legno-Diario-自閉症児は不思議生命体-

~自閉症のすーさん(小学1年生)といい婆さんのなんでもかんでも~

始まりは5冊目から

2005-04-04 00:26:17 | 保育園
すーさんが2歳児クラスでチュー先生と村先生と交わした「連絡帳」は3月31日で既に5冊目になっていた。

つい、先日5冊目に突入したばかりだ。

****3月30日(水曜日)*****(たぶん、チュー先生からだ)

新しい教室にも少し戸惑いの見られる面もありますが、スムーズに進んでいます。
この1年のすーさんの多方面に渡る大きな成長を感じ、4月に入ってからの変化にもいきつもどりつ何とか超えていけるかな と思います。
すーさんのそばに必ず知っている顔もいるはずです。
すーさんの力も爺さん婆さんが乗り越え積み上げてきた力も信じています。
何かあれば、今年一緒に生活した2歳職員も園長先生も主任も皆、力になってくれるはず。
勿論、担任になる人は言うまでもなく。
この一年がもとにもどることはありません。
それを経験した上でのスタートです、

その再スタートに一緒にいられなかったのは本当に残念ですが、まわりにたくさんいますから安心して下さい。
そしていつでも会いに来て下さい。

園庭では、たいそうのCD等がかかっていたのでそちらに気が行ってそばを離れず、聞いたり歌ったり腰をフリフリ動かしたりしていました。

今日の給食のデザートのリンゴも他のものと一緒にテーブルにおいたのですが、ちゃんと食後のデザートとして最後に食べていました。
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3月30日、婆さんは早目に迎えに行けると思っておったが玄関で靴を履いている時に仕事の電話が入ったのでいつもと同じ時間になってしまった。

前日は(チュー先生が異動と知った日)1日中そのことをずっと考えながら仕事をして、保育園に迎えに行った時に再度掲示板を見直し、眠れないけど眠ろうと思った夜を過ごし、30日のお迎えの時間を迎え、それらの疲れからか自分の体がリセットされていることに気がついていた。

教室に入ろうとしたら・・チュー先生が満面の笑みをたたえ「婆さん、おかえりなさい」と迎えてくれた。

「まだいらしたんですね?」
「えへぇ、まだいますよ」 そう応えるチュー先生はやっぱりいつものチュー先生だった。

チュー先生は帰り支度を進めながら聞いている婆さんに本当に色々な話をしてくれた。
いつもは「伝えたりない」と思うのは婆さんの方なのに、今日はチュー先生が「これでもか!これでもか!!」とご自身に言い聞かせるように話してくれる姿が嬉しかった。

婆さんはチュー先生のおっしゃりたいことがこの時全部理解できたと思った。

「伝わったぜ・・チュー先生。新しい場所で新しい子供達とその笑顔でたくさん触れ合ってくだせい。わしは、やっとお礼を言える気持ちになったから」

そう、口には出せなかったがな。

チュー先生はすーさんのいる教室まで降りて来てくれた。
すーさんはやっぱり今日も最後の1人の園児だった。

すーさんが上着を着て、靴を半分婆さんに履かせてもらって正面玄関のドアを「あ~け~る」と言おうとした時、
チュー先生は「明日の朝は爺さんがいらっしゃるんですね?」と聞いた。
「たぶん、そうなると思います」 と婆さん。

