前政権が「エコポイント制度」に予算を使ったのも、景気浮揚策と共に省電力が目的であったであろう。
産経新聞20110607 プラチナ日本
福島第1原子力発電所に加えて浜岡原発が停止し、定期検査終了後も運転再開ができない原発が相次いでいる。国内に54基ある原発の中で運転しているのは17基にすぎない(6月6日現在)。夏の電力不足が懸念される。火力発電の増加等で電力価格が高騰し、CO2の排出量も増加するのでは、という不安が世上を覆っている。
私はここで、はるかに少ない電気量で今と変わらぬレベルの生活をすることができると申し上げたい。最大の電源は省エネルギーだからである。
電力は工場とオフィスと家庭が約3分の1ずつ消費している。このうち工場は技術革新によって効率化が進んでおり、電力削減がそのまま生産縮小に直結してしまう恐れがある。一方、オフィスや家庭は省エネルギーの宝庫である。オフィスの電力消費の40%は照明、30%は冷暖房だ。家庭では照明、冷暖房、冷蔵庫で70%を占める。現在の技術ならこれらの大幅削減が可能だ。例えば、最近20年間で日本のエアコンの電力消費は60%、冷蔵庫は80%削減されている。13年前に購入した冷蔵庫を買い替えれば、電力消費は3分の1に減る。新しい冷蔵庫は真空断熱材で壁が薄く、外形は同じでも内容量は増える。15万円で購入しても約7年で元が取れる。20年前の冷蔵庫なら3年だ。リサイクルに使うエネルギーを考慮しても、はるかにエネルギー消費が少ない。
戸外からの熱の流入を減らせば、冷房の使用電力は減る。建物を二重窓にし、窓辺にゴーヤー等を植えた緑のカーテンを施して太陽光を遮り、古いエアコンを買い替えれば冷房電力の3分の2は削減できる。
照明も、LEDや最新型の高効率蛍光灯を採用すれば消費電力を大きく減らせる。わが家でも60ワットのダウンライトをLEDに替えたら消費電力は6ワットになった。90%減である。省エネルギー機器を家庭やオフィスに導入するだけで60~80%の電力削減が可能だろう。最近よく聞く「エネルギーゼロ」という言葉は、これらに節電、IT制御、太陽電池などが加わって電力供給が不要になることである。電力消費の3分の2を占めるオフィスと家庭の消費がほぼゼロになれば、供給電力の30%を担う原子力発電の寄与を大きく上回る。
問題は導入するスピードだ。今年の夏が過ぎたころ、日本ではどんな議論が行われているだろうか。最悪のシナリオは、火力発電の大量供給で乗り切ったはいいが、電気代が値上げされ「原子力発電か、高い電気代か」という議論が繰り返されることだ。電力消費を減らし、原発の漸減を、省エネルギーと再生可能エネルギーで補填(ほてん)する。そんなエネルギー自給国家への道筋が見えているのが理想だろう。
わたしが会長を務める「プラチナ構想ネットワーク」では省エネルギー運動を始めている。PTA連絡網等を通じて、古い電気器具の買い替えや午後のピーク時を避ける家事電力の使用などを呼びかける。いよいよとなれば「冷房を切ってください」と強く要請する。6月中に東京都の荒川区、川崎市、横浜市、千葉県の柏市がモデルとなり実験を行う。7月には全自治体に呼びかけて、夏の電力危機回避へ向けた社会運動の一翼を担うつもりである。