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夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ホットフラッシュ ワタシたちスーパー・ミドルエイジ!』

2014年02月18日 | 映画(は行)
『ホットフラッシュ ワタシたちスーパー・ミドルエイジ!』(原題:The Hot Flashes)
監督:スーザン・シーデルマン
出演:ブルック・シールズ,ダリル・ハンナ,ヴァージニア・マドセン,カムリン・マンハイム,
   ワンダ・サイクス,エリック・ロバーツ,マーク・ポヴィネッリ,シャーロット・グレアム他

飲み会でご一緒するお姉様方がおっしゃるには、
「生理があがったら女は最強。怖いものなし」。
ど、どう最強になるんですか!?……という疑問に答えてくれそうな作品です。

日本では未公開のアメリカ作品。
セルDVDは今月より販売開始、レンタルは先月から始まっています。

原題も“THE HOT FLASHES”、これはつまり更年期障害のほてりのこと。
副題は、これまで頻繁に登場した「俺たち○○」に倣ってでしょう。
どうしよう、「ワタシたち、ほにゃらら」が増えたら。

なぜかこのごろ顔がほてる。
更年期障害にはまだ早すぎる、そんなはずはない、いや、やっぱり?
症状に愕然とするベス(ブルック・シールズ)は、
そんな気持ちを汲んではくれない夫ローレンスにイライラ。

ある日、ベスは町の乳癌検診車が廃止されることを知る。
その検診車は、ベスの親友で乳癌で亡くなったテスの遺産で継続されていたもの。
男性陣は“テスのオッパイ号”と呼んでからかうが、
病院に行くには不便な地域を巡回し、そのおかげで救われたという女性も多い。

テスの遺志を絶ちたくない、そう考えたベス。
検診車を継続するためには2万5千ドル必要とのこと。
たとえ1桁安かったとしても、いまのベスの家庭につぎ込める余裕はない。

なんとかならないものなのか。
ゴミ箱を狙ってゴミをシュートしたら、立て続けに成功。
そのとき、ベスの頭に妙案がひらめく。

高校時代のベスはバスケットボールの選手。
同じ地域に暮らすかつての名選手たちを集めてチームを結成し、
現役女子高校生チームと対決するのはどうだろう。
チャリティーとして開催し、入場料を頂戴する。そして賭け金も集めよう。
どうせみんな相手チームに賭けるから、私たちは自分のチームに賭けて勝てばいい。

ベスは高校時代のアルバムをめくると、車の販売会社に勤めるジンジャー(ダリル・ハンナ)、
市長選に出馬して黒人初の市長になりたいフロー(ワンダ・サイクス)、
ドラッグ入りのお菓子をつくるのが得意なロキシー(カムリン・マンハイム)、
結婚と離婚をくり返すクレメンタイン(ヴァージニア・マドセン)に声をかける。

4人とも最初は呆れた顔をするが、そろそろと練習場所へやって来る。
現役女子高校生チームはテキサス州の地区王者、しかもベスの娘であるジョスリンもいる。
ジョスリンのチームメイトで腹黒いミリーとその母親ケイラに嫌みを言われながらも、
ベスたちはいつしか本気で勝とうと練習に没頭していくのだが……。

あの可愛かったブルック・シールズの赤くほてった顔のアップではじまります。
ちなみに、ブルック・シールズ48歳、ダリル・ハンナ53歳、
ワンダ・サイクス49歳、カムリン・マンハイム52歳、ヴァージニア・マドセン50歳。
もう見ているのがツライのなんのって。(^^;

ベスがコーチを依頼するのは、バスケ大好きな小人症の元・獣医ポール。
彼が獣医免許を剥奪されたのは、「歯を磨いてやりたくて犬を誘拐したから」。
このポールが非常にいい味を出しています。

更年期障害が出てきたかなと思う女性はぜひご覧ください。
大笑いや大泣きはありませんが、練習が始まるころからがとても楽しい。
きっと元気がもらえます。

彼女たちに勇気づけられて各地で結成されたというチームの名前が、
どれも更年期障害のいずれかから取ったというのがワラけました。
うん、やっぱり「最強」かも!?

