りなりあ

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約束を抱いて 第三章-28

2007-09-27 23:06:04 | 約束を抱いて 第三章

桐島太一郎の名前の下には、彼の子供達の名前が書かれている。そして、その下に続くのは香坂杏依の名前。
“香坂”は杏依の旧姓だ。
そして、その杏依の隣には新堂晴己の名前があり、晴己の祖父母と両親の名前も書かれている。
晴己の“従姉弟”や、杏依の“従兄弟”の名前は伏せられているが、むつみは彼らの名前が分かる。
むつみは雑誌を閉じた。
意外な事に、批判的な内容は書かれておらず、桐島太一郎の孫娘と新堂晴己が婚約し、それを祝福する内容だった。
「…私は関係ないもの。」
晴己とは親戚関係でもなければ、当然ながら家族でもないと分かっているが、このように図で見てしまうと、改めて他人である事を思い知らされた。
笹本絵里は、この系図に名前を載せる事が、近い将来可能になる。新堂晴己の従弟の妻として、ここに自分の存在を現わす事が出来る。
むつみは寂しい気持ちを紛らわす為にアルバムを開いた。
むつみは晴己の写真を探す為に書庫に来たのだ。碧が見せてくれた写真だけではなく、他の写真を見たかった。むつみの記憶に残っていない出来事を写真なら残してくれている。
その当初の目的を果たす為に開いたアルバムの中には、目的の写真よりも随分と古い写真が並んでいた。
「お母さん?」
子供の頃の碧が写っていた。
「おじいちゃん、なのかな?」
むつみは、碧が大人達と写っている写真を見た。
むつみは碧の両親の写真を見るのは初めてではないが、普段見える場所に飾られているわけではない為、記憶に殆ど残っていない。
「おじいちゃんと、おばあちゃんと、誰かしら、この人?」
不思議に思って次を捲る。
「おとうさん?」
そこには、むつみの父親が写っていた。
そして、父と一緒に写っているのは、碧と先ほどの女性だった。
むつみはアルバムを閉じた。
むつみが見たかったのは晴己の写真だ。
箱の一番上に置かれていた写真の束だけを取り出し、アルバムや雑誌を箱に戻そうと思った。
しかし、むつみは妙に感じた。
大量の雑誌があるのなら、碧が女優として雑誌に書かれる噂などを気にし、毎回購入していても変ではない。
だが、ここにある雑誌は全て年代が違った。
晴己と杏依が結婚する前の雑誌。
碧の結婚式の写真が載せられた雑誌もあった。
もしかすると、碧は自分に関係する雑誌だけを残していたのかもしれない。
それに、桐島太一郎に関する記事を読む限り、批判的な内容だけを載せる訳ではないようだ。
むつみは雑誌を手に取った。

◇◇◇

「むつみちゃん?どうしたの?」
改札を出た涼は、手を振るむつみを見つけて、思わず彼女に駆け寄った。

「本屋に行ったら遅くなっちゃった。暗くなったから、涼さんが帰ってくるのを待っていたの。」
「もし来なかったら?」
「それも考えたわ。もしデートだったらどうしようって。でも涼さん最近彼女いないみたいだし。」
「幸せなむつみちゃんに言われると、余計に落ち込むな。」
涼は変だと思った。
涼が帰宅する時間など明確ではないし、瑠璃に電話する事も出来る。橋元の家に行かず、ここで待つと言うのは、涼を待っていたことになる。
「もし涼さんが乗っていなくても、一時間後なら優輝君が帰ってくるから。」
涼はむつみが抱えている本屋の袋を彼女の腕から少し強引に取り上げた。
「優輝が帰ってくる時間までウロウロとしていたら心配するだろう。瑠璃さんに電話するよ。」
その言い方が、むつみを心配する晴己に似ている気がして、涼は自分に驚いていた。
「…大丈夫。」
「むつみちゃん?」
「瑠璃さんには話してきたから。涼さんに会うから、一緒に御飯を食べるから。後で迎えに来て欲しいって。」
むつみが涼を見上げて、そして視線を逸らす。
「むつみちゃん。」
涼の声に、むつみは戸惑いながら視線を上げた。
「何が食べたい?」
涼の優しくて柔らかい声に、強張っていたむつみの頬が少しずつ緩んだ。