今回は、紙に関する最終稿です。古紙の回収と特殊な紙について書きます。
【古紙の回収】
昔、読んだ本には、「日本で古紙の回収が始まったのは江戸時代だ」と書いていましたが、1,000年以上も前に始まった様です。日本を含め、アジアでは古くから古紙を再利用していた様です。(”ゴミ”の回収/再利用の問題では、古紙に限ると日本は優等生です。) 私がエコパルパーの開発を始めた頃(1993年頃)でも、アメリカでは古紙の回収が進んでいませんでした。
★古紙についてのお願い :古紙は強力な陽光が当たらない場所に保管して下さい。私は、新聞古紙で「周囲の湿度を変化させると、古紙の湿度がどうなるか?」実験して見ました。新聞古紙は周囲の湿度の変化にかなり敏感に追随して変わりました。紙は、一度『5%以下』の湿度にしてしまうと、強度が低下し、その後加湿しても強度は回復しない様です。古紙を炎天下に置くと、短時間に限界の湿度以下になってしまい、見た目は変わりませんが、再利用出来なくなってしまいます。
古紙回収業者の数か所の工場を見学しました。大きな倉庫の中に、戦争映画に出て来る「監視塔」の様な分別室がありました。集めて来た古紙は、ベルトコンベヤーで分別室に上げます。分別室では数人の人が異物を除去して、古紙を床に落とします。古紙は、ベーリングマシンと呼ばれる圧縮機で大きな直方体か正方体に成形され、強力な樹脂テープで結束します。(大本紙料のホームページを検索してみて下さい)
【古紙回収の業界】
古紙業者にはベーリングマシンを持たない小さな個人企業もありますが、そう言う会社は中堅の工場を構えた会社に持ち込みます。各社には、不文律のテリトリー(縄張り)がありました。戦前/戦中に創業した企業が多く、朝鮮半島出身の創業者も多かった様です。創業当時は、差別も有って種々苦労された様でした。新聞紙や段ボール用の紙の原料は、大半が古紙ですから古紙回収業者を大切にする必要があります。
私は、魚の腸(はらわた)を有機肥料にする事業を始めてくれそうな企業を種々当たりました。その中に朝鮮半島出身を示す『姓』の、古紙回収業者の社長がおられました。容姿端麗な壮年の紳士で、会社の経営状態も良好の様でした。その社長に何回かお会いして、有機肥料化の可能性について説得て、了解を得ました。私の会社でその計画を話すと、殆どの上司が反対するのです。粘り強く説得したので、許可は出ましたが、朝鮮半島出身への差別が厳然と存在する事を実感しました。(その後、直ぐに開発終了命令が出たので、有機肥料化は出来ませんでした。)
(余談) 日本人には、困った時に助けてもらった恩義を一生忘れない人がいます。(以下の話しは某古紙業者の社長から聞いたもので、真偽の程は分かりません。)ダイエーの創業者の中内功氏が困っていた時に、大本紙業の先々代(?)の社長が助けたそうです。中本功氏は、ダイエーから出る段ボール古紙を全て大本紙業に引き取って貰う事にしました。その後、ダイエーは全国に店舗を持つ様になり、大本紙業は神戸以外のダイエーの店舗から出る段ボール古紙の権利を、「キロ何円」で地元の業者に譲渡して、大儲けしたそうです。現在、大本紙業は業界でトップクラスの企業になっています。
【段ボール】
『段ボール』は外国語が起源の様に思っていましたが、英語は『 corrugated cardboard』です。現在、ダントツの段ボール製造企業になっている、『レンゴー』の創設者・井上貞治郎氏が命名した、商品名(?)です。
種々の紙が製造されていますが、生産量では段ボールの用紙(段ボール原紙)と新聞用紙が一二を争うと思います。波状に加工されたのを”中芯”、その両側に貼られた紙を”ライナー”と呼びます。中芯原紙もライナー原紙も種々製造されています。 段ボール原紙の原料は、ほぼ古紙です。古紙を輩出するのは大都市ですから、段ボール原紙の製造工場は大都市に近い方が有利になります。
