( 8½ )(61)VR奥儀皆伝 TP-VR Attract. 謎解き・テーマパークVR Web版

2022-10-12 | バーチャルリアリティ解説
Number61 / パーク VRアトラクションの 品格
                          【( 8½ )総目次
 日本の品格「四書五経」が作りました (Ⅶ)VR之極意:③
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《 本Blogの 今回の頁は引用できます。本頁は近く鋳型化されます。2022.10.xx 鋳型化ここから 》 

〇 「VR 羽黒山五重塔 デジタル復元」(山伏との遭遇)
 「日本の国宝と その時代 ⑤」
 (  55、 (55½ ②)、③ 58 59 60 )

 山岳信仰「出羽三山」の 羽黒山の五重塔(国宝)を VR 復元します。

 この 五重塔(ミシュラン・グリーンガイド推奨)は、山形県に 社外講演で VRを解説しに出かけたとき、県 教育委員会の方に ご案内頂きました。黒川能 を見せて頂いた翌日、旨い そばを ごちそうになり、山形の文化の厚みを しっかり感じて 拝観しました。

 ※ なお、山形県の名所 としては「出羽三山」(月山・羽黒山・湯殿山)の他に、山寺(「宝珠山立石寺」、芭蕉閑さや 岩にしみ入る 蝉の声」)/ 銀山温泉(NHK朝ドラ「おしん」舞台) / 蔵王温泉などが あります。


 羽黒山 五重塔
 「プチ修行体験 ツアー(山形県観光立県推進課提供)※足袋と金剛杖は含まれません」「精進料理の夕食例(写真提供:庄交コーポレーション)四季の旅 ※ 開山1400年を期して、”山駆” などの荒行 を含む 3泊4日の 本格的な「女性の山伏修行」が 始まりました。(問合せ先:出羽三山神社社務所)
 山伏修行持込禁止物品: 食品、嗜好品、カメラ、録音器機、ラジオ、携帯電話 その他これ等に類するもの

 羽黒山の五重塔は、無駄のない機能美です。冬に雪が積もると、それはそれは 美しく、その写真を 社外講演で使わせて頂きました。29.4m。山形県の学生さんは、子供の頃から遠足で 国宝を見て、美的センスを磨いています。三途の川(祓川)で俗世を離れ、異世界でオオカミに食われる恐怖を超えて、五重塔に たどり着けば、修験者でなくても浄土が 感じられます。修験道テーマパークです。(正しく言えは、テーマパークが 山岳宗教を模倣しています。(12)


 フェローの「テーマパーク構成要素図」(本Blog( 8½ )(61)が初出)
   三途の川   入場口+メインストリートUSA (日常 → 非日常・異界)
   地獄     "Snow White's Scary Adventures"など (19)
   極楽     ”It's a Small World”など
 TDLを日本人が受け容れたのは、山岳宗教の3要素が西欧と日本で共通していたから、です。

 ※ 山岳宗教の3要素 テーマパークの構造的相似 は「NICOGRAPH 北九州'94」の パネルディスカッション「テーマパークにおける エンタテインメントの世界」の 招待講演 で初めて発表しました。当日使用した OHPでは、たまたま 羽黒山の五重塔を(格好良いので)使用しましたが、これは 約600年前の庄内の領主 武藤政氏の再建と伝えられます。「出羽三山」の 宗教建築に馴染んだ美意識 が スポンサー(武藤政氏)と 当時の棟梁 の合意を生み、今に残る五重塔の美しさを造形しました。

 五重塔は 元はインドの仏塔(仏舎利塔)で、お釈迦様の遺骨が ここにあることを示す目印です。中国を経由して 倭国(九州)に伝わりました。ところで、日本は(西日本の古代の植生が)照葉樹林でした。どういうことかと言うと 雨が多く、また 地震が当たり前の国ですから、古くから 大工の棟梁たちは、日本の風土に適した補強を「中国から 仕様を輸入した仏塔」に加えました。そして、新築の多重塔に関しては 耐震性などの「カイゼン後の建築方法」で建てることが 当たり前だったと想像されます。

