月の海

月から地球を見て
      真相にせまる

イン・ザ・ファインダー 12

2020年04月27日 00時15分51秒 | Nouvelle vague Tokio
 本屋さんのアルバイトが終わってから私と由紀ちゃんは川に向かって歩き出した。
その途中、私は歩きながら由紀ちゃんに聞いた。
 「心霊写真は存在しないの。」
 「講義ではそう教えられたの。」
 「でもテレビや雑誌では心霊写真をよく取り上げているでしょう。」
 「心霊写真と言われる写真のほとんどがフィルムや印画紙の
現像時や引き延ばしの時にわずかな光が入ったりとかすると、
できた写真に霊や人魂が写っている様に見えたりするの。
または現像液の温度や混ざり具合が均一でなくて現像ムラによるシミが
人の形に見えたりした写真を心霊現象ではないかと思ってしまったのよ。」
 「うそぉ。」
 「だってカメラのフィルムも人間の網膜も同じ光に反応しているの。
写真に写るのであれば人間にも見えるはずよ。」
 「それはそうだけど。」
 「その証拠にデジタルカメラが普及してからは
心霊写真の話を聞かなくなったでしょう。」
 「確かにそうね。でもこの写真はどうして。
この写真は今日香のデジタル一眼レフで撮ったのよ。」
 「そうよ、それが不思議なの。」
 二人はいつしか早足になっていた。やがて橋を渡り廃屋の前に着いた。
 「こんな所に廃屋があるなんて知らなかった。」
 そう由紀ちゃんがぽつんと言った。
 「周りに街路樹があるから分かりづらいのかも知れない。」
 「明日香さんはなぜここを見つけたの。」
 まさかカメラの中の今日香に教えられたとは言えない。
 「写真を撮っているうちに偶然。」
 「そぉ。じゃあ、もう一度同じ位置で撮ってみましょう。」
 私は由紀ちゃんに写真を渡しカメラを構えた。
由紀ちゃんは写真を見ながら。
 「もう少し右。」
 とか言って私が立つ位置を指示した。
 「その辺よ明日香さん。」
 由紀ちゃんがそう言うと私はその位置で何回かシャッターを押した。
また少し体をずらしたりして、さらにシャッターを押した。
そしてカメラのディスプレイを再生モードにして今撮った写真を
由紀ちゃんと二人で見た。
全ての写真を確認したけれど日差しが明るいのとカメラの
ディスプレイが小さいので画像がよく見えなかった。
 「はっきり見えないから分からないけど子供は写ってないみたい。」
 私がそう言うと由紀ちゃんは。
 「中に入ってみない。」
 「えっ、入るの。」
 私は少し怖かったけど由紀ちゃんが一緒ならいいやと思って
由紀ちゃんの後に着いた。
私達は廃屋の入り口らしい方へ向かった。
入り口の引き戸は木製だけど、はめてあるガラスが汚れていて中は見えない。
引き戸には南京錠が付いていたけど南京錠を取り付けている金具は
木が腐って外れていた。
由紀ちゃんが引き戸をひくと簡単に開いた。
由紀ちゃんが中に入っていったので私も続いて廃屋の中に入った。
廃屋の中は汚れた窓からはいる光でそれほど暗くなかった。
いくつかの作業台や棚があったけど、その上には何も置いてなかった。
それらには埃もあまり積もっていないし蜘蛛の巣もなかった。
 「建物は古いけど数年前まで使われていたみたい。」
 廃屋内を見ながら由紀ちゃんが言ったので私も周りを見ながら言った。
 「きっと不況でつぶれたのよ。でも霊がいるようには見えないね。」
 「そうね。」
 廃屋の中は思ったより怖い場所ではなかったので私は安心して。
 「出ようか。」
 と言って入って来た方へ私が向かうと由紀ちゃんも
私に続いて出ようと振り返った時に言った。
 「明日香さんちょっと待って。」
 「どぉしたの。」
 「作業台の下に何か見えた。」
 そう言って由紀ちゃんは作業台の一つの裏に回り込んだ。
次の瞬間由紀ちゃんの悲鳴が聞こえた。私は由紀ちゃんの横に駆け寄った。
作業台の裏には子供が倒れていた。
 「息をしていない。」
 由紀ちゃんが言った。仰向けに倒れている子供の皮膚の色は
活気のある赤みがなく生きている人間の色ではなかった。
「あの子だ。」
 私はそうつぶやいた。間違いなくあの写真に写っていた男の子だった。

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