段ボール原紙は大きな工場で製造されますが、段ボールは消費地の近くの比較的小さな工場で製造されています。私の予想では、全国で1,000工場ほど有るのではと思います。中芯を波打たせる機械をコルゲータ(コルゲートマシン)と呼びますが、結構大きな音を出します。人家から離れた場所に建設した工場で、その後宅地開発が進み、騒音の苦情が来る様になって移転を検討している所も有りました。
(余談) 段ボールは意外と少量生産品です。強度、箱に組み立てた時のサイズ、印刷する会社名や商品名等々、その組み合わせは予想以上に多いいのです。逆に言えば、貴方が、数がそれ程多くない特注品の段ボールの製造を依頼しても、リーズナブルな価格で対応して貰えます。
【レンゴーさんの話し】
私がレンゴー(株)の本社に初めて行ったのは、2003年頃です。当時は、ヒートパイプと言う技術を応用した製品に取り組んでいました。レンゴーには段ボール製造機械の開発部署が有りました。開発部署の開発した機械は、レンゴー旗下の工場以外には売ってはいけない事になっていました。担当者は若手の優秀な方で、ヒートパイプを組み込んで性能改善を目論んでいました。”取らぬ狸の皮算用”で、自由に全国に販売したいと頻りに言っていました。(私は、その検討中に別の会社に出向させられたので、その後の経過は知りません。)
レンゴーは、1999年に長年の競合会社だった”セッツ”を吸収合併して、ダントツの会社になりました。段ボール原紙の製造の点では”セッツ”の方が、設備も技術も大幅に勝っていましたので、この合併によってレンゴーは予想以上の収穫が有ったと私は思いました。(当時は、製紙機械メーカーで仕事をしていました。)
2005年頃の話しですが、段ボールも手掛けている製紙会社の方と雑談していたら、「レンゴーは農業協同組合(JA)をほぼ独占している。レンゴー製の様に少し水が付いた野菜や果物を入れても大丈夫な段ボールが出来たらJAに食い込めるのに!」とぼやいていました。
【トイレットペーパー】
トイレットペーパーは水に比較的簡単に溶けますが、特別な原料(繊維)を用いている分けでは有りません。繊維の絡まり具わいを、わざと抑えているのです。出来るだけ繊維が同じ方向にな並ぶ様にする等の工夫した漉き方をしているのです。(普通、紙には強度が要求されますので、漉き方を工夫して繊維が均等に絡まる様にしています。 要するに、 トイレットペーパーは強度を出さない漉き方をしているのです。)
下水処理場には毎日多量に紙の原料が流れて来る事になります。1980年頃に、東京都のある下水処理場で、昔風の四角く裁断したグレーの”落とし紙”を作っていました。私の隣の席の社員が、その処理場に出入りしていたのですが、打合せの度に、落とし紙を持って帰らされるので困っていました。
私の家では2年に一度、業者に依頼して排水管の洗浄をします。トイレは余程の事が無い限り排水管の洗浄は必要有りません。日本のトイレは排水管が太いので、目詰まりが起こらないのです。世界にはトイレでも細い排水管になっている国が有ります。そんな国に旅行された時は、絶対にトイレットペーパーを流してはいけません。
(余談) トイレットペーパーやティッシュの工場は、紙粉が多量に舞っているそうです。そういう工場からも検討依頼や設備診断依頼が来ましたが、社長は私を連れて行かず、派遣もしませんでした。当時、私はヘビースモーカーで日に二箱は吸っていました。夏でも空咳をしていたので、労わってくれていたのだと思います。社長は古希を迎える前に亡くなられました。生きておられたら、時々会って技術の話しが出来たのにと、残念でたまりません。
【漫画本の用紙】
