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そこにピアノがあった。 だから、すーさんは鍵盤に指を滑らせた。 それが事実だ。 さーーーて、皆様お待たせいたしましたのう。 婆さんは至近距離で初めてスノー先生にお会いしましたがな。 そうなんです。 すーさんは初めてスノー音楽スタジオに行って参りました。 一見普通のお宅。 だけど、玄関前では発表会で婆さんだけ聞くことが出来たスノー先生の声とピアノの音がこぼれれてきた。 すーさんは、ドアの前で立ち止まった。 「ピアノ・・・」 「そうだねぇ~ピアノの音が聴こえるねぇ」(緊張気味の婆さん) 「はいるの」・・・・そう言って右側のドアを開けようとした。 開かなかった。 でも、すーさんは諦めなかった。 左のドアを開けて中を覗いた。 確かにピアノの音はさっきより近くなった。 すーさんは靴を脱ごうとした。 「ちょっと待った!カエルさんと一緒にここに座ってようよ」 婆さんはこれで中に入っていくのはさすがに出来なかったので、玄関先に座っている古風なカエルさんの置物で一時すーさんを留めることにした。 「カエルさん」 と言いながらしゃがんで置物を眺めているが、耳は「ピアノの音」に向いていることは確かだった。 何も答えないカエルさんにすぐ飽きて立ち上がった時、左のドアから見事なショートカットの白髪でツルツルお肌のお婆ちゃんが出て来てくれた。 「玄関先でごめんなさい。今日は、スノー先生に会う約束があるんですがちょっと早かったみたいでレッスン中のようなので」(婆さんシドロモドロ) 「まぁまぁ、遠慮ならさずに中に入って頂ければよかったのに。さぁ、中へお入りになって」 そのお婆ちゃん呼ぶにはピッチピチしておる方がスノー先生のお母さんだとすぐにわかった。 「生徒さんはみんないらしたら勝手に2階に上がって待ってるんですよ」 「へへへぇぇぇぇぇ (ひれ伏す婆さんww)」 そんな短い会話をしている隙にすーさんはさっさと靴を脱ぎ、揃え、上がり、勝手に別の部屋のノブに手をかけておった。 「コラッーーーーーーーー」 いつも怖がりで有名なすーさんが、初めてのお宅で動揺・パニックは全く起こさず、 ただひたすらピアノの音を探していることが明らかであった。 「すいません、すーさん、障碍がありまして・・・・」 「あらっ、そうなの? そんなこと・・・・すごい利発そうなお坊ちゃんだこと」 スノー先生のお母さんはすぐにすーさんの手を取り2階に上がり始めた。 「婆さんは後について参ります」 (誰もそんな言葉なんぞ聞いちゃいないがな) 急な階段を上りおわると「新しいドア」が出現。 すーさんはためらいもなく開けた。 そこには「普通の家の2階に長女の部屋があって、長女は絵本とおもちゃが大好き」って所だった。 グランドピアノと電子ピアノ、小さなラヴソファーに発表会で見た記憶が残る姉妹ちゃんが座っていた。 すーさんは、すぐさま手前にあった電子ピアノの椅子に座り鍵盤に指を添えた。 「やめちくれーーーーーーー」 すーさんは「ミ」の鍵盤から「ミ」の音が出てきたことで納得し、電子ピアノの上にあった飛行機を手に取り 「飛行機、ヒュ~~~~ン」と言った。 時を同じくしてダウン症の男の子が部屋に入ってきた。 レッスンを終えたスノー先生は婆さんに「はじめまして」と言う代わりに 「あらっ?こうちゃん、今日? この時間? やだっ、重なっちゃった」とおっしゃった。 「いいんです、すーさんと婆さんはご挨拶だけで帰ります」 「そうでしたね、ご挨拶を・・・」 すーさんは、既に電子ピアノから出てくる音に夢中になっていた。 スノー先生はご挨拶だけとおっしゃりながら、すーさんのその自然な姿に継続を決めたらしい(笑) まずは、ダウン症のこうちゃんにすーさんと一緒に挨拶をする場面を作ってくれた。 こうちゃんは、グランドピアノの上にあるトイストーリーのおもちゃをで遊び始めていたが、 スノー先生の「すーさんとご挨拶しよう、こうちゃん!!」の声でおもちゃ片手に婆さんのそばに来てくれた。 