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『新しき世界』

2014年02月16日 | 映画(あ行)
『新しき世界』(英題:New World)
監督:パク・フンジョン
出演:イ・ジョンジェ,チェ・ミンシク,ファン・ジョンミン,パク・ソンウン,
   ソン・ジヒョ,チュ・ジンモ,チェ・イルファ,チャン・グァン他

眼鏡が無事に見つかり、ふたたび階下のシネリーブル梅田へ。
最後列端っこ席を確保していたので、もしも眼鏡が行方不明のままだったら、
最前列に変更を依頼してみなくてはと思っていました。
見つけてくれたお姉さん、ほんとにありがとうございます。

監督は『悪魔を見た』(2010)の脚本家。
監督作としては本作が2作目、早くもハリウッドリメイクの話が出ているそうです。
この日のハシゴ3本は、1本目2本目は泣くこと必至としても、
こんな男くさいヤクザ映画にも泣かされるとは思いもよらず。し、渋すぎる。

韓国最大の犯罪組織でありながら、表向きは巨大な一般企業を装うゴールド・ムーン。
暴力団2組が手を組んで構成し、細かに分業している。
かねてから警察は目をつけているものの、
悪事の証拠を挙げるのは不十分でどうにもできない。

ゴールド・ムーンで潜入捜査を続けるソウル警察の警察官イ・ジャソン。
潜入してから8年が経過、いまや組織のナンバー2であるチョン・チョンの右腕となり、
部下はもちろんのこと、理事たちからもその存在を認められている。
しかし、終わりの見えない神経をすり減らす生活に疲れたジャソンは、
まもなく妻との間に生まれる予定の子どもためにも、一刻も早く警察に戻りたい。

そんな折り、ゴールド・ムーンの会長が事故に遭って死亡。
急死だったために、後継者が決まっていない。
後継者争いをかき回すことが有効だと考えたソウル警察は、
チョン・チョンと、チョン・チョンに敵対するイ・ジュングの双方に罠を張ることにし、
ジャソンの上司に当たるカン・ヒョンチョルがジャソンを呼び出す。

毎度今回が最後の仕事だと言われて辟易しているジャソン。
だが、断ろうにも、潜入捜査の事実を知っているのはヒョンチョルを含む数名だけ。
ジャソンはヒョンチョル抜きでは警察に戻ろうにも戻れないのだ。

チョン・チョンとジュングを潰し、ジャソンがゴールド・ムーンを乗っ取る。
この一大プロジェクトに与えられたのは“新世界”という名前。
悲痛な思いに駆られながら、ジャソンは行動するのだが……。

キャッチコピーは、「“父”への忠誠か、“兄”との絆か」。
ヤクザとしての生き方を続けるうちに、外見はもちろんのこと、
心までヤクザになってしまったような気がするジャソン。
けれども、暴力的であることだけがヤクザなわけではないでしょう。
ヤクザとして生きる前に、人としてどう生きるべきか、そう問われているように思います。

冒頭でも書いたとおり、本作に泣かされるとは思ってもみませんでした。
チョン・チョン役のファン・ジョンミンは、
風貌や声や話し方がどことなくジョン・レグイザモに似ています。
ちゃらんぽらんで軽薄そうな見た目ながら、実は冷徹なキレもの。
そして情にも厚かったことがわかる段には涙ほろり。
もともとワァワァ号泣する(特に女性が)場面ではあまり泣けない私ですが、
このチョン・チョンがいま死ぬかという状態でジャソンに掛ける言葉と、
涙を必死にこらえるジャソン役のイ・ジョンジェの表情には泣かずにいられず。

「悩むなよ。この辺で選べ。お前が生きのびるために」。
そうしてジャソンが選んだ道。

ハリウッドリメイクしたら、キャストはいかに?

〈追記〉監督が女性だと知ってぶっ飛びました。しかもデブデブの。(^^;
    こんな男くさい映画が撮れるおばちゃん監督、すげぇ。

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『7番房の奇跡』

2014年02月14日 | 映画(な行)
『7番房の奇跡』(英題:Miracle in Cell No.7)
監督:イ・ファンギョン
出演:リュ・スンリョン,パク・シネ,カル・ソウォン,チョン・ジニョン,オ・ダルス,
   パク・ウォンサン,キム・ジョンテ,チョン・マンシク,キム・ギチョン他

前述の『光にふれる』でなんとも言えず温かい気持ちに。
そんなぬくぬくのまま上階にある梅田ガーデンシネマへ。
この名前の劇場で映画を観る機会もあとわずか。
退会手続きのさいにもらった招待券を使用して鑑賞。