最近、漫画本は余り見掛けなくなりましたが、先日、電車で隣に座っていた方が読んでいました。独特の厚手の紙を使っています。昔は本を安くする為に、品質の悪い紙を使用していた様です。講談社が「日本も豊かになったから、良質の紙の方が喜ばれるのでは?」と考えて、普通の本に使用されている紙を使って見たそうです。本は薄くなって輸送費も抑えられ、展示スペースも狭く出来、インクの発色も良くなる・・・いいこと尽くめの様に思えます。予想に反して、売れなかったそうです。
漫画本用の紙は、製紙会社に技術がないから悪質な紙なのでは有りません。機械は最新鋭ですが、わざと悪質(?)に作っているのです。
(余談) 講談社が印刷した裁断前の紙を見た事が有ります。新聞と同じA1サイズの紙の両面に印刷していました。どんなに続くのか?考えるのが楽しかったです。漫画本一冊分を、裁断しないで、ホットメルトの様な接着剤付きで”製本キット”として販売したら、子供も大人も楽しめると思いました。頭の体操になります。
・・・補足・・・A1の両面に印刷してA4サイズの本を作る場合を考えて見て下さい。A1の紙には表裏で16ページ分が印刷されている事になります。製本する前に4分割し→折り畳む→強力な接着剤で製本します。例えば、P80の左側にはP81が印刷されます。P80の裏はP79です→P79の右側がP82になるのです。
【私と藁半紙】
1996年に製紙機械を設計/製造する会社に出向しました。そして、直ぐに某製紙会社の製紙技術に詳しい重役さんに懇意にして頂ける様になりました。時々、居酒屋で呑んでいると昔の苦労話をしてくれました。その話しの一つが、藁半紙の製造でした。(もうお年でしたが、新しい技術を積極的に採用され、英語の専門誌も読まれていました。翻訳を依頼された事もあります。残念ながら、古希を迎えられる前に亡くなられた様です。)
稲藁を原料にしたので『藁半紙』なんです。現在、市販されている藁半紙は、樹木の幹を原料にして、藁半紙に似せて作った物です。
終戦直後は紙の原料を入手するのが難しかったのです。一方、米、麦、豆類、炭などは稲藁で作った俵や筵(むしろ)に入れて都会に送られていました。従って、都会には稲藁が多量に集まったので、都会の近辺に有った製紙工場では社員が手分けして、稲藁を集めたそうです。
稲藁には繊維が少ないので、カス(残渣)の方が多く、その処理が大変だった様です。「それでも、食べるために皆で頑張った」と言っていました。(非常に短期間だった様です。)
(半紙) 半紙とは、和紙のサイズの事です。大判(全紙)を半分に切ったサイズで、約25cm×35cmです。 (A4サイズ・21cm×30cmの藁半紙を売っていますが、いくら何でも可笑しいですね!)
【コーン紙】
スピーカーにはアナログの電気信号が入って来ます。磁石がコーン(振動体)を前後に動かし→周囲の空気が振動し(音は縦波/空気の濃淡です)→音が発生します。コーンの良し悪しは、スピーカーの音質を左右します。 (スピーカーの木の箱は共鳴箱の働きをして、これも音質にとって極めて重要です。ギターやバイオリンのボディに相当します。)
コーン(cone)は円錐の英語です。スピーカーのコーンは、種々の材質で製造されている様ですが、主流はコーン紙です。和紙の原料などを混ぜ合わせて、硬い紙にする様です。(詳しく知りたい方には、(株)ギフトクのホームページを推奨します。)
私は、原料を混ぜ合わせる”ビーター(叩解機こうかいき)”を2台製造しました。西部劇に登場する、四隅が丸くなった浴槽の様な形状で、真中に島の様な物があり、流れるプールの様に水がグルグル流れるのです。水底に昔の洗濯板状の部品を置き、その上で放射状に板を取り付けた筒を回転させる、超原始的な構造でした。
韓国向けの案件でしたので、残念ながらコーンを製造するのは見学出来ませんでした。「金網製の型に、ビーターで掻き混ぜた液体を流し込み成形していた」と、ビーターを据付に行った方から聞きました。(以前に書いたパルプモールドと同じ手法だと思います。)
