05/13 私の音楽仲間 (487) ~ 私の室内楽仲間たち (460)
意地悪爺さん
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
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意地悪爺さん
今回は、まず[演奏例の音源]をお聞きください。
音楽は Mozart の弦楽四重奏曲 変ホ長調 K428
から、第Ⅳ楽章の最後の部分。 2/4拍子、変ホ長調、
テンポは “Allegro vivace” です。
[譜例]は、その中ほどの箇所ですが、この音源では
{0'33" ~ 0'50"} の部分に当ります。
お聞きいただいて、「おや?」…と思われたかたも
お出ででしょう。
[譜例]の後半には、rallentando (徐々に遅くなる)
と記された4小節があります。 でも、この演奏では、
それより前から遅くなっているからです。
作曲者の指示を守らない演奏者たち!
主犯は私でした。 通常は、テンポの指示には
“厳格すぎる” ほど忠実に従う私なのですが…。
実はこのとき、「仲間をちょっとからかってやろう!」
…なる魂胆を抱いていたのです。
「許し難い!」…なんて、叱責しないでくださいね?
ほんの悪戯心からしたことですから…。
でも仲間たちにしてみれば、随分と面食らったことでしょう。
この日は、第Ⅳ楽章を通したのが2回ですが、一度目
は “譜面どおりに” ゆっくりしました。 ところが二度目は、
先ほどとは違う箇所からテンポを緩めたのですから!
何と私は意地悪な性分なのでしょうか…!
しかし、アンサンブルは水もの。 たとえ本番でも、打ち合わせ
とは違う事が起こるものです。
そんな場合、どうやって対処したらいいのか? その答えは…。
「テンポがゆっくりになれば、音も長くなる。」
これをどの程度、日頃から理解、実践しているか…
ではないでしょうか?
言うまでもなく、ごく当たり前のことですね。 でも演奏
の現場では、なかなか実現しにくい課題なのです。
これには、“音符を見たとき” の “第一印象” が、まず
大きく作用しがちです。
ここで問題になっているのは、八分音符でした。 通常
は “短い” と意識される音符です。
しかし、それも “テンポによりけり” ですね? 長い八分
音符もあれば、短めの全音符もあるからです。
音符には、黒玉の音符と、白玉の音符がある。 “見た目”
だけによって、「短いか長いか?」…を決めてしまいやすい…。
失礼ながら、特にアマチュアのかたがたには、その傾向が
強いように感じます。
かく言う私も、そんな事を指摘できるガラではないのですが…。
以上は “意識の問題” ですね。 もう一つは “奏法の問題”
です。 弦楽器では、“右手”、つまり “運弓” が絡んでくる。
具体的には、「右手の “どの部分” を動かすか?」…が重要
になります。
手先だけか、腕全体か…? 弓の可動範囲が問題だからです。
もし手先だけで音符を処理すれば…。 長さは持続しません。
少なくとも、音符の音量は “減衰の形” を取ります。
音符の長さを継続させるためには、腕全体の運動が必須
だからです。
ましてや、演奏者の意識が、もし “音符の頭” にしか
無ければ…。
音符はすべて “減衰形” になります。 また、音符
の長さを持続することが困難なので、rallentando は
“大の苦手” になってしまうでしょう。
以上は、この弦楽四重奏曲での例ですね。 でも
問題は、それに止まりません。
同じく “腕の運動” を主体とするのが、打楽器演奏
や指揮。 また管楽器、歌唱では、“呼吸の深さ” が、
さらに大きく関わってきます。
以上で見かけたキーワード…。 “意識” も、“運動” も、
“呼吸” も、人間の為す事柄ですね。
それらが、「音楽と無関係だ」…とは、誰にも言えません。
さて、テンポがゆっくりになれば、音の長さも変わる。
すると、腕を始めとする “身体全体の運動” も大きくなる。
このたびは、そんな丁寧な説明をする時間的な
余裕など無かった…。
仲間たちは、さぞ面食らったことでしょう。 私は
“鼻歌気分” で、からかい半分だったのですから。
ちなみに、この[譜例]の後には、私が “鼻歌気分” で歌う
部分があります。 [演奏例の音源]では、{0'58 ~ 1'06"}
の箇所です。
まるでオペラを思わせるような、自然な鼻歌。 Mozart の
弦楽四重奏曲には、そんな箇所が多々、見受けられます。
[音源ページ ①] [音源ページ ②]