『光にふれる』を観る前に寄っていますから、整理番号は1番。
たまには端っこでなくて真ん中で観ようと、最後列中央の席へ。
ところが、上映前に、外した眼鏡を襟もとに掛けて本を読んでいたら、
ふとした拍子に眼鏡を落としてしまいました。座席付近を探すも見当たらず。
最後列では字幕が読めないと、仕方なく最前列へ移動して。

韓国では4人に1人が観た計算になるという大ヒット作品。
絶対泣くにちがいないと思いつつ。

知的障害を抱えるヨングは、男手ひとつで娘イェスンを育ててきた。
6歳のイェスンは、精神年齢が6歳とも言える父親が大好き。
数字の記憶だけはバッチリのヨングのもと、さまざまな支払いはイェスンがしっかり把握。
ふたりの生活は裕福ではないが幸せそのもの。

ヨングとイェスンはショーウィンドウのランドセルを眺めるのが日課。
次の給料が入ったら、イェスンのランドセルを買おう。
セーラームーンのイラスト入りの黄色いランドセル。
しかし、明日になれば買えるという日に、目の前で最後の1つが買い上げられてしまう。
購入者の警察庁長官一家にヨングはすがりつくが、もちろんどうにもならない。

翌日、あのランドセルの持ち主である長官の娘がヨングの前に現れる。
「まだランドセルを売っている店を知っているよ。教えてあげる」。
そう言われてヨングは娘についていく。
先を走る娘を見失ったあと、悲鳴が聞こえてヨングは仰天。
声の場所を辿ってみると、そこには頭から血を流した娘が倒れていた。
救命措置をほどこすヨングを見た女性が変質者と勘違い。
娘は死亡し、ヨングは幼女誘拐と強姦の罪で刑務所へ。

同房となった囚人や刑務所の職員らは、ヨングの罪状を聞いて毛嫌いするが、
何が起きたのかわからないヨングは、ただただイェスンのことが心配。
イェスンに電話をかけようとして保安課長からこっぴどく殴られる。

罪状から考えれば極悪人のはずのヨング。
しかし、同房の兄貴分で元ヤクザのヤンホは、
敵対する囚人から刺されそうになったところをヨングに助けられる。
代わりに大けがをしたヨング。
また、刑務所内の火事のさいには、保安課長がヨングに救われる。
医師の「あいつ、本当に誘拐犯ですか。誘拐されたほうじゃないの」という冗談に、
保安課長は再捜査すべき案件だと考えはじめるのだが……。

泣くでしょ。そら泣きます。
この日ももうじき閉館とは思えないほどの入りのお客さん、
涙もろい私でもそんなに泣かないというぐらい、みんなハナずるずる。

お涙頂戴的ではあるので、泣くには泣いたけど、見え見えな感もあります。
けれども知的障害者の置かれた状況に考えさせられることしばしば。
そんな作品でありながら、湿っぽくないのがいい。
成長したイェスンを見れば、彼女が愛情をいっぱい注がれて育ったことがわかり、
いまの自分の環境に感謝しつつ、なんとか父親の冤罪を晴らしたい、
その一心が伝わってきます。

そして、評価したいのは泣きの部分よりも笑いの部分。
ヤンホ役のオ・ダルスをはじめとする同房の囚人たち。
このオ・ダルスという役者は、顔だけでワラかしてくれる人。
『拝啓、愛しています』(2011)では妙なホクロだけで笑えて、
ボケるのもツッコむのも絶妙の間合い。
囚人らが、ヨングがイェスンに会えるように策を練った末、
作戦を決行する姿は吉本新喜劇並みの可笑しさです。

さて、終映後、行方不明の眼鏡を探すために最後列へ。ない、ない、な~い!
老眼が来ているゆえ、近眼用の眼鏡をかけたまま本は読めませんが、
探し物をするのに眼鏡がないとツラすぎる。
あきらめかけたとき、通りかかった若い女性が「どうかしはりました?」と。
「眼鏡を落としたんです」と言ったら、前方の席下を指差して「あそこに!」。
ありがとうございます~。本当に助かりました。
しかしどこまで飛んでいくねん、私の眼鏡。

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『光にふれる』

2014年02月12日 | 映画(は行)
『光にふれる』(原題:逆光飛翔)
監督:チャン・ロンジー
出演:ホアン・ユィシアン,サンドリーナ・ピンナ,リー・リエ,シュウ・ファンイー他