婆さんはちゃっかり電子ピアノの椅子に座って演奏(爆)しているすーさんを膝の上に座らせた。 「こうちゃんにご挨拶しよう」(婆さん) 「こうちゃん、こんにちは」・・・・目は電子ピアノに釘付け。 「こうちゃん、すーさんにこんにちはだよ」・・・とスノー先生。 「すーさん、こんにちは」・・・とこうちゃんが言ってくれると不思議にすーさんはこうちゃんを目で捕らえた。 不思議な空気。 なんでだ? きれいな声じゃな。 「婆さん、私、すーさんのこと覚えています」とスノー先生が言った。 「保育園でのコンサートの時はピアノに擦り寄って行ったと保育士の先生から聞きましたしね」 「そうですよね、そうですよ、すーさん、やっぱりすーさんだ」・・・スノー先生はかなりハイテンションな声だった。 「すーさん、椅子のもう少し向こうに座ってくれる? 先生、こっちに座りたいの」 電子ピアノの長椅子にすーさんとスノー先生が座った。 その二つのキュートなお尻が並んでいるのを見て、わしは正直夢を見ているみたいだった。 「じゃ、すーさん、あらぺこあおむし いくよ。 知ってる?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「これ・・絵本」 そう言って、譜面台に「はらぺこあおむし」の本を置いた。 「はらぺこあおむし」の絵本は最初に小児科のカバ先生の所で知って、保育園でチュー先生が読んでくれていた。 2ヶ月位前にすーさんが「げつようび~あおむしは~・・・」と自宅で突然歌い出したので 「どっかで聞いたことあるな」と思ったら、我が家にもプレゼントでもらった「エリックカール」の絵本うたに入っている「はらぺこあおむし」の歌だった。 「これは知ってます」・・・と婆さんはスノー先生にすーさんの代理で返答したが、 すーさんは一向に歌わない。 でも、歌えないのである。 だって、だってだって、心も体も全部鍵盤の上を走る先生の指に、そこから聴こえてくる音に集中しているんだもん(笑) 一人で音楽スタジオへやって来たこうちゃんのお母さんが後から入ってきた。 「スノー先生、今日はご挨拶だけで・・・。」 婆さんは切り上げを要請した。 「そうでしたね、そうそう、じゃ、来週7日土曜日に。すーさん、その時また一緒に唄おうね」 夢中になっていることを取り上げられると癇癪を起こすすーさんなのにこの時はすんなり椅子から降りた。 婆さん:「みんなにご挨拶だよ~~~」 「こうちゃん、さようなら」・・・あらま、こうちゃんのこと覚えていたの?? 「スノー先生にもさようならだね」 「しぇんしぇい、さようーなーら、ありがとごまいす (訳:ありがとうございます)」 「こうちゃんのお母さんにもね」 「こうちゃんのおかーしゃん、バイバ~~~イ」 婆さんは「これだけは絶対に忘れてはいかん」と出かけに決心した ピアノとスノー先生の写真の撮影の承諾を得て、思わず出会ったこうちゃんの写真も撮って外に出た。 スノー先生のお母さんが車まで見送りに出て来てくれた。 スノー先生のお母さんとは年が近いせいか(婆×2)、庭にある巨大な馬の置物(馬の等身大)について話が盛り上がってしまった。 この馬の置物は近くにある競馬場のイベントにはちょくちょく借り出されるらしい。 どうりでゼッケンやら手綱やら本物だと思ったよ・・・・。(これは有名旗手さんからのプレゼントらしい) わしはすーさんを車に乗せジュニアシートのベルトをして・・、改めて思った。 「音(楽)は全ての人を受け入れる」 「保育園児すーさんはその後すぐに保育園へ行った。 門の前で「あっち」と保育園とは反対方向を指差しわしの顔を見た。 「あっちはまたね」 チクッ・・ 保育園ではちょうど給食タイムだったのではらぺこすーさんにはグッドタイミングと思った。 手を洗い終えたすーさんが、「もう、ダメ!!かえるぅぅぅ」とベソをかいた。 いつもは保育園を後にする爺婆にほとんど未練なく、低い声で「バイバイ、いってらったい」と言うくせに・・・。 今日に限って・・婆さん泣かせてどうすんだよ!! バッキャロー!! うれしいぜ。 |