りなりあ

番外編 12 4/7 UP 
ありふれた日常 4/8 UP
ありふれた日常 5/30 UP

約束を抱いて 第三章-27

2007-09-26 01:19:20 | 約束を抱いて 第三章

1階では家政婦達が忙しく働いていた。
晴己が連れてきた家政婦達に碧は好感を持ったようで、彼女達は斉藤家で働く事が決まった。そして週末は帰宅できないと言っていた碧は撮影に変更があり、急に休暇が取れることになった。その為、むつみが週末を新堂の家で過している間に大掃除が始まったようだった。

忙しそうな彼女達に遠慮してしまい、むつみは自分で書庫の鍵を持ち出した。
古い箱は、前回和枝と一緒に書庫に来た時も置かれていた。
半開きの上部を開けて中を見ると、古いレコードが入っていて、その写真は碧の若い頃だと分かる。碧が恥ずかしいと言った映像を思い出す。
あの歌のメロディーは、むつみの耳の奥に残っている。
全部聞いてみたいと思うが、レコードを持ち出すことに、むつみは躊躇した。
いつか母が聞かせてくれる時が来るだろうと期待して、むつみは箱を元通りに閉めた。

◇◇◇

ダイニングに戻り、片付けられた室内を見て、むつみはこの機会に、自室の掃除をしようかと考えた。やはり桜学園の中学部の制服は処分した方がいいだろうと思う。
碧が帰宅して、むつみに一冊の本を差し出した。
書庫の整理をした時に役立つ本を探してみたが、料理の本は新しいほうが良いと考えて、むつみの為に買ってくれたようだった。
書庫の本が移動していた理由が分かり、むつみは新しい本を見て、碧に礼を言った。
「むつみ、書庫の本を整理した時にね。」
碧が一枚の写真を差し出した。
「…はる兄?」
写っているのは晴己だった。
「懐かしいでしょ?晴己さん、今のむつみよりも年下よ?」
晴己の背後の景色を見て、それが優輝と出会ったテニスコートだと、むつみは分かった。
晴己と手を繋ぐ幼い少女が自分だということも分かる。
「…他にもあるの?」
「あったわよ。他は書庫に置いたままだけど。さすがに大変で昨日は少し整理しただけ。本は読まないなと思っても、捨てられないわね。むつみが欲しそうな本も見つからなかったから、料理の本は新しい本がいいかと思って。」
「…書庫の本は捨てないの?」
「そうね。しばらくは。」
むつみは母にレコードの事を聞くのを戸惑い、本という単語で尋ねた。
「懐かしい物が、たくさんあったわ。見ていると捨てられなくなるの。」
それが母の答えだと分かり、むつみは安心して、再び写真の中の晴己を見た。

◇◇◇

翌日、むつみは学校が終わると急いで帰宅した。
新しい家政婦達は次々と家を綺麗にしていき、和枝は久しぶりに手の込んだ料理を作ると張り切っていた。
今日は庭の手入れの為に業者も来ている。
慌しい家の中で、むつみは今日も書庫の鍵を自分で開けた。
母のレコードが詰まっている箱を持ち上げる。
少し重く感じるがサイズが小さくて、むつみでも持ち上げる事が出来たが、古い箱は傷んで弱くなっている。
そして、下にある箱は随分と丈夫だった。
昨日は、新しい箱の上に古い箱が乗せられているのが不思議だった。以前から書庫にあった箱の上に、他の新しい箱を乗せるのなら、古い箱が下になると思ったからだ。
しかし改めて、むつみは丈夫な箱の上に弱い箱が乗せられるのは当然だと思い、違和感を感じた自分を不思議に思いながら飲料水の箱を開けた。
箱の中には、むつみが思ったように写真の束が入っていた。
写真の束の下には分厚い本があり、むつみはそれがアルバムだと分かり、それも取り出した。
そして、その下には、以前本棚に並んでいたはずの雑誌が入れられていた。
むつみは昔から雑誌などを読むことを避けていた。読むだけでなく目に触れるのも好きではなかった。有名人の私生活や世の中の事件を中心に書かれている雑誌には星碧の名前が載ることもあり、例え良い内容でも出来る限り見ることを避けていた。
むつみは、数冊の雑誌を捲った。
「あ。桐島太一郎…先生。」
むつみの呟きが、書庫の中に響いた。
まるで、他人の生活を勝手に見るような感じがして、そんな事をしてはいけないと思いながら、むつみはページを捲る。
『桐島太一郎氏と、その孫娘。』
むつみは読む事を躊躇した。
『系図』
と書かれたページには、むつみの良く知る人達の名前が並んでいた。