【古紙の回収】
昔、読んだ本には、「日本で古紙の回収が始まったのは江戸時代だ」と書いていましたが、1,000年以上も前に始まった様です。日本を含め、アジアでは古くから古紙を再利用していた様です。(”ゴミ”の回収/再利用の問題では、古紙に限ると日本は優等生です。) 私がエコパルパーの開発を始めた頃(1993年頃)でも、アメリカでは古紙の回収が進んでいませんでした。
★古紙についてのお願い :古紙は強力な陽光が当たらない場所に保管して下さい。私は、新聞古紙で「周囲の湿度を変化させると、古紙の湿度がどうなるか?」実験して見ました。新聞古紙は周囲の湿度の変化にかなり敏感に追随して変わりました。紙は、一度『5%以下』の湿度にしてしまうと、強度が低下し、その後加湿しても強度は回復しない様です。古紙を炎天下に置くと、短時間に限界の湿度以下になってしまい、見た目は変わりませんが、再利用出来なくなってしまいます。
古紙回収業者の数か所の工場を見学しました。大きな倉庫の中に、戦争映画に出て来る「監視塔」の様な分別室がありました。集めて来た古紙は、ベルトコンベヤーで分別室に上げます。分別室では数人の人が異物を除去して、古紙を床に落とします。古紙は、ベーリングマシンと呼ばれる圧縮機で大きな直方体か正方体に成形され、強力な樹脂テープで結束します。(大本紙料のホームページを検索してみて下さい)
【古紙回収の業界】
古紙業者にはベーリングマシンを持たない小さな個人企業もありますが、そう言う会社は中堅の工場を構えた会社に持ち込みます。各社には、不文律のテリトリー(縄張り)がありました。戦前/戦中に創業した企業が多く、朝鮮半島出身の創業者も多かった様です。創業当時は、差別も有って種々苦労された様でした。新聞紙や段ボール用の紙の原料は、大半が古紙ですから古紙回収業者を大切にする必要があります。
私は、魚の腸(はらわた)を有機肥料にする事業を始めてくれそうな企業を種々当たりました。その中に朝鮮半島出身を示す『姓』の、古紙回収業者の社長がおられました。容姿端麗な壮年の紳士で、会社の経営状態も良好の様でした。その社長に何回かお会いして、有機肥料化の可能性について説得て、了解を得ました。私の会社でその計画を話すと、殆どの上司が反対するのです。粘り強く説得したので、許可は出ましたが、朝鮮半島出身への差別が厳然と存在する事を実感しました。(その後、直ぐに開発終了命令が出たので、有機肥料化は出来ませんでした。)
(余談) 日本人には、困った時に助けてもらった恩義を一生忘れない人がいます。(以下の話しは某古紙業者の社長から聞いたもので、真偽の程は分かりません。)ダイエーの創業者の中内功氏が困っていた時に、大本紙業の先々代(?)の社長が助けたそうです。中本功氏は、ダイエーから出る段ボール古紙を全て大本紙業に引き取って貰う事にしました。その後、ダイエーは全国に店舗を持つ様になり、大本紙業は神戸以外のダイエーの店舗から出る段ボール古紙の権利を、「キロ何円」で地元の業者に譲渡して、大儲けしたそうです。現在、大本紙業は業界でトップクラスの企業になっています。
【段ボール】
『段ボール』は外国語が起源の様に思っていましたが、英語は『 corrugated cardboard』です。現在、ダントツの段ボール製造企業になっている、『レンゴー』の創設者・井上貞治郎氏が命名した、商品名(?)です。
種々の紙が製造されていますが、生産量では段ボールの用紙(段ボール原紙)と新聞用紙が一二を争うと思います。波状に加工されたのを”中芯”、その両側に貼られた紙を”ライナー”と呼びます。中芯原紙もライナー原紙も種々製造されています。 段ボール原紙の原料は、ほぼ古紙です。古紙を輩出するのは大都市ですから、段ボール原紙の製造工場は大都市に近い方が有利になります。