 ※ 積雪対策が必要な地域も、数多くありました。また、地震の原因には プレート性や火山性などが ありますが、とにかく 耐震設計は全国で必要でした。余談ですが、火山の近くでは 全国の 2万7969カ所から温泉が湧いています。(2020年3月末現在の源泉総数)



 上図イラストの出典は、西岡常一、宮上茂隆(著)穂積和夫(イラスト)『法隆寺 - 日本人はどのように建造物をつくってきたか -』1980年、新装版 2010年 の p.68(左)と p.26(右)です。上図は、濃尾・各務原地名文化研究会 会長 可児幸彦氏 Blog何故、五重塔は倒壊しなかったのかから。

 上に記した 可児幸彦氏 Blogは 非常に面白い内容です。

 可児氏の Blog には、上田篤編『五重塔はなぜ倒れないか』新潮選書 1996年 の結論である、「心柱 が周囲の塔と構造上 切り離されていることで、地震の揺れを打ち消す働きをしている」こと、が紹介されています。この免振機構のアイデアは、東京スカイツリーに 生かされました。先日放送された NHK「ブラタモリ#217」「東京スカイツリー〜なぜここにスカイツリーは立っている?〜」(初回放送日: 2022.10.8)では、設計者の方が スカイツリーの免振機構「心柱制御」を(少し 誇らしく)説明されていました。

 これは、ものすごく抜群の 免振機構 です。

 上のイラストは 両方、法隆寺の五重塔です。(左)の「心柱」は、構造上、周囲の「四天柱」してんばしら や その外側の「側柱」がわばしら から切り離されています。そうすると、地震の際に、外がわの塔は スネークダンスを踊って大きく揺れるのですが、心柱が 少し遅れて その揺れを打ち消す動きをするので、徐々に、振動が収まります。「心柱」には、地面に置かれている形状と、上から吊るされているものがあります。が、いずれの場合も、周囲の構造物から離れているので、揺れを鎮めます。スカイツリーも同じです。

 ※ 2012年に開業した 東京スカイツリー では「心柱制御」と名付けられました。

 ※ 「心柱と 四天柱」の関係は、東大寺 大仏殿の「主尊と脇侍」に酷似します。別述。


 東京スカイツリー Wiki 634m

 そして、可児氏 Blogで もう一つ強調されていたのが、上図(右)の 木組 きぐみ の伝統工法でした。西洋建築のように固く固定されるのでなく、接合部が 若干の揺れを ゆるやかに許容しています。
 日本の建築では、瓦は外来品でした。それまでの「茅葺き屋根」と違って はるかに重く、仮に軟弱な建築が行なわれていれば 犠牲者も出たでしょう。しかし、江戸以前の多重塔を詳しく調べても、地震による倒壊は 一例も なかったそうです。

 ※ 私は 霞が関ビル の上層階と、新宿住友ビル の上層階での 勤務経験があります。ところで、これら最初期の超高層ビル建設時の免振は 五重塔を参考にしており、安全係数も多い目だったそうで、地震の揺れは「全く」気になりませんでした。ところが、その後に建てられた超高層には(外国文献に 事例がないことを理由にして)その工夫が されておらず、最上階レストランの異様な揺れでコップが落ちて割れたなどの風評が気になっていたところ、結局、直下型震度7地震の 2度揺れなどが危険視されて、巨額の費用で免振装置を追加して入れたそうです。

 繰り返しますが、実寸大の現物、仏塔の「心柱」や  数寄屋造りの上質な「床柱」が 日本の建物の中で 四季の変化や「地震」「台風」に どう 耐えるだろう、と 棟梁たちが考えていたことは 化生論による 数理モデルですので「タグチメソッド」に通じます。

