白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

ぽつり、ぽつり

2006-09-19 | 公開書簡
死せる珊瑚を手にとって
掌のなかで掻き混ぜると





生命の破片の音は 針となって
切ない切ない糸を使って
鼓膜に瑠璃の海を刺繍した

 



風は竹林をおおきく靡かせる
ぼくは部屋の窓から頭を出して
じっともぎ取られるのを待った
竪琴を弾けぬオルフェウスのように





波動に揉まれ 反復される生成を
貝殻のなかのぼくの死のなかで
蜂蜜のように味わうために





ふと視線を落とすと
名前のない足はいつしか
名前のない砂と等質に伸縮し
名前のない水の揺らぎのなかに
大地を失っているように見えた





ぼくは手をじっと見つめた
そこにはしっかりと手のひらがあって
死せる珊瑚の周囲には 
熱帯の魚が群れ泳ぐ
ほくは すぐさま水をすくって 
ありったけの力で大地を蹴り
この手のひらの中へと飛び込んだ












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9月16日
その日
その場所にいられたことが
妙にうれしかった、と
誰かが言っていたその場所に僕はいて




いつものように悪ふざけしながら
いま 居合わせたひと 向かい合っているひとは
もしかすると もう二度と
話すこともなかったかもしれないひとだったから





あれから1年が経ったあと
あの場所に あのように居合わせて
5時間半もの時間を過ごしていながら
時計をふと振り返ると
誰かがいたずらでもしたかのように
針が先へ進んでしまっているのを見て
切なくもあたたかくもあり
胸がつまった





いてくれてありがとう




*******************





大阪 堺筋本町の
商工会議所横の真新しいホテルに宿泊し
翌日 京都へ入った




京都教育大キャンパスの講義室の
グランドピアノを弾く
傍らにいるトランペッタ―は
ただの一音も吹かないまま
時がすぎる




さまざまな 音楽以前の断片を
ぽろぽろと零しては
それを拾い集めて ふるいにかける




ワインを飲み
語らい
翌朝 翌昼
風 虫の音 子供の声
雲の流れ 碧空
山の端 京都展望
陽射し




彼がぽつり、ぽつりと吹き始め
やがて結晶した音楽は
ニ長調の巨大なコラールと
オリジナルコンポジション
そして
さまざまの転調と飛翔を経て統合された
巨大なホ長調の子宮




弾きおえると まるでトム・ハレルのように
虚脱して しばらくして動悸して
しばらくのあいだ 抜け殻のようだった




トランペッターは
自分がいてもいなくてもいい、というのだろうか
彼がそこにいたから
ぼくは 音を出せた
それだけのこと





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発作を起こしかけたりして
綱渡りのような旅程だったけれど
たくさんの感謝は
僕を治す




9月16日から18日にかけて
旅をしてきました
奇跡を告げるメール
暖かな瞳




湧き出づる このこころの水脈の中へ
ざぶん。


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