2012年の台湾/香港/中国作品。
先週末よりシネリーブル梅田にて公開中。

日本では佐村河内守氏のゴーストライター騒動で持ちきりですが、
本作は正真正銘の視覚障害者で、国際的に活躍する台湾の天才ピアニスト
黄裕翔(ホアン・ユィシアン)の半生を基にした作品です。
これまで演技経験はなかったというユィシアン本人が主演。
本作が長編デビュー作となるチャン・ロンジー監督、
そして製作総指揮に当たったのは巨匠ウォン・カーウァイ監督だそうで。

生まれつきの視覚障害者ながら、計り知れぬピアノの才能を持つユィシアン。
一度聴いた音楽は何でもピアノで奏でることができる。
普通学級にかようことも小学校時代に試みたが、
子どもゆえの心ない言動に傷つけられ、ずっと聾学校で過ごしてきた。
大学生になった今、台北で寮生活を送ることを決意する。

視覚障害者を受け入れるのは大学側も初めてで、教員は不安を隠せない。
クラスメートらも物珍しそうに彼を見るだけ、話しかけては来ない。
構内を歩くさいに付き添うことをあからさまに鬱陶しがる学生も。

クラスメートのそんな態度に、ユィシアンは独りで構内を歩けるようにと、
寮生活を始めるに当たって台北へ出てきた母親の手を借りて練習する。
幸いにも寮のルームメイトであるチンは気のいい奴。
ズケズケものを言うが、ユィシアンにまったく普通に接する。
ユィシアンの母親は息子をよろしくとチンに頼み、帰ってゆく。

体育学部でありながらヴァイオリンが得意なチンは、
軽音楽部等に対抗してスーパーミュージック部、略してSM部を結成しようと言い、
ユィシアンや数名の仲間を集めて部員勧誘。
行き交う学生を見つめながら「どんな女性がタイプか」とチンに問われたユィシアンは、
「優しい人。そして声の綺麗な人がいい」と答える。
そのとき、ドリンクの配達にやってきた無愛想な女性シャオジエの声に惹かれるユィシアン。

シャオジエはダンサーへの夢を捨てきれないまま、ドリンク店でバイト中。
恋人の浮気現場を目撃して涙に暮れ、空虚な日々を過ごしていたが、
街なかで右往左往しているユィシアンを見かけて助ける。
以来、ユィシアンとシャオジエはたびたび会うようになるのだが……。

光の射し方が美しかった作品といえば、すぐに私が思い浮かべるのは『言の葉の庭』(2013)。
アニメと実写では異なるでしょうけれども、本作はそれに勝るとも劣らない美しさ。
すべての場面のどこかに光が射していて、心が洗われます。

「もしも目が見えるようになったとしたら、何をしたいか」と問うシャオジエに、
ユィシアンは「自由に歩きたい」と答えます。
誰にもぶち当たらずに歩いて、カフェに入って、窓辺の席に座る。
特別なことではなく、普通のことがしたいんだと。

ダンサーになるのは無理だ、そう思っていたシャオジエは、
「やってみなくちゃ」とユィシアンから言われたことで、一歩を踏み出します。
目を閉じて歩いてみて、目の不自由な人が一歩を踏み出すには、
目の見える人がそうすることよりも大きな決意が要ること、
そしてどんな不幸も人生の妨げになることばかりではないと気づきます。

母親は、生後まもないユィシアンの目が見えないとわかったとき、
「その場で捨てて帰ろうかと思った」と。
だけどそのとき、ユィシアンが笑った。それを見て、ハッとしたと。
「目が見えないだけじゃないか。私はなんて馬鹿だったんだろう」。

ドリンク店の見た目はチビデブのイケてないオーナーもとてもいいキャラ。
心が荒んでいたシャオジエに光を与えるもう一人の人物でしょう。

幼い頃に出場したコンクールで優勝したにもかかわらず、
目が見えなかったから同情されたのだと陰口をたたかれ、
コンクール出場を拒絶するようになったユィシアン。
SM部の一同と代替教員がユィシアンを担ぎ出して駆けつけるコンクールの演奏に、
胸が熱くなりました。泣いた、泣いた。

