笛吹きひゃらりのひゃらひゃら日記

器用貧乏系OLひゃらりが平穏な日常の中でフルート吹いたり歴史に夢中になったりしている日記です。

偽ドミトリーという存在②【お気に入り人物伝】

2010-08-08 21:40:42 | ロシア史なお話
てなわけで。
 
『実は殺された皇子が生きていたらしい!』
というショッキングなウワサが流れたロシアなんですが、
これ、ちょっと無理があるんですよ。
なにしろドミトリー皇子、ノドを刃物でグサー、ですから。
調査団も作られて死亡を確かめましたから。
 
けれどドミトリーを自称する若者はどんどんと味方を増やしていきます。
ボリス帝は敵が多かったから、彼らに利用されたといってもいいかもしれません。
反皇帝派の大貴族や混乱まっさかりのロシアを狙う外国勢力、
ロシア正教の代わりに勢力を拡大したいカトリックなどが偽ドミトリーのバックにつきました。
この僭称者の青年ですが、大貴族の家内で召使をしたあと修道院に入った脱走修道士のグレゴリー・オトレピエフだと言われています。
さてこの偽ドミトリー、
いつの間にかひそかに敵国ポーランドに渡ったそうです。
そして彼の地でカトリックに改宗したりポーランド国王に謁見したりポーランド貴族女性のマリーナと婚約したり、
帝位簒奪のためにいろいろ地固めをしたのでした。
こちらが婚約者のマリーナ。
ムソルグスキーのオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』では偽ドミトリー以上の野心家として描かれている、
ポーランドを代表する肉食系女子(?)です。
どうしても王妃様になりたいんだってー。
ポーランドの威信をかけて戦いたいんだってー。
 
で、満を持してロシアに進軍した偽ドミトリー軍。
けれどボリスは前回も言いましたが戦争上手でございまして、
偽ドミトリー軍を見事全滅寸前まで追い詰めます。
さすがです。
しかししかし、ここでまさかの事態。
 
ボリス・ゴドゥノフ帝、崩御。
 
帝位はボリスの長男フョードルが継承したもののまだ若干16歳。
親玉を失った軍は総崩れ、
皇帝派の貴族達も偽ドミトリー派に寝返るものが続出しました。
そしてロシアお決まりのクーデターが起き、新帝フョードルは処刑されてしまいます。
その後偽ドミトリーは悠然と帝都モスクワに入城、戴冠。ドミトリー2世と称します。
こうして僭称者が晴れて簒奪を成し遂げてしまったのでした。
 
さて、実はこの時、ドミトリーの(ほんもののドミトリー皇子ね)の母親、
イヴァン雷帝の妻であったマリーヤはまだ存命だったりします。
というわけで偽ドミトリーはマリーヤの暮らす修道院に訪問し、
息子だと認めさせます。
(そりゃ、認めなかったら殺されちゃってもモンク言えないしね)
 
てなわけで鮮烈なデビューを飾った偽ドミトリーでしたが、
やはりその親ポーランド、親カトリックな政策は反感を買うわけです。
「都にいるポーランド軍が狼藉を働いても皇帝はなにも言わない!」
「新しい皇妃はポーランド娘らしいぞ!」
「つーかロシアに来たくせにロシア正教に改宗もしないでカトリックの流儀を持ち込むなんて、どういう了見だ!」
「ってか皇帝自身がカトリックに改宗したとかいうウワサもあるぞ!」
偽ドミトリー、ピンチでございます。
こうなったらロシア史的にどうなるか。
…はい、クーデターですね。
ほんとにロシア人はクーデター好きだなぁ。
大貴族ヴァシーリー・シュイスキー公(ちなみにこの人、ドミトリー皇子死亡調査団の人です)を中心に反皇帝派は挙兵、偽ドミトリーは逮捕のうえ殺害されました。
宮殿の窓から逃げようとしたら足を骨折しちゃって、身動きが取れなくなったところで、銃でずどん。
こちらは逃げようとしてる偽ドミトリーの絵です。
(カール・ベニングの『最後の数分間』という作品。タイトルのつけ方が秀逸です)
さて、殺された偽ドミトリーの遺体は赤の広場で見せしめにされた上に焼却処分されました。
遺灰は大砲に詰めてポーランド方面にどかーん。
今回の反乱軍は仕事が丁寧です。
そりゃそうだね!また偽者が出てきたらいけないものね!
 
けど、出ちゃうのよ。
だってロシアなんだもん。
 
クーデターの立役者であるシュイスキー公が即位を宣言してヴァシーリー4世と称してまもなく、
ロシア中をあのウワサが駆け巡ることになります。
 
『実は、ドミトリー皇帝は、生きていた!』
 
うわぁ。
まただぁ。
 
 
参考文献:
ボリス・ゴドノフと偽のドミトリー―「動乱」時代のロシア』 栗生沢武生 山川出版社
『ロシアとソ連邦』 外川継男著 講談社学術文庫
『イヴァン雷帝』 アンリ・トロワイヤ著 工藤庸子訳 中公文庫
Wikipedeia 英語版/ロシア語版

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