それはこの保育園でチュー先生と会う最後の瞬間が今なんだと言うことをはっきりさせた。

「ありがとうございました。また明日、チュー先生・・・さようなら」

すーさんは「せんせい、さようなら」と言うか言わないかで外に出た。

「すーさん、おまえさんはそれだけかい?」 そう言ってしまいそうになった時、すーさんは分厚いドアに戻り、両手をドアに当てて「バイバ~~イ」とチュー先生に言った。

ドアを閉めたら振り返ることのないすーさんが、門の近くまで来たのにドアに戻ってそう言ったのだ。

わしは、3歳児クラスに一緒に上がれるとずっと思っていてくれたチュー先生を送り出すと決めたのだ。

もう、泣かない。

分厚いドアの向こう側ですーさんの「バイバ~~イ」に応えているチュー先生の膝下だけを見てることしかできなかった。


自転車の後部座席に座ったすーさんが首をかしげた。
「おつきさま・・ない」

「そうだね、今日はおつきさま出てないや。 すーさん、お願いします」
「はい、しゅっぱつしんこう!!」

すーさんのいつのも掛け声で漕ぎ出した自転車はいつものように走りだした。





3月31日夜、婆さんはいつもの時間にすーさんを迎えに行った。
もう、チュー先生は今日の午後から引継ぎのため新しい職場へ旅立ったはずじゃ。

保育園の玄関では他の園へ異動してしまう先生とお子さん、親御さんとの記念撮影の真っ最中だった。
年寄りの大きな御世話ってことでシャッター押す係りを買って出た婆さん。
その写真の被写体としてドラミちゃん先生もやよ先生もいた。

すーさんが「やよせんせ~~い」と呼び、
やよ先生が「は~い」と答えてくれる。
やよ先生が「すー~~さ~~ん」と呼び。
すーさんが「は~~い」と答える。

このやり取りは今年に入ってすぐ延長の時間にやよ先生とすーさんが育んだ挨拶だったな。

やよ先生は他のクラスの先生なのにこの掛け合いの相手にすーさんが選んだのだ。
やよ先生は美人。そして、すーさんと同じように「デコッパチ」 (笑)
すーさんはやはり面食いだったのか?

撮影会でのシャッター係を終えて階段を昇ろうとしていた時

「婆さん、今年もどうぞ宜しくお願いします」   と声がした。
振り返るとそこにはアイボリーのPコートを着てにっこり笑っているタコ先生が立っていた。

発表が遅くなってしまったが、すーさんの3歳児クラスでの担任の先生は「タコ先生」と「ウイング先生」である。

タコ先生は保育士さんの中ですーさんが一番好きな先生なのである。

「こちらこそ、またまたご迷惑をたくさんお掛けすると思いますが、どうぞよろしくお願いします。」
「なんでも言って下さいね」
「ええ、遠慮なくそうさせてもらいます。 今年は『なぜすーさんがタコ先生が一番好きなのか?の謎に迫る一年にしたいと思っております。』
「なんででしょうねぇ~。でも、たぶん、最初に私がすーさんを抱っこしたからだと思いますよ」

うっへぇ~~、そだそだ、そうだった。

タコ先生は1歳児クラスの担任でもあった。最初は、すーさんは抱っこされることを嫌がっていた。
ある日、タコ先生が「すーさん、抱っこを嫌がらなくなったんです」と話してくれた時のタコ先生の素朴な笑顔を今でも覚えていた。
すーさん側からすれば「初めて抱っこを許した先生」だったのだ。

そうか、それは確かに村先生もチュー先生も勝てないはずだよな。

30日の夜、チュー先生はこう話してくれた。

「タコ先生はすーさんの一番好きな先生なんです。私も村先生も勝てませんでした。」と園長先生に話しておきましたと・・・。
「また、チュー先生クラスミーティングするんですか??って言われる位ミーティングをしてきたし、連絡帳は事あるごとにタコ先生にも読んでもらっていましたから」と・・・。

タコ先生は2歳児クラスの時も隣のクラスの担任だったので、すーさんの過去2年間の様子はほとんど知っている。
すーさんは幸せ者だ。

その日、保育園の玄関で「婆さん、今度担任になったウイングです。これからなんでも聞いて下さいね」と春色のコートに身を包んだ人に声をかけられた。
「そそそそそそうでしたか・・こちらこそどうぞ宜しくお願いします。」
「本当になんでも聞いて下さいね」
「婆さんに食いつかれるとしつこいでっせ。長いですしね・・・」と言ってから「しまった、最初から脅かしてどうすんだよ?」と後悔したが遅かった。

