昨日は、
かずこの月イチの通院日だった。
おはようございます。
通院日、私は仕事を休ませてもらっている。
なるべくゆっくりと、かずこにお出かけを楽しんでもらうためだが、
最近は、ゆっくりとはいかない。
ゆっくり買い物をする体力が無くなって来たようだ。
かずこにとって、買い物カートは充電器のはずだったのに、
元気なボケ老人は、確実に老いて行っている。
私はその様子を、ものすごく大げさに父さんに伝える。
「この様子じゃ、今年のうちに死ぬかもしれん」
と、それくらいの勢いで伝えるのだ。
そうしないと、父さんの絶望感が続く。
何事も、期限というのはあった方がいい。
今年のうちと期限が切られれば、よし大事にしよう!と思える。
この時をかけがえのない時だと思えれば、今の心持はうんと変わる。
重くなるし、軽くなる。
変な話だが、そういうものだろう。
まあ、嘘なんですがね。
もちろん、私に人の寿命なんて分かるはずないけれど、
私は、じゃんじゃん嘘を付いてやろうと企んでいる。
けれど、これは嘘じゃない。
そんな昨日、夕方に行った美容院でのことだ。
担当してくださる美容師さんが、お婆ちゃんだったってことだ。
大型新人のお婆ちゃんだったんだ。
どう見ても、後期高齢者の佇まいだ。
驚く間もなく、
「どうされますか?」と聞かれたので、
「後ろの髪を短く切って欲しいんです。」と伝えたところ、
「ん?あんだって?」と聞き直された。
ああ、耳が遠いのだなぁと、私は遠くを見つめた。
この志村けんバリの「あんだって?」は、実在する。
以前、尿管結石で駆け込んだ病院の院長の親である
元院長の女医さんも、
「あんだって?」と何度も言っていた。
そして、何も伝わらないまま、
「こういう時に打つ注射があんの。なんという薬品だったか思い出せないけど
それ打ちましょうかね?」
と悩みながら、謎の薬品を打たれたのだ。
あの時と似ている。
いやもはや、シチュエーションがほぼ一致だ!
さぁ、ここからが長いぞっと私は覚悟した。
あの病院では、謎の注射を打たれるまで1時間、
打ってからの雑談が1時間半だった。
私は、メロウなジャズが流れる店内で、声を張り上げた。
「ここをですねぇ、バツンと切っちゃってくださいー」
「ん?」
これでも伝わらないのか?
「行っちゃうということは?」
そうか、聞き間違えたか。
聞き間違える言い方をした私が悪い。
ならばと思い直し、
「行っちゃうではなくて・・・あの、カットしてください!」
と叫んだ。
その後だ。
さすが先生のカットは出際が良かった。
今は美容師をスタイリストと呼ぶが、
以前は美容師さんを先生と呼ぶ時代があったが、
まさに、この人は先生だ!
そして私は、一旦リタイヤした先生の、
リスタートする記念すべき初担当だという訳だ。
この状況で、そこまで聞きだせた私は、もう喉がガラガラだった。
水、水が欲しい。
そう願ったことが、天に伝わってしまったのか、
先生が、不慣れな自動シャンプーの機械をセットしてくれたはいいが、
どう間違ったのか、洗髪しているのと同時に飛び散るお湯で
仰向けになっている私の顔がびしゃびしゃだ。
でもそのおかげで、そのお湯が私の口を潤した。
それほどの水量が顔を濡らしたが、先生は気付かない。
そして、おそらく、気にしない。
そのまま、再び椅子に誘われ、
その間も、顔がしっとり潤っていたが、
先生は気にせず、前髪をカットしてくれたから、
顔が毛だらけになって、張り付いて離れない。
でも、先生は気付かない。気にする様子はない。
「こんな感じでいかがでしょう?
今日、私ミスっちゃって。眼鏡を忘れちゃって。
どうでしょうか?後ろの毛揃っていますか?」
そうか!
眼鏡が無いから、顔に張り付いた細かい毛なんて、見えないんだ!!
私は、カットの仕上がりではなく、そのことに深く納得してしまった。
そのせいで、鏡に映る自分を見るより先に、笑顔で頷いてしまった。
でもその数秒後、私は、
「あれ?」
と驚いた。
「先生、すごくいいです。ありがとうございます。」
私は思わず、そう叫んでいた。
予想より遥かに良い仕上がりに驚いたという訳だ。
そして、帰宅後、
改めて鏡に顔を近づけた時、さらに驚いた。
「すごい毛だらけ!」
ああ、楽しかった。
先生、次も会えたらいいな。
のん太は、甘えたいんだな。
のん太「どこ行ってたら?!のんが、淋しかったのに」
ごめんごめん。
ん?
あや「あたしも甘えたい」
あんだって?
珍しく小さな声で言うじゃない?!
いいよ。おいで。
ん?
あやの甘え方、斬新!