箕面三中もと校長から〜教育関係者のつぶやき〜

2015年度から2018年度に大阪府の箕面三中の校長を務めました。おもに学校教育と子育てに関する情報をのせています。

行動が変わると意識が変わる

2020年06月14日 08時32分00秒 | 教育・子育てあれこれ
今年の5月のこと、大阪府内の学校のある女性教員は妊娠中でした。

妊娠中には、新型コロナウイルスに感染しないかと、誰でも不安になります。

厚生労働省は、新型コロナウイルス感染拡大をふまえ、医師等の指導をもとに、事業主は、仕事の制限、出勤の制限(在宅勤務か休業)をするという規定を出したのでした。

この教員はこれに基づき、仕事を休むことができるように、医師に指導事項を書いてもらおうと、産婦人科を訪ねました。

しかし、医師は「切迫流産や切迫早産の危険がないのに、書けない」と拒絶しました。

そこで、その女性教員は学校を休むことができず、感染の不安を抱えながら勤務を続けなければなりませんでした。

学校が再開したら、自分のことはどうしても後回しになり、学校という空間に多くの人が集まるようになり、心配が尽きないのです。


こんなケースは、学校の教員だけでなく、医療や介護、保育、スーパーなどの接客業では、テレワークとは無縁に、妊娠中でも働いている人が多いというのが現状です。

休職したり在宅勤務を望んでいるが、職場に相談していない人がかなりの割合でいると考えられます。

職場の同僚に負担がかかることを懸念して、自分から配慮をしてほしいと言い出しにくく、出産の直前まで夜勤を続ける人がいるのです。

また、あるケースでは、在宅勤務を申し出たが、「医療に従事する者には、在宅の仕事を認めるわけにはいかない」と上司から言われました。
 
テレワークや在宅勤務が新しい働き方と言われる一方で、感染の不安を感じながらも出勤をせざるをえない人がいるのが現実なのです。

また、業種によっては、正社員の妊娠女性には在宅勤務が認められるのに、派遣社員には認められず、余儀なく出勤している人もいると聞きます。

かりに、妊娠中の女性が医師に指導事項を書いてもらえ、事業主に「休みたい」ということができたとしても、有休か無休かは事業主次第です。

無休だと言われ、感染を恐れながら、働かざるをえない人もいます。

つまり、妊娠した労働者に対する平常時での制度の不備が、新型コロナウイルスによりあぶり出されて顕在化しているのです。

たしかに、日本では、妊娠中の女性のための権利は認められて、制度は不十分ながらあります。

しかし、マタハラが起きやすい社会では、権利を行使しようとすれば、それを妨げようとする言動が上司や組織から行われる。

このように、ハラスメントは社会のしくみの問題であり、「妊娠している人に優しくしましょう」という呼びかけや心がけの問題ではないのです。

わが国では、とかく「医療従事者はがんばっているのです。思いやりの気持ちを持ちましょう」という心がけに期待することがあります。

思いやりも大切ですが、法を整備して、制度を整え、社会のしくみを変える方法でハラスメントを解消する方法も不可欠です。

社会のしくみを変えることで、行動の仕方が変わり、人びとの意識も変わり、「当たり前」の価値観になっていく、とわたしは考えます。

学校教育でも、児童生徒が思いやりの気持ちを高めながらも、
「社会のしくみを変える→行動が変わる→人びとの意識が変わる」
という過程を学んでほしいと思っています。


 


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