夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『小さいおうち』を読みました。

2014年02月10日 | 映画(番外編:映画と読み物)
原作は未読のまま、試写会で観た『小さいおうち』
すぐに原作を読んでみたくなりましたが、
ほしいと思った本を即購入していたら、未読本がいつのまにか150冊に。
これ以上ふやしてはならないと、ここ数週間は購入を自重していました。

ところがこの間、その日読んでいた本を出先で想定外に読了、
嗚呼、もう1冊持ってくるんだったとガックリ。
思わず本屋に飛び込んで、これを買ってしまったのでした。

読んでみてたまげました。たまげたというのは大げさですけれども。
山田洋次監督はやっぱり凄い人だなぁって。

最近は原作を読んでから映画を観ることのほうが多いですが、
そうでもなかった数年前、『その日のまえに』(2008)のことが思い出されます。
大林宣彦監督の作品はもともと得手ではなく、
『その日のまえに』も映画版は「なんだかなぁ」と感じたのに、原作を読んでぶっ飛び、
それをあんなふうに映画化した大林監督は凄い人だと思い直しました。

『小さいおうち』に関しては、映画版も好きでしたから、
『その日のまえに』の原作を読んだときとは入り方がそもそも違いますが、
これをこういうふうに映画化するのかとタマゲタ度は同じくらい、
そして山田監督は素晴らしいとあらためて思ったのでした。

話の大筋は変わりません。
『北のカナリアたち』(2012)のような、原作ではなく原案と言うに留まるわけでもなく、
どこからどう見ても、まちがいなく原作そのままです。
しかし、少しずつ変えられた状況に非常に興味を惹かれます。

たとえば、タキ(黒木華)が最初に奉公した作家の小中先生(橋爪功)宅での話。
小中先生がタキに聞かせる「気配りのできる女中」についての例。
原作と映画とどちらが良いということではなく、映画の例はとてもわかりやすい。

タキが小児麻痺にかかった幼い恭一(秋山聡)をおぶって、
来る日も来る日も整形外科へかよったのはうだるような暑さの夏のこと。
その苦労と努力を認めた治療師(林家林蔵)が、タキにマッサージ法を伝授して、
これからは君が坊ちゃんにやってあげなさいと言います。
それが原作では年の暮れのこと、病院も正月休みに入るため、
やむをえずタキが医者の代わりにマッサージすることになります。

平成のタキ(倍賞千恵子)の様子をしょっちゅう見にくる優しい健史(妻夫木聡)が、
原作ではもっと辛辣にタキを嘘つき呼ばわりする甥の次男だったり、
初婚同士以外だとは思ってもみなかった時子(松たか子)と雅樹(片岡孝太郎)夫婦が、
原作ではそうではなくて、しかもそんなワケありだったのかと驚いたり。

雅樹がタキの見合い相手に選んだ和夫(笹野高史)には、映画・原作共に大笑い。
悲しむタキの気持ちを汲んで、時子は「ずうずうしいにもほどがある」と。
若い男性は兵隊に取られるかもしれないからと言い訳する雅樹に、
「(あんなジジィなら)鉄砲玉に当たらなくても死ぬかもしれない」、そりゃそうだ。
そして、原作ではちょっとだけ描かれていたお見合いのシーンは、
映画では笹野さんのためであろう演出がなされていて印象深い。

原作ならではの楽しみだったのは、タキが工夫をこらした数々の料理。
洋風化が進むなか、「クリームシチュウの付け合わせにはナマス」などという、
わけのわからない取り合わせが雑誌に掲載されたりして、
それは変だと感じたタキが、自らパンを焼きます。
米の節約も強いられるご時世で、なんとかあるもので美味しくと、
落花生を砕いたものに砂糖を落としてつくるピーナッツバターが実に美味しそう。
こうした料理が映画にも登場すれば楽しかったでしょうけれども、
それでは『武士の献立』ならぬ『タキさんの献立』になってしまう。(^^;

映画では時子とどうかなるには色気がなさすぎると感じた正治(吉岡秀隆)。
原作を読んで誰だったらイメージできたかなと考えたら、
ひょっと思い浮かんだのが斎藤工。いかがでしょ?

数週間前、笹野さんのエッセイが載っている新聞を読みました。
黒木華を見て「この人がボクのものになるんだとつぶやいたら、
山田監督に笑われました」とのこと。
相変わらずワラかしてくれます、笹野さん。

映画は観たけれども原作は読んでいないという方には、
ぜひお読みになることをおすすめします。

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