段ボール原紙は大きな工場で製造されますが、段ボールは消費地の近くの比較的小さな工場で製造されています。私の予想では、全国で1,000工場ほど有るのではと思います。中芯を波打たせる機械をコルゲータ(コルゲートマシン)と呼びますが、結構大きな音を出します。人家から離れた場所に建設した工場で、その後宅地開発が進み、騒音の苦情が来る様になって移転を検討している所も有りました。
(余談) 段ボールは意外と少量生産品です。強度、箱に組み立てた時のサイズ、印刷する会社名や商品名等々、その組み合わせは予想以上に多いいのです。逆に言えば、貴方が、数がそれ程多くない特注品の段ボールの製造を依頼しても、リーズナブルな価格で対応して貰えます。
【レンゴーさんの話し】
私がレンゴー(株)の本社に初めて行ったのは、2003年頃です。当時は、ヒートパイプと言う技術を応用した製品に取り組んでいました。レンゴーには段ボール製造機械の開発部署が有りました。開発部署の開発した機械は、レンゴー旗下の工場以外には売ってはいけない事になっていました。担当者は若手の優秀な方で、ヒートパイプを組み込んで性能改善を目論んでいました。”取らぬ狸の皮算用”で、自由に全国に販売したいと頻りに言っていました。(私は、その検討中に別の会社に出向させられたので、その後の経過は知りません。)
レンゴーは、1999年に長年の競合会社だった”セッツ”を吸収合併して、ダントツの会社になりました。段ボール原紙の製造の点では”セッツ”の方が、設備も技術も大幅に勝っていましたので、この合併によってレンゴーは予想以上の収穫が有ったと私は思いました。(当時は、製紙機械メーカーで仕事をしていました。)
2005年頃の話しですが、段ボールも手掛けている製紙会社の方と雑談していたら、「レンゴーは農業協同組合(JA)をほぼ独占している。レンゴー製の様に少し水が付いた野菜や果物を入れても大丈夫な段ボールが出来たらJAに食い込めるのに!」とぼやいていました。
【トイレットペーパー】
トイレットペーパーは水に比較的簡単に溶けますが、特別な原料(繊維)を用いている分けでは有りません。繊維の絡まり具わいを、わざと抑えているのです。出来るだけ繊維が同じ方向にな並ぶ様にする等の工夫した漉き方をしているのです。(普通、紙には強度が要求されますので、漉き方を工夫して繊維が均等に絡まる様にしています。 要するに、 トイレットペーパーは強度を出さない漉き方をしているのです。)
下水処理場には毎日多量に紙の原料が流れて来る事になります。1980年頃に、東京都のある下水処理場で、昔風の四角く裁断したグレーの”落とし紙”を作っていました。私の隣の席の社員が、その処理場に出入りしていたのですが、打合せの度に、落とし紙を持って帰らされるので困っていました。
私の家では2年に一度、業者に依頼して排水管の洗浄をします。トイレは余程の事が無い限り排水管の洗浄は必要有りません。日本のトイレは排水管が太いので、目詰まりが起こらないのです。世界にはトイレでも細い排水管になっている国が有ります。そんな国に旅行された時は、絶対にトイレットペーパーを流してはいけません。
(余談) トイレットペーパーやティッシュの工場は、紙粉が多量に舞っているそうです。そういう工場からも検討依頼や設備診断依頼が来ましたが、社長は私を連れて行かず、派遣もしませんでした。当時、私はヘビースモーカーで日に二箱は吸っていました。夏でも空咳をしていたので、労わってくれていたのだと思います。社長は古希を迎える前に亡くなられました。生きておられたら、時々会って技術の話しが出来たのにと、残念でたまりません。
【漫画本の用紙】