 そこで、国宝 VR デジタル復元 の手法で、観客が羽黒山で 五重塔を建てた 大工の棟梁」に なったら、という VR アトラクションの設定を考えてみます。海外から免振装置の専門家が見学に来るので、極楽からイタコさんに呼び出されました。

 棟梁ですので、地震の揺れが どのように塔に影響するのか、については、神社 社務所が 適当な資料を用意してくれれば いくらでも説明できます。幸い「地震の揺れに対する 建物の応力 を、色付けされた 矢印で モニター上に表示できる 計測機」を、社務所が用意してくれました。その計測機のデモに組み込まれた 数理モデルの画像を使えば、五重塔の外側が(ある)地震に対してダンスを始めたときの応力を「心柱」が 時間差で 逆方向に動き 揺れが相殺される、という説明が、相手が 仮に素人でも理解できるでしょう。

 この説明を聞いて VR 五重塔 を眺めれば、一段と美しく見えるはずです。

 イタコさんに呼び出された棟梁は、イタコさんに憑依し続けて 山形の温泉に一泊して、明日、海外からの専門家に会うことになりました。棟梁は イタコさんの味覚を通して、お料理と 季節の果物を おいしく頂きます。ドンビン。(民話の おしまい)

 ※ 「五重塔の大工の棟梁」との遭遇は 能楽 でも表現できます。ワキ「これは海外に住まい致す、旅の免振機構 調査員にて候。さても、羽黒山の五重塔は 海外にも聞こえたる名建築。祓川にて みそぎを済ませ、山に分け入りて五重塔に至り、奥儀を究めたばやと思ひ候。おお、にわかの地震。」(ト、地謡を含め 舞台騒然。)シテ(主役)山伏 の姿で 舞台に登場。いろいろ 掛け合いがあり、シテが 自分は 大工の棟梁の霊 だ、あなたたちを待っていた、と告げる。社務所の用意した計測機によって、免振機構の秘密 が明かされる。しかし、秘密にしたのでは なく、日本での真理は 主に 海外文献で運ばれると考える人もおり「食う寝るところに住むところ」というヤブラコウジのチューリンガンに気付かなかったのです、と 無量寿経が 詠まれました。寿 限無シ。シテは、橋掛かりに消えました。

 ※ 国宝 VRデジタル復元 では、五重塔の外観を「半透明」にして、心柱の動きを 地面の動きと比較しながら「スロー」「拡大」で 目視できます。国宝で、美術価値の高い五重塔を CG復元させた経験は、VR開発者が 立体構造物を設計する際に「人工物の意味」を意識することにつながります。

 ※ 「人工物学」では、工学システム は「その社会での意味」を考えること が重要です。

 〇 阿弥陀来迎図

 実は(61)では、小林美術科学さんの「阿弥陀来迎図」屏風 による(末法思想 平安時代の)臨終体験 から 国宝 VRデジタル復元 の説明を始めようと考えていたのですが(屏風のカラープリンター復元による  臨終 アナログVRです)、可児氏の Blogが面白かったので、免振機構を先に 紹介しました。
 「阿弥陀来迎図」屏風は、臨終時に お金持ちが 阿弥陀様の屏風絵紙テープで 結縁を結び、その 阿弥陀如来の ハプティック 西方浄土に迎えられる という VR の 魂 救済装置です。(このハプティックは 仏の 功徳です。キリスト教徒が ゾロアスター教 司祭の行為を呼んだ言葉では「魔法」です。)