やっぱり私は台湾映画が大好きみたい。

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『小さいおうち』を読みました。

2014年02月10日 | 映画(番外編:映画と読み物)
原作は未読のまま、試写会で観た『小さいおうち』
すぐに原作を読んでみたくなりましたが、
ほしいと思った本を即購入していたら、未読本がいつのまにか150冊に。
これ以上ふやしてはならないと、ここ数週間は購入を自重していました。

ところがこの間、その日読んでいた本を出先で想定外に読了、
嗚呼、もう1冊持ってくるんだったとガックリ。
思わず本屋に飛び込んで、これを買ってしまったのでした。

読んでみてたまげました。たまげたというのは大げさですけれども。
山田洋次監督はやっぱり凄い人だなぁって。

最近は原作を読んでから映画を観ることのほうが多いですが、
そうでもなかった数年前、『その日のまえに』(2008)のことが思い出されます。
大林宣彦監督の作品はもともと得手ではなく、
『その日のまえに』も映画版は「なんだかなぁ」と感じたのに、原作を読んでぶっ飛び、
それをあんなふうに映画化した大林監督は凄い人だと思い直しました。

『小さいおうち』に関しては、映画版も好きでしたから、
『その日のまえに』の原作を読んだときとは入り方がそもそも違いますが、
これをこういうふうに映画化するのかとタマゲタ度は同じくらい、
そして山田監督は素晴らしいとあらためて思ったのでした。

話の大筋は変わりません。
『北のカナリアたち』(2012)のような、原作ではなく原案と言うに留まるわけでもなく、
どこからどう見ても、まちがいなく原作そのままです。
しかし、少しずつ変えられた状況に非常に興味を惹かれます。

たとえば、タキ(黒木華)が最初に奉公した作家の小中先生(橋爪功)宅での話。
小中先生がタキに聞かせる「気配りのできる女中」についての例。
原作と映画とどちらが良いということではなく、映画の例はとてもわかりやすい。

タキが小児麻痺にかかった幼い恭一(秋山聡)をおぶって、
来る日も来る日も整形外科へかよったのはうだるような暑さの夏のこと。
その苦労と努力を認めた治療師(林家林蔵)が、タキにマッサージ法を伝授して、
これからは君が坊ちゃんにやってあげなさいと言います。
それが原作では年の暮れのこと、病院も正月休みに入るため、
やむをえずタキが医者の代わりにマッサージすることになります。

平成のタキ(倍賞千恵子)の様子をしょっちゅう見にくる優しい健史(妻夫木聡)が、
原作ではもっと辛辣にタキを嘘つき呼ばわりする甥の次男だったり、
初婚同士以外だとは思ってもみなかった時子(松たか子)と雅樹(片岡孝太郎)夫婦が、
原作ではそうではなくて、しかもそんなワケありだったのかと驚いたり。

雅樹がタキの見合い相手に選んだ和夫(笹野高史)には、映画・原作共に大笑い。
悲しむタキの気持ちを汲んで、時子は「ずうずうしいにもほどがある」と。
若い男性は兵隊に取られるかもしれないからと言い訳する雅樹に、
「(あんなジジィなら)鉄砲玉に当たらなくても死ぬかもしれない」、そりゃそうだ。
そして、原作ではちょっとだけ描かれていたお見合いのシーンは、
映画では笹野さんのためであろう演出がなされていて印象深い。

原作ならではの楽しみだったのは、タキが工夫をこらした数々の料理。
洋風化が進むなか、「クリームシチュウの付け合わせにはナマス」などという、
わけのわからない取り合わせが雑誌に掲載されたりして、
それは変だと感じたタキが、自らパンを焼きます。
米の節約も強いられるご時世で、なんとかあるもので美味しくと、
落花生を砕いたものに砂糖を落としてつくるピーナッツバターが実に美味しそう。
こうした料理が映画にも登場すれば楽しかったでしょうけれども、
それでは『武士の献立』ならぬ『タキさんの献立』になってしまう。(^^;

映画では時子とどうかなるには色気がなさすぎると感じた正治(吉岡秀隆)。
原作を読んで誰だったらイメージできたかなと考えたら、
ひょっと思い浮かんだのが斎藤工。いかがでしょ?

数週間前、笹野さんのエッセイが載っている新聞を読みました。
黒木華を見て「この人がボクのものになるんだとつぶやいたら、
山田監督に笑われました」とのこと。
相変わらずワラかしてくれます、笹野さん。

映画は観たけれども原作は読んでいないという方には、
ぜひお読みになることをおすすめします。

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