帰宅後、わしはこれで最後になる5冊目の連絡帳を開いた。


****3月31日(木曜日)*****(たぶん、村先生からだ)

今日は全体でのお別れ会、クラスでのお別れ会、”別れ”というのをなんとなくかんじているようなので
”さようなら” ”いやなのー” と泣いたりする場面もありました。
今日はさすがにすごく感じるようで寝付けずにいます。

すーさん、この一年ですごく成長しましたよね。
私達もすーさんと一緒に成長させてもらったような気がします。
また新しい生活の中ですーさんがどんな成長をしてくれるか、とても楽しみです。

婆さんが迷った時、くじけそうになった時、いつでも呼び止めて下さい。

本当にこの1年、ありがとうございました。

2人共もちあがれませんでしたが、いつも見守っています。 

チュー、村、

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村先生は0歳児クラスの担任になられた。
よっしゃー! すーさんと一緒に赤ちゃん部屋へ遊びに行こう。

そう、思って明日は持っていかない5冊目の連絡帳をテーブルに置いて夕食にした。



****4月1日(金曜日)*****(たぶん、タコ先生からだ)・・でも1枚の紙に書いてリュックに入っていた

すーさん、進級おめでとうございます。

園庭では滑り台をしたり、フープや縄跳びで汽車をして、もーちゃんとツンちゃんと走りました。

進級式は保育士の膝の上でしばらく参加し、各クラスの担任に名札を配られ始めたら泣き出してしまい、
ままごとコーナーで落ち着きました。

「エビカニニクス」の体操では耳をふさぎながらも様子を見ていて、終わってからもエビエビと言っていたすーさんです。

クラスのトイレだけではなく、4・5歳のトイレにも行きました。

今日は疲れたのか布団に入ると早めに寝ていました。

ノートは前年度のを使用しますのでお持ち下さいね。よろしくお願いします。


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が~~~~ん、そうだったのか。

4月2日(土曜日) 曇り
今朝、7時30分頃徹夜明けで帰って来た爺さんを起こさないようにすーさんと出掛けた。
図書館に行ったり、長いループ状の滑り台のある公園へ行った。
この間まではシャカシャカ滑っていたその滑り台に又恐怖心が舞い戻って来てしまったようで、階段を昇りきった所で「おりる~、怖い」と言って急な階段を降りてきたすーさん。
ブランコもほんのちょっぴり乗っただけで「もういいの」と止めてしまった。
ジャングルジムもすぐにやめた。
今日は爺さんじゃないから乗りが悪いのかな?と思ったりして・・・・。
「ぽぽちゃん、買いにいこうか?」 できれば、爺さんと一緒に買いにいきたかったがこんな調子じゃ公園に長居してもつまんないだろうし・・・。
「ぽぽちゃん、いく」
すーさんのハキのある声が返って来たのでベビーザラスへ足を伸ばした。
が、ベビーザラスでは取り扱ってないとのこと、トイザラスなら置いてありますよ。と言われ、
ディズプレイの赤ちゃんを3体触った後帰宅することにした。(ベビーザラスでよかった(笑)

マンションのエレベーターを降りると「お父しゃん」コールが始まっていた。
玄関を入るなり「おと~しゃ~~~ん」
寝室からまだ半開きの目をして出てくるまですーさんは玄関で待っていた。
「イジラシイのう」

遅めの昼食を取って、トイザラスにぽぽちゃんを探しに行くことにした。
もう2つ目的があった。
トイザラスの道を挟んだ向かい側にはチュー先生がいる。
土日もやっている「こども館」勤務になったチュー先生に会いに行こう。
そして、チュー先生がいる同じ建物の中に、明日、ピアノのレッスンを受けさせてもらえるかどうか?とお話させてもらった音楽スタジオの発表会があるので、入り口だけでもすーさんに慣れてもらうには丁度いいや・・・。

かなり中が変ったこども館で「チュー先生はいらっしゃいますか?」と聞くと、「2階のスタジオにいますよ」と教えてくれた。
こども館の2階には行ったことがない。
やはりすーさんは小パニック。
腰を屈めて入り口の下駄箱を整理しているあの見慣れた後姿・・・チュー先生だ!!

