おかげさまで生きてます

日々の暮らしのなかで

高校生

2006年10月23日 | 日記・エッセイ・コラム
車を降りると、一人の高校生が視界の中に入ってきた。

仕事帰り。HOPE MENTHOLをひと箱だけ買おうと思って
コンビニに立寄った。
時間帯は少し遅めだったか。たむろしている高校生はいなかった。

店の前は車で埋まっている。
仕方なく、店の横に少しだけある駐車スペースに止める。

車を降りると、店の影に隠れるように
一人の男子が、自転車に乗っている。
そして、大きなパンにかぶりついた。

丸坊主。
野球部だろうか? 近くの某有名校の陸上部の選手だろうか?
僕の方を向く事もなく、自転車に腰掛けた彼は、
真正面を向いたまま、一心不乱に大きなパンを頬張った。

(旨そうやなぁ~)

実に旨そうにパンを食っている彼を見ながら、
ある記憶が甦った。

15年程前だろうか、本屋の駐車場で声を掛けられた事がある。

店に入ろうとしていた時、公衆電話の前でたたずむ女子高生がいた。
挙動不審ともとれる、落ち着きのない表情で、視線は常に彷徨っている。

(どうしたんかな?)

気にはなったが、声をかける事もなく店の中へ。

当時は必ず購入していた週刊プレイボーイを小脇に抱え、
車のキーを取り出しながら店を出る。

女子高生は相変わらず、辺をキョロキョロしながら、
困った表情のままだ。

車に乗り込みエンジンをかけようとした瞬間、
ミラーに何か動く物を感じた。

(うんっ?)

暗くてよくわからなかった。
改めてエンジンキーに手をかけると、
窓を叩く音。

びっくりして振り向くと、さっきの女子高生が立っていた。

「何か?」

やさしく問いかける僕。つとめて冷静を装った。
急に窓を叩かれて驚いた表情をしていただろうが、女子高生の事を思い、
冷静を装った。

 
「お金、貸してください」

 
か細い声で、しぼり出すように彼女は言った。

「えっ? お金?」

僕と彼女を結ぶ延長線上には公衆電話がある。

(そうか、電話代か)

ずっと困った表情をしていた彼女は、電話代がなかったのだ。
一瞬、本屋の電話を借りるか、お金を借りればいいと思った。
迎えに来てもらうなら、そのお礼も出来るだろう。

ただ、今、目の前に立つ女子高生にはその選択肢はないんだろうと思った。

「ええよ!」

財布を取り出し、小銭を探す。
10円玉を取り出し差し出す。ちょっと間をおいてから、

「足らなんだら、あかんやろ」

そう言って、さらに20円を手渡した。

 
「ありがとうございます。絶対に返しますから」

 
丁寧に頭を下げる彼女を見て、ちょっといい気分になった。

「ええよ」

 
今や、小学生でも携帯電話を持つ時代。
 
連絡を取る手段が公衆電話しかなかったあの頃。
 
 
コンビニを出ると、まだパンを頬張っている高校生を見ながら、
あの時の思いが少し甦った。
 







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