最近、漫画本は余り見掛けなくなりましたが、先日、電車で隣に座っていた方が読んでいました。独特の厚手の紙を使っています。昔は本を安くする為に、品質の悪い紙を使用していた様です。講談社が「日本も豊かになったから、良質の紙の方が喜ばれるのでは?」と考えて、普通の本に使用されている紙を使って見たそうです。本は薄くなって輸送費も抑えられ、展示スペースも狭く出来、インクの発色も良くなる・・・いいこと尽くめの様に思えます。予想に反して、売れなかったそうです。
漫画本用の紙は、製紙会社に技術がないから悪質な紙なのでは有りません。機械は最新鋭ですが、わざと悪質(?)に作っているのです。
(余談) 講談社が印刷した裁断前の紙を見た事が有ります。新聞と同じA1サイズの紙の両面に印刷していました。どんなに続くのか?考えるのが楽しかったです。漫画本一冊分を、裁断しないで、ホットメルトの様な接着剤付きで”製本キット”として販売したら、子供も大人も楽しめると思いました。頭の体操になります。
・・・補足・・・A1の両面に印刷してA4サイズの本を作る場合を考えて見て下さい。A1の紙には表裏で16ページ分が印刷されている事になります。製本する前に4分割し→折り畳む→強力な接着剤で製本します。例えば、P80の左側にはP81が印刷されます。P80の裏はP79です→P79の右側がP82になるのです。
【私と藁半紙】
1996年に製紙機械を設計/製造する会社に出向しました。そして、直ぐに某製紙会社の製紙技術に詳しい重役さんに懇意にして頂ける様になりました。時々、居酒屋で呑んでいると昔の苦労話をしてくれました。その話しの一つが、藁半紙の製造でした。(もうお年でしたが、新しい技術を積極的に採用され、英語の専門誌も読まれていました。翻訳を依頼された事もあります。残念ながら、古希を迎えられる前に亡くなられた様です。)
稲藁を原料にしたので『藁半紙』なんです。現在、市販されている藁半紙は、樹木の幹を原料にして、藁半紙に似せて作った物です。
終戦直後は紙の原料を入手するのが難しかったのです。一方、米、麦、豆類、炭などは稲藁で作った俵や筵(むしろ)に入れて都会に送られていました。従って、都会には稲藁が多量に集まったので、都会の近辺に有った製紙工場では社員が手分けして、稲藁を集めたそうです。
稲藁には繊維が少ないので、カス(残渣)の方が多く、その処理が大変だった様です。「それでも、食べるために皆で頑張った」と言っていました。(非常に短期間だった様です。)
(半紙) 半紙とは、和紙のサイズの事です。大判(全紙)を半分に切ったサイズで、約25cm×35cmです。 (A4サイズ・21cm×30cmの藁半紙を売っていますが、いくら何でも可笑しいですね!)
【コーン紙】
スピーカーにはアナログの電気信号が入って来ます。磁石がコーン(振動体)を前後に動かし→周囲の空気が振動し(音は縦波/空気の濃淡です)→音が発生します。コーンの良し悪しは、スピーカーの音質を左右します。 (スピーカーの木の箱は共鳴箱の働きをして、これも音質にとって極めて重要です。ギターやバイオリンのボディに相当します。)
コーン(cone)は円錐の英語です。スピーカーのコーンは、種々の材質で製造されている様ですが、主流はコーン紙です。和紙の原料などを混ぜ合わせて、硬い紙にする様です。(詳しく知りたい方には、(株)ギフトクのホームページを推奨します。)
私は、原料を混ぜ合わせる”ビーター(叩解機こうかいき)”を2台製造しました。西部劇に登場する、四隅が丸くなった浴槽の様な形状で、真中に島の様な物があり、流れるプールの様に水がグルグル流れるのです。水底に昔の洗濯板状の部品を置き、その上で放射状に板を取り付けた筒を回転させる、超原始的な構造でした。
韓国向けの案件でしたので、残念ながらコーンを製造するのは見学出来ませんでした。「金網製の型に、ビーターで掻き混ぜた液体を流し込み成形していた」と、ビーターを据付に行った方から聞きました。(以前に書いたパルプモールドと同じ手法だと思います。)