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通常、市場は経済活動を組織する良策である

2011-06-11 | 日記
N・グレゴリー・マンキュー 『マンキュー入門経済学』 ( p.13 )

 第6原理:通常、市場は経済活動を組織する良策である

 1980年代に起こった、ソ連と東欧諸国における社会主義の崩壊は、この半世紀における世界最大の変化だろう。社会主義諸国は、政府の中央集権的な政策決定者を経済活動を指導するのに最適のポジションと考えていた。政策決定者たちは、どの財・サービスをどれだけ生産し、それらの財・サービスを誰が生産・消費するかを決定していたのである。中央集権的な計画の裏づけとなっていたのは、一国全体の経済的福祉が向上するように経済活動を組織できるのは、政府だけであるという理論であった。
 今日では、かつて中央集権的な計画経済システムを採用していた国々のほとんどが、そのシステムを放棄して、市場経済システムを発展させようとしている。市場経済においては、中央集権的な政策決定者による意思決定は、膨大な数の企業や家計の意思決定によって代替されている。企業は、誰を雇い、何を生産するかを決めている。家計は、どの企業で働き、自分たちの所得で何を買うかを決めている。これらの企業や家計は市場で相互に影響しあっており、市場においては価格と利己心が彼らの意思決定を導いているのである。
 一見したところ、市場経済の成功は不思議に思えることだろう。なんといっても、市場経済においては、誰も、社会全体の経済的福祉に留意していないのである。自由な市場には、さまざまな財・サービスに関して多数の売り手と買い手がいて、誰もが自分自身の経済的福祉を中心に考えている。しかし、意思決定が分権的で意思決定者が利己的であるにもかかわらず、市場経済は、全体の経済的福祉を高めるように経済活動を組織することに大きな成功を収めてきたのである。
 1776年に出版された『諸国民の富の原因と性質に関する一研究(国富論)』において、経済学者アダム・スミスは、経済学のなかでも最も有名な考え方を呈示した。市場において相互に影響しあっている家計や企業は、まるで「見えざる手」によって導かれているかのように、望ましい結果に到達しているというのである。本書におけるわれわれの目標の一つは、この見えざる手がどのようにその魔力を発揮するのかを理解することである。経済学を学習するにつれて、見えざる手が経済活動を導く際の手段が価格であることを理解するようになる。価格は、各財の社会にとっての価値と、社会がその財を生産するための費用の両方を反映している。家計や企業は売買の意思決定に際して価格をみて決めるため、彼らは自分たちの行動の社会的な費用と便益とを無意識のうちに考慮している。その結果として、多くの場合、価格は個々の意思決定主体を、社会全体の厚生を最大化するような結果へと導くのである。
 見えざる手が経済活動を巧みに導くことには、ある重要な副次的定理(系)がある。それは、もし政府が、価格による需要と供給の自然な調整を妨害すると、経済を構成する膨大な数の家計と企業を調整する見えざる手の力が弱まってしまうということである。この系は、税金が資源配分に対して悪影響を及ぼすことを説明できる。税金は価格体系を歪めるので、家計や企業の意思決定をも歪めてしまうのである。この系はまた、家賃規制のような直接的な価格規制がもっと大きな悪影響をもたらすことも説明できる。さらに、この系は社会主義の失敗も説明できる。社会主義諸国では、価格は市場ではなく中央集権的な政策決定者によって決められていた。そうした政策決定者たちには、価格が市場の需給を自由に反映していれば得られたはずの情報が欠落していたのである。中央集権的な政策決定者たちが失敗したのは、彼らのもう一つの手である市場における見えざる手が、後ろ手に縛られていたからである。


 通常、市場は社会全体の経済的福祉を最大化する。意思決定が分権的で意思決定者が利己的であるにもかかわらず、このような結果になるのは、価格が「各財の社会にとっての価値」と「社会がその財を生産するための費用」の両方を反映しているからである。このことから、もし政府が「価格による需要と供給の自然な調整」を妨害すると、社会全体の経済的福祉は最大化されないこともわかる、と書かれています。



 「通常」つまり「一般的に」この原理が成り立つことに問題はないでしょう (もちろん例外はあります) 。



 今回引用しているのは、著者のいう「重要な副次的定理(系)」、すなわち
もし政府が「価格による需要と供給の自然な調整」を妨害すると、社会全体の経済的福祉は最大化されないこともわかる
という部分が重要だと思ったからです。

 著者は、
  1. この系は、税金が資源配分に対して悪影響を及ぼすことを説明できる。税金は価格体系を歪めるので、家計や企業の意思決定をも歪めてしまうのである。
  2. この系はまた、家賃規制のような直接的な価格規制がもっと大きな悪影響をもたらすことも説明できる。
  3. さらに、この系は社会主義の失敗も説明できる。社会主義諸国では、価格は市場ではなく中央集権的な政策決定者によって決められていた。そうした政策決定者たちには、価格が市場の需給を自由に反映していれば得られたはずの情報が欠落していたのである。中央集権的な政策決定者たちが失敗したのは、彼らのもう一つの手である市場における見えざる手が、後ろ手に縛られていたからである。
と書いています。

 これらはすべて、説得力に富んでいます。第6原理「通常、市場は社会全体の経済的福祉を最大化する」の「変形」として、これらは「自動的に導かれます」。



 こうした多様な話を「シンプルに」まとめて説明してしまう著者は、きっと「すばらしく優秀」なのでしょう。著者の経歴(29歳でハーバード大学教授になり、のちに大統領経済諮問委員会委員長となる)もそれを証明しています。

 この本は「(知的に)面白い」と思います。こんなに面白い教科書があるとは思いませんでした。楽しい本です。

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