嘘日記 １１月７日

　先週末は出血大サービスであった。

　４日、金曜日。
　私には、ほとんどそこでしか本は買わない、というくらい大切な古本屋があった。最近行けてなかったから久しぶりだ、とか当たり前のことを考えながらその古本屋に向かった。
　しかし、その店まであと十メートルというところで異変に気づいた。なんだか薄暗い。あと五メートルというところで、駐車場に一台も車が止まっておらずどうやら店が閉まっている、ということに気づいた。
　ドアの前に立ってみて、ようやく全てを悟る。
「閉店」
　大きな紙にデカデカと、そう書かれていた。
　なんということだ！　なんて思わなかった。
　マジか～ッ！？　と思った。
　私はショックで失意のどん底に落ちた――。と思われたが、実は案外大丈夫だった。いったん底につきかけたけど落ちきらずにふわーっと浮上してちょんと地面に着地したような感じだった。
　というのも、ちょっと考えてみればその店がつぶれることくらい予想しえたことだったからだ。その店は毎日、「○○店限定！！」と銘打って文庫本のまとめ買いセールを実施していたのだ。一冊あたりに換算すると６０円とか５０円になる。およそ半額。それでいて、客はほとんどいなかった。私が一時間ほど掘り出し物を探していても、他の客が邪魔になるというようなことはあまりなかった。私はのびのびもくもくと本探しに没頭することができた。
　だからこそ私はそこがお気に入りだったのだが、残念なことに閉店してしまった。説明書きが貼り付けられており、先月２５日に閉店しましたということだった。
　もう十日も前の話だった。私のあずかり知らぬところで、事は進み、完了してしまっていた。完全に蚊帳の外だった（当たり前である）。
　とまぁーそんな話をくどくどしてもしょーがないのでやめる。
　店の前でしっかり１分ほど立ちつくしたあと、私は他の古本屋をめぐった。
　実はちょっと探している本があったので、いつもは見ないようなエッセイのコーナーとかも探した。本のタイトルは分かっていたけど著者の名前をド忘れしてしまっていて（おまけにエッセイなのか小説なのかもよく分からず）、探すのに苦労した。ツタヤで検索してもらったけど見つからなかった。
　結局その日は見つけることができず、夕飯も食べずに家に帰りついたのは２２時半ごろだった。
　帰宅する三十分ほど前、古本屋で川嶋あいの『１６歳の白い地図』を見つけて、そこそこ安かったので買った。川嶋あいとはつまり、私の大好きなシンガーソングライターさんである。このさらに二十分ほど前に、ツタヤで彼女のファーストシングルを買っていた。新品で持っていたが、５０円なのでつい、買ってしまった。乙一作品もダブっているものが何冊かあるし、どうやら私は好きな人の作品を何度も買ってしまうクセがあるようだった。サイフの中に諭吉が９枚もあるのにもう１枚欲しいなと思ってしまうのと同じである。
　ともかく『１６歳の白い地図』をレジに持っていった。そしてお金を払ったあとに気づいた。
　明日から二日間、活字本が半額セールだというはり紙が目の前にあった。
　あまりに悔しいので、明日、今日損した分を絶対に取り返してやる！　と意気込んだ。
　翌日（５日、土曜日）。
　開店時間を少し過ぎてから店に到着。が、思っていたほど人がおらず、少々気勢をそがれる。
　どうやら、「活字」というのがネックだったようである。早くから詰め掛けるのはたいてい元気のある若者であろう。しかしその若者たちというのは、マンガや音楽に夢中で活字にはさほどの興味もないのである。
　まぁ、競争率が低くなって私にはありがたいが。
　二時間近くも物色した結果、２３冊購入。計１５０３円（１５０２円引き）なり。内、１６冊がミステリー作品だった。昨日、必死で探していた本も見つかった。その本について少し語っておこう。
　そもそもなぜその本を探していたのか。
　メル友に「読めー」と言われたからである。それだけ。
　森絵都さんの『カラフル』という本である。「今更かよー」と思う読者の方がいらっしゃるだろう。実際、私の同室者はそう言った。どうやら私が中学生のころにヒットした作品だったらしい。つい二年前に読書を始めた私には寝耳に水という感じだった。
　買ってすぐに一読して、直後にメル友に感謝した。人生を変える一冊と言えるほど良かった。メル友に命令されなければきっと一生読むことはなかっただろうと思われる。だから、感謝した。出会ってまだ１ヶ月しか経っていないのに……いや、時間は関係ないのかな。
　恥ずかしいのでこの話はやめる。
　また翌日（６日、日曜日）。
　朝から雨が降っていた。どしゃぶりの雨だった。空はどす黒い雲に覆われ、時折り稲光が走っていた。ウソである。
　寮まで２０キロ以上の道のりがあったので、母に車で送ってもらうことにした。風邪ぎみだし。
　途中で今日も半額セールを行なっている例の店に寄ってもらった。そのころには雨はほとんどやんでいた。
　昨日はなかった本があり、おっしゃー！　と思うものがあったので、買った。
　この週末に買った本は合計３１冊となった。寮の自室の本棚（２段）の本の配置を変更した。かっこよく言えばリニューアルである。
　本棚すべてが勉強でない本で埋まった。教科書などはそのへんに平積みにした。