でも、すーさんにその姿を見つけて欲しかったので爺婆も「ほらっ、チュー先生だよ」と言うのを止めた。

「ないの、いらないの」 そのすーさんの声に気がついて振り返ってくれたチュー先生が両手を広げてすーさんを迎えてくれた。
すーさんはと言うと感動の再会とは全く思っていないご様子。
”ガクっ”

しばらく爺さんとすーさんはスタジオのプレイゾーンで遊んでいる間にチュー先生と話していた。

「チュー先生の写真撮るのを忘れていたんですが、ここで撮らせてもらっちゃ・・ダメそうですね」
「そうですね・・ちょっとダメかも。それにまだ私新人ですからねぇ~~~~」
確かに新人には違いない。(笑)

絵本コーナーにはたくさんの本があった。
すーさんは一回りすると絵本コーナーにやってきた。
まずは「しろくまちゃんのホットケーキ」を見つけた。
これは、2歳児クラスで後半チュー先生や村先生が教室に増やした絵本のうちの1冊だ。
次は「電車にのって」を見つけだし読み始める。
これも保育園で読んでもらっていた本だ・・。
それからそれから・・・8冊ぐらい探し出しては読む本が全部チュー先生や村先生に読んでもらった本。
その中には1歳児クラスでタコ先生がいつも読んでくれた「もこもこもこ」も入っていた。

チュー先生が一旦お仕事に戻られすーさんの周りに本が広がった頃そばに来てくれた。
「あっ、これも私が持って来てみんなに読んでもらった本です」・・そう言って目を細めていた。

その絵本コーナーの一角になんとなく揃っていたのであろうが、すーさんが探し出す速さを見るといかに絵本が好きだったかがわかった。
背表紙だけでわかるのだから・・すごい。
これが自閉症特有の記憶力だったとしても爺婆もチュー先生も嬉しかった。

「もうそろそろぽぽちゃんをゲットしに行きますね」
「すーさん、またおいでね。バイバイ。さようなら」
「すーさん、チュー先生にさようならだよ」 婆さんはそう言ったもののちょっと心配していた。
30日から「さようなら」と言う言葉に敏感に反応して「プイっ」と不機嫌そうにその場から離れようとしていたのだ。
「さようなら」・・・それでも今回はそう言えた。
しかし、思い切り素っ気無い。

「すいません、無愛想なもんで」 (そんなことは気にするチュー先生ではないがな)
「そのうち何回かしたら、ここにいるんだってわかってくると思いますよ」 とチュー先生らしいことを言って送ってくれた。

その夜、村先生からメールを頂戴した。
村先生は4月1日から5日まで休暇を取ってらしたそうなのだが、すーさんの新しい生活を気にかけてくれ、1日、保育園にそっと覗きに行って、寝顔を見てくれたと知った。
そして、すーさんがお別れの前日に先生に「さようなら、バイバイ」フェ~~ンと半べそで言いに行ったことも。
これにはチュー先生も村先生も驚いたそうだ。(そうじゃろう、わしも驚いた)
すーさんは一番感じやすい子だと・・・。
他にも婆さんにきめ細やかな激励も添えて・・・。
ありがたや・・・ありがたや。

さぁ、タコ先生が書いてくれた初日の連絡帳を任務終了かと思っていた5冊目の連絡帳の続きに貼り付けよう。
村先生だっていつでもいてくれるんだ。
朝食がっちり喰わせて保育園へ送り出そう。
明日はまた午睡なしで療育センターへ言語の検査に行くけど・・・タコ先生とウイング先生にお知らせしなきゃな。