2009-10-16 00:08:06 | 指先の記憶 第二章

「ばいばい よしみ」
「…バイバイ…」
雅司君は、満面の笑顔で私に右手を振った。
左手は、しっかりと須賀君の手を握っていて、兄と2人で過ごせることを喜んでいるような、そんな気がした。
その姿を見ると、私がカレンさんの家に残るのは正しい気がするけれど。
「じゃ。姫野。響子、姫野のことよろしく。」
須賀君の言葉は、私を響子さんに託すことを意味している。
一緒に帰ろうと言ってくれなかった事に、私は不満を感じていた。
「ご心配なく。」
須賀君の言葉を受け取った響子さんの表情を確かめるのは、怖くて出来ない。
「雅司君、また会おうね。」
「ばいばい きょうこちゃん」
“子どものように甘える雅司君”の姿に、心がチクチクする私の手をカレンさんが包む。
「好美ちゃん。お留守番、お願いね。」
昨夜、帰宅したカレンさんは、とても慌てていた。
急に京都に用事が出来たから戻らなければならない、と言うのだ。
それなら、尚更私がここに残る必要はないから、須賀君達と一緒に帰れると思ったのに、カレンさんは私に留守番を頼んだ。
「響子ちゃんも一緒だから安心ね。」
どうして、響子さんもカレンさんの家に泊まるのか、その理由を問いたい。
そして、私は拒絶したいのに。
「うん。大丈夫。カレンさん忙しいけど…無理しないでね。」
本心を言葉にすることは出来なかった。
「好美ちゃん!あなたは、どうして?こんなに優しいのかしら!」
感嘆の声をあげるカレンさん。
「私は大丈夫だから。1人でも大丈夫だから。だから…響子さんには家に帰ってもらっても。」
小さな“抵抗”をしてみる。
「ダメよダメ!女の子1人で留守番なんて。」
「だって…響子さんの家…隣なんでしょ?」
彼女の家がカレンさんの隣の部屋だと知ったのは、昨日。
「私は大丈夫よ。」
響子さんが私の顔を覗き込んで、私は彼女と目が合って…そして思わず溜息が出る。
あからさまだと自分でも思う。
きっと皆も気付いているのに。
でも、須賀君とカレンさんは私が望む言葉をくれない。
「じゃ。姫野。響子、姫野をよろしく。」
「じゃあね。好美ちゃん、響子ちゃん。お留守番お願いね。」
そんな言葉を2人は残し、雅司君は笑顔で去って行く。
「好美ちゃん。」
2人になった空間で、響子さんが私の名前を呼んだ。
「仕方ないから諦めて。」
響子さんは私の気持ちに気付いている。
「好美ちゃん。早速…お願いがあるの。」
なぜか、とても楽しそうに。
響子さんが私に笑顔を向ける。
それが絵里さんに似ていて、私はこれからの1週間を考えて、ちょっと憂鬱になった。

◇◇◇

意外にも、私は退屈ではなかった。
どちらかと言うと忙しかった。
常に誰かが隣にいる状態で、常に誰かが私の行動を知っている。
ちょっと1人になりたい、そんな事を思ったのは大阪を発つ前日で、その気持ちはすぐに寂しさに変化した。
寂しいだろうと思っていたのに、寂しさを感じなかった1週間。
その1週間が終わることに寂しさを感じた自分が不思議だった。

◇◇◇

東京駅の構内で私を待っていた須賀君は、何かを言おうとして、そして言葉を飲み込んだ。
それは京都駅で乗ってきたカレンさんが、私の隣に座る前と同じだった。
2人とも、できれば素直に率直な言葉を発して欲しい。
「荷物送るって言うから、どれだけ増えたのかと思ったら、手荷物、少なすぎ。」
「だって」
「そりゃ、持てないだろうな。その格好で。」
「だって」
「新幹線の間は座っているだけだけど、これから階段やエスカレーターや、途中で疲れたからって、そんな格好の姫野を背負うなんて無理だからな。」
そんなに嫌そうな鬱陶しそうな視線を向けなくてもいいのに。
「背負ってもらわなくて大丈夫です!ちゃんと歩きやすくて疲れない靴だから!…なに?」
須賀君が笑う。
それがとても大人っぽくて、1週間離れていただけなのに。
須賀君は普段と変わらない普段着なのに。
普段滅多に着ないヒラヒラとしたスカート姿の私は、自分がどんな風に須賀君の瞳に映っているのか、少し気になった。



3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (まこと)
2009-11-23 22:20:13
更新待ってます♪
頑張ってくださいね^^*
返信する
Unknown (まこと)
2010-01-29 19:33:56
お久しぶりです^^
遅くなりましたがあけましておめでとうございます❤

入試がありなかなか書き込みできなかったですけど、やっと終わりました♪

お話の続き待ってますo(*^▽^*)o~♪
返信する
再開します! (みのり)
2010-02-07 04:12:06
まことさん。
と~っても長い間、更新せず…お待たせしました!
その間、まことさんは“入試”だったんですね。
“りなりあ”が、少しでもお勉強の合間の息抜きにでもなれば…と思っています。
これからは更新、頑張っていきますね!
返信する

コメントを投稿