言語空間+備忘録

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生命保険の破綻

2009-10-08 | 日記
紺谷典子 『平成経済20年史』 ( p.178 )

 平成9年4月、日産生命が破綻した。日産生命を皮切りに、中堅生保がつぎつぎ破綻することになる。中堅とはいえ、世界に名を轟かせた「ザ・セイホ」の破綻である。

(中略)

 低金利は、銀行には恩典だが、生保には痛手となる。預金金利がゼロ金利と言われるほど低くなったことで、銀行は、仕入れ金利が低くなるために、不良債権の処理を行う業務利益を得ることができる。しかし、銀行にとっての栄養補給は、反面、生保の生命を奪うことになった。
 生保にとっては、低金利であればあるほど、逆ザヤが大きくなる。しかも、生保の契約は数十年におよぶ長期である。さらに、保険業法で、予定利率の変更は認められていなかった。逆ザヤの累積損は、低金利が続く限り拡大し続けるのである。
 生保の掛け金は、株式や不動産にも投資されている。資産デフレの影響も甚大だった。

(中略)

 生命保険は、ある意味では預金以上に、国民生活の安全の基盤だ。一家の稼ぎ手に万一のことがあったときに、残された家族の生活を支える、まさしく保険である。
 預金は金額保護されてきたが、日産生命の契約者は、破綻によって、予定利率を引き下げられた。結果、満期保険金や年金支払いは、それに応じて減額された。金融ビッグバンは、生保の競争を加速した。損保と生保の相互参入、外資の参入など、競争は激化していた。日産生命は、予定利率を引き上げることによって顧客を獲得しようとし、逆ザヤも大きく、結局、それが命取りになったのである。

(中略)

 日産生命の社長は、4年前から債務超過であり、その事実は、その都度、大蔵省に報告していたと明らかにした。大蔵省は、日産生命が高利回りで客を勧誘し、資金集めをしていたことも承知していたはずだ。知らなかったとしたら、それ自体が監督能力にかかわる。それにもかかわらず、何の措置もとらず、国民が契約するのを放置した。
 挙句、破綻が現実化すると、すべてを契約者の自己責任に帰し、保険契約、年金契約の最大7割をカットした。預金は全額保証されたが、生命保険や年金契約は、大幅に削減されたのである。契約者の自己責任という理由だった。
 しかし、検査に入った大蔵省が、何の措置もとらず、警告も発しなかったのだから、安全なのだろうと国民が思ったのが間違いだというなら、大蔵省は、自らを信頼するなと主張しているに等しい。
 銀行の破綻と同じく、生保の破綻でも、監督責任は一切とらなかった。市場淘汰を掲げた金融ビッグバンは、大蔵省の責任回避の理由になっただけで、国民には何のプラスももたらさなかったのである。


 低金利で逆ザヤが大きく、生命保険会社には痛手だった。しかも、( 株式や不動産の ) 資産デフレによる損失も、蒙っていた。そのうえ、金融ビッグバンが始まり、保険会社の競争が激化した。債務超過でありながら、予定利率を引き上げて資金集めをしていた日産生命に対して、監督責任を負う大蔵省は何もせず、責任もとらなかった。国民は、金融ビッグバンによって不利益のみを蒙った、と書かれています。



 この記述は、「おかしい」 と思います。

 一般に、金利が低ければ、株価や地価は上昇します。したがって、低金利で逆ザヤが大きかったとはいえ、低金利があるがゆえに、資産デフレによる損失は解消される可能性があった、と考えられます。

 とすれば、低金利で逆ザヤが大きく、債務超過に陥っていたからといって、破綻すると決まったわけではなく、なんの問題もなく状況が改善していた可能性もあった、と思われます。大蔵省の立場で考えれば、なんらかの措置をとったり、警告を発したりしていれば、かえって状況が悪化したかもしれず、対応の難しいところだと思います。



 また、日産生命が破綻したとき、( 銀行が破綻した場合とは異なり ) 生命保険や年金契約は全額保証されず、大幅に削減された、と指摘されていますが、

 預金が保護されるのは、国民の財産保護のみならず、資金決済の確保を図るためですから、預金と同様に保護しろ、という主張は、認められないと思います。



 とはいえ、私も、まったく大蔵省に責任がなかったとは思いませんし、なんらかの保護が必要かもしれない、とは思います。



 なお、金融ビッグバンは、保険会社の競争力強化につながった可能性もあり、国民の利益にもなっている可能性があります。国民が不利益のみを蒙ったか否か、検討が必要かとは思いますが、

 いま私は、( 現在の争点になっていない ) 「改革」 を振り返っても何にもならないのではないか、と思い始めており、「改革」 を振り返るモチベーションが確実に下がってきています。

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