春のかけ声に、重いコートを脱ぎ捨て、もこもこと動き出した山並み。
若葉の濃淡が青海波を画きだし、山桜のパーツが淡く点在する。
柔らかな装いへと、衣替え真っただ中のせせらぎ街道をゆく。
道の駅「明宝」(磨墨の里公園)で休憩。
併設の、和食店で昼食にした。
裏手は公園になっていて、すぐそばを流れる吉田川まで下りることができた。
川面にかかがやく光の粒が、岩石に阻まれた水流とともに左右に散る。
まだ多くの木が、桜花をたんと残していた。
風まかせの花びらが、ふわりと舞いおり、やわらかい流れにたゆたう。
涼しげなせせらぎ、その心地よさといったらない。
まるく侵食された岩に腰掛け、ここから離れたくない症候群に見舞われる。
よくあることで。。。(苦笑)
なお、せせらぎ街道を北上する。
目当ては、國田家の芝桜。
國田さんちの裏山は、花柄パッチワークのクロスを広げたような花ざかり。
まんべんなく咲きそろい、絶好日だった。
4,5日前はだめだったらしく、なんと幸運なことか。
小さな花でも、これだけ密生すると香しい。
花間のあちこちでため息の連鎖がおきる。
桃色斜面と相対して、川よりの地のはずれにただ1本、こぼれんばかりの花をかかえる桜木があった。
手繰り寄せられるように、桃色霞の下に立つ。
芽吹く若葉をすっかり隠すほどの花の固まりが、ふわふわと空からぶら下がっている。
常は満開を持てはやされる桜だが、密やかで哀愁さえ感じてしまう。
このままここに居させて症候群、再び。
許される時間は、半分以下に目減りしていたが。。。
せせらぎ街道を南下し、街をうろうろするうちに、個性豊かな構えの店舗が続く商店街に入り込んだ。
肩先をツンツンとつつかれて・・・そんな気がして、ふっと振り返りざまに偶然見つけた店。
数歩で通りすぎてしまうほど狭い間口のカフェ「にど」。
玄関から真っ直ぐに伸びる階段。
案内書きどおり 「ほんまに土足で上がっていいの?」と躊躇してしまう。
丹念に磨き上げられ、飴色の輝きをはなっている。
踏みしめるのが申し訳ないくらい。
そっとそっと足をのせる。
2階のドアの向こうには、階段と同じく重厚な設えの店内。
表からは、想像もつかない空間があった。
チーズは無使用、主材料が豆腐、アーモンドパウダー、レモンで 「豆腐チーズケーキ」とは、これ如何に。
ところが、食感はもろに豆腐だが、チーズっぽい風味を感じてしまうのはなんで?
私が名付け親ならば、「豆腐のチーズ風ケーキ」とでもしようか。
水ようかんの、甘味はどこへ?
舌に神経を集結しても、わずかな甘さが応えてくれるくらいなもの。
それでいて、満足度は高い。
見た目にもとても可愛くて。
食後に珍しいものを勧められて試飲。
「3年番茶」、耳慣れない響きだった。
茶葉を蒸らした後、3年間熟成したものだとか。
香りは控えめで、まろやかさがあり飲みやすい。
ニード(鳥の巣)から付けられた店名「にど」。
誰もが集える憩いの場になれば、との思いがこめられている。
2度、3度がありますようにも、後からこじつけで・・・との付け加えもあった。
聞けば、10日前にオープンしたばかりらしい。
その時だからこそ遭遇できた店。
いくつもの運命的な出合いがあり、当初の目的を上回る付加多き日となった。
これだから・・・寄り道や道草は、やめられない。