 小林泰三著『日本の国宝、最初はこんな色だった』(光文社新書、2008年) pp. 57-58

 日本 VR学会の 第9回京都大会 招待講演では、四国大学 真鍋俊照先生が 東寺の「両界曼荼羅」を詳しく説明され、実は 空海の時代から「両界曼荼羅」の仏様の絵柄は 平面図ながらも3次元立体に描かれました、という非常に重要な発見を その講演で発表されました。
 両界曼荼羅 の立体像は、重ねて パラパラ漫画にすると「3D アニメ」になる そうです。
 その会場で 私が質問させて頂いた内容は、後世の「阿弥陀来迎図」屏風 は(疑似)3D による臨終時の 魂の救済 でしたので、それでは、
   弘法大師の時代の 立体アニメ は、いったい どういう目的で 描かれたものだったでしょう、
というものでした。真鍋先生の お答えは、明解でした。

 両界曼荼羅 の 仏の立体表現は、752年に 大仏造営を推進した関係者が 14.7m(現在の高さ)の大仏に感じた リアリティと同じものだと想像できるそうです。聖武天皇は、全国に 七重塔を持った国分寺を造らせ、釈迦牟尼仏と 大般若経の 功徳(仏の加護)を「四天王」が守る喜びに満ちた国土をイメージしました。東大寺の 毘盧遮那仏 は そのシンボルです。大仏の功徳 が 人々と五穀 あまねく照らし(遍照し)豊かな国土 を生むことを、大仏は「立体であること」で、広く世に知らしめました。

 (少し違う、かも知れませんが、)
   映画『ゴジラ』の ポスターの 平面のゴジラと、
   4K デジタル修復された画面上のゴジラや 歌舞伎町のゴジラ との違い、かも知れません。

 【聖武天皇の詔(大変 謙虚に わが身の不徳を恥じて、喜びに満ちた国土を イメージしておられます。)


 東宝株式会社 © 1954 - movie poster (wiki)

 そうすると、弘法大師が招来された 東寺の「立体曼荼羅」も、夫々の仏が お示しになっている功徳を「立体 造形美術 展示」として公開したものではないか、ということになりませんか。曼荼羅の 3D アニメ表現は、そこにつながっていたかも知れません。
 立体曼荼羅の一番 外は、ヒーロー戦隊 四天王の 活劇アトラクションです。次回以降に別述しますが、高畑勲氏の発見された「12世紀の絵巻物に見るアニメ表現」も、バーミヤンの 石仏、上宮法皇(博多)の五重塔・四天王寺、東寺の立体曼荼羅 に直結する リアリティ表現だった かも知れません。


 高畑勲著『十二世紀のアニメーション - 国宝絵巻物に見る映画的・アニメ的なるもの』(1999年)
 1999年に千葉市美術館で「絵巻物 - アニメの源流」という美術展も開かれました。上記の真鍋氏説と併せると、
 日本では 奈良時代から 3D CG の立体視点移動  同じカメラワーク を使っていた ことになります。

 『伴大納言絵巻』(出光美術館蔵)千葉市美術館「絵巻物 - アニメの源流」カタログ pp.18-19

 ※ 最後に、聖武天皇に 少し お気の毒な背景事情を記しておくと、平城京や 大仏の造営には「九州王朝」の財産が 主に遣われたと思われます。その原資が 奈良での公共工事に支払われ、奈良は好景気に沸きました。ところが、国分寺や 七重塔は、財源によっては 地方の景気を冷やします。奈良での好景気が、天皇の判断を狂わせたのかも 知れません。

   《 鋳型化ここまで 》
   フェロー武田 「VR 羽黒山 五重塔」(VR奥儀皆伝(8½)(61))

   Blog TP-VR Attract.のトリビア 2022.10.xx

 【おまけ】映画『スウィングガールズ』(2004年)動画 (山形県 置賜 おきたま 地方が舞台)

 ※ 小林美術科学さんの発見された「阿弥陀来迎図」屏風の カラー印刷 デジタル屏風復元による「観客」の 臨終体験(実際に屏風の前に寝て、阿弥陀様の 紙テープを握ってみること)については、改めて、ダグラス・トランブル監督『ブレインストーム』(1983年)の 新教徒の臨終と比較してみます。

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