白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

扉が開かない

2006-09-26 | 純粋創作
扉が開かない そのむこうがわの がらんどうの部屋に 食い散らかした小骨を 片付けにいきたいのに どうにも開かないのです いま ぼくは湿気た土埃を 壁から吸い込むので 胸が重くてつかえて びっしりとかびているようで とても苦しいのです この部屋の向こうの 緑色の空気だって 錆付いた銅の粉なのですから 大した違いはないのです けれど あちらに水盤を残してきたのです きらきらしている . . . 本文を読む

休符上のフェルマータのように

2006-09-25 | こころについて、思うこと
ゲーテ「ウェルテル」を読みかえして ヘンレ版のパルティータの楽譜を開き 第6番のトッカータを指に映したとき 終わった、と口にしたまま がくり、とうなだれて動けなくなった やがて 自分が自分でなくなり 離脱していくような感覚に 全身がこわばり どうしていいかわからなくなり 虚脱したまま 奇行への衝動に苛まれたまま 嵐が過ぎ去るのを待った 3時間がたっていた ****** . . . 本文を読む

どうしようもない

2006-09-24 | こころについて、思うこと
Ivan Lins、Keith Jarrett、Ravel、を聴き 張り裂けるようにして すがるようにして 弾き始めた音の そのあまりの醜さ 技巧を置き去りにする音の流砂が 頭蓋の奥底の漏斗の中心へと沈み込むとき 感傷との紙一重の差で 紙で手を切るようにして 痛みを残す 取り残されるものの音 見送るものの音 孤独のなか だれひとり 聞き手のない音 狂い 獰猛に鍵盤を掻き毟り . . . 本文を読む

願わしきこと

2006-09-23 | 日常、思うこと
三木清「人生論ノート」を、10年の年月を経て 再読していて、 ふと、当時交際していた彼女の、純朴でありながらも どこか愁いを帯びていた二重の眼の光が 唐突に消された灯りが目蓋に淡く残照するようにして ふ、と蘇った。 文字を読み取る僕の視線のカートリッジにひっかかり、 ぷつりと流れを寸断する、レコード盤の埃のように。 こころの縫い目が、むず痒い。 ********************** . . . 本文を読む

ぽつり、ぽつり

2006-09-19 | 公開書簡
死せる珊瑚を手にとって 掌のなかで掻き混ぜると 生命の破片の音は 針となって 切ない切ない糸を使って 鼓膜に瑠璃の海を刺繍した   風は竹林をおおきく靡かせる ぼくは部屋の窓から頭を出して じっともぎ取られるのを待った 竪琴を弾けぬオルフェウスのように 波動に揉まれ 反復される生成を 貝殻のなかのぼくの死のなかで 蜂蜜のように味わうために ふと視線を落とすと . . . 本文を読む

coming...when?

2006-09-03 | coming soon
ラヴェル、リストを4時間ほど弾いて過ごし、 あとは、何もしていない。 旅する知らせのみが、届く。 ぼくも、音楽に疲れているのだろうか。 鍵盤に触れたのが、東京で弾いたスタインウェイ以来、 10日ぶりのこと。 「溜息」をなぞるうち、せつなさだけが募る。 「パヴァーヌ」を辿るうち、会いたくもなる。 叶うか、否か。 . . . 本文を読む