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『蜩ノ記』

2014年10月08日 | 映画(は行)
『蜩ノ記』
監督:小泉堯史
出演:役所広司,岡田准一,堀北真希,原田美枝子,青木崇高,寺島しのぶ,
   三船史郎,井川比佐志,串田和美,吉田晴登,小市慢太郎,渡辺哲他

TOHOシネマズ梅田にて、日曜日の初回に鑑賞。
もっと混んでいるかと思いましたが、意外に少ないですねぇ。

さばのゆ大学へ行ったとき、アラ還のお姉様からお借りしたのが本作の原作。
時代劇も苦手なら時代小説も得手ではない私。
実際のところ、別の知人から借りた『のぼうの城』の原作は映画ほど楽しめず、
時代劇は好きになりかけているけれど、時代小説はまだまだ無理かもと思っていました。
が、そのお姉様が貸してくれた高田郁の『銀二貫』を読んでみたら、
大阪が舞台でなじみの場所ばかり出てくるせいもあるのか、めっぽう面白い。
高田郁はばっちりOKとわかりましたが、はたして葉室麟はどうなのか。
あまり気乗りはしないまま頁を開いてみたら……めちゃめちゃいいではないですか。
睡眠時間第一の私が寝る間を惜しんで読了、公開に間に合いました。

豊後の羽根藩で祐筆を務める檀野庄三郎(岡田准一)は、
同じく祐筆役で親友の水上新吾(青木崇高)の拝領紋に墨を飛ばしたうえに、
墨のついた新吾の顔を見て思わず笑う。
怒って剣を抜いた新吾を退けようとしたところ、斬りつけてしまう。

城内で刃傷沙汰を起こせば普通は両者切腹ものだが、
新吾が家老・中根兵右衛門(串田和美)の甥だったことから罪を免じられる。
その代わりに庄三郎が言いつけられたのが、僻村で幽閉中の戸田秋谷(役所広司)の監視。

10年前、秋谷は郡奉行の身でありながら、側室のお由の方(寺島しのぶ)と不義密通、
さらには現場に駆けつけた小姓を斬り捨てたとして、切腹を命じられた。
しかし、羽根藩主の三浦兼通(三船史郎)は、学問が非常によくできる秋谷に
藩の歴史の調査とそれをまとめた家譜の編纂をさせたいと思い、
10年後の8月8日を秋谷の切腹の日と定め、それまでに家譜を完成させるようにと命じる。
それから7年が経過し、秋谷に残されたのがあと3年というとき、
庄三郎が秋谷の監視役を仰せつかったのだ。

向山村の秋谷のもとを訪れる庄三郎。
側室との不義密通がゆえの幽閉なのだから、単身で暮らしているのが当然と思えるが、
秋谷は妻の織江(原田美枝子)、娘の薫(堀北真希)、息子の郁太郎(吉田晴登)と暮らし、
家族らは秋谷の無実を少しも疑っていない様子。

慎ましくも穏やかで笑顔ある一家と過ごす毎日。
切腹の日が迫っているというのに、淡々とひたむきに家譜の作成に取り組む秋谷。
そんな姿に庄三郎は感銘を受け、秋谷の命を救うためにも真相を知りたいと思うのだが……。

それなりに良かったです。
が、原作を読んでいなかったら、よくわからないところがたくさんあったかも。
そもそも時代小説慣れしていないし、歴史も決して得意ではなかったため、
台詞に出てくる言葉を頭の中で漢字に変換できないのです。
たとえば「祐筆(ゆうひつ)」、それから「家譜(かふ)」とか。
本を読んでいたからわかりましたが、音だけ聞いても私はわからず。

原作は字で見ているからというのもありますが、文章が平易。
平易な文章で季節のうつろいや登場人物の心情が細やかに綴られているので、
さくさく読み進められますし、感じ入ることもできます。
また、真相に至るまでのミステリーとしても大変面白い小説でした。

で、それを読んでから本作を観ると、原作のダイジェスト版みたいな印象です。
冒頭のシーンにしても、庄三郎が墨を飛ばし、新吾が怒り、
庄三郎がいきなり走り出た理由なんて、原作を読んでいなかったら私には理解できなかったでしょう。
新吾の怒りをなんとか鎮めて取りはからってくれる人を探していたこと、
その場で剣を抜いたら切腹ものだとわかっていてとりあえず飛び出したことなどなど。
ほかにもさまざまなシーンで、未読だったら読み取れなかったことが多すぎて。

原作を貸してくれた人が、「映画は観に行こうかどうか迷っている。
私は役所広司よりも中井貴一だから」とおっしゃっていました。
確かに、この間『柘榴坂の仇討』で見た中井貴一のことを思い返すと、
役所広司に何の不満もないけれど、
もしかするとこれも中井貴一のほうが合っていたかもしれないと思います。

いずれにしてもお侍さんは大変ですね。
切腹せねばならぬことがわかっていて、わかっているからこそ日々を大切に生きるということ。
やっぱり、毎日悔いなく生きねばと思うのでした。力は入れすぎずに。

余談ですが、本作原作の直木賞受賞時の選評を観賞後に知りました。
浅田次郎は「定められた命を感情表現に頼らずに写し取った技は秀逸」と好評価、
林真理子が「主人公らが清廉すぎる」と評したということに苦笑してしまいました。
そらそうなんだけど、だからいいんだよぉ。

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