白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

扉が開かない

2006-09-26 | 純粋創作
扉が開かない
そのむこうがわの
がらんどうの部屋に
食い散らかした小骨を
片付けにいきたいのに
どうにも開かないのです





いま ぼくは湿気た土埃を
壁から吸い込むので
胸が重くてつかえて
びっしりとかびているようで
とても苦しいのです





この部屋の向こうの
緑色の空気だって
錆付いた銅の粉なのですから
大した違いはないのです
けれど
あちらに水盤を残してきたのです
きらきらしているのが
つ、と聴こえてくるのですよ
たまらないことですよ
それを飲まれるのは




けれど どうやってみても
扉が開かない
のどが渇いて仕方ないのです
そうやって汗だくになって
息も絶え絶えの僕の横を
二日ほど前に
するり
誰かが壁をすり抜けていきました
骨の風鈴を拵えて ちりん ちりん
鳴らしては
粋に ぼくの水盤から水をすくう音が
聴こえてきます




疲れ切ってしまいました
けれど眠ろうとしても
眠れないのです
横になったり
ごろごろ転がったり
けれど どうしても眠れない
疲れきっているはずなのに




こころが伝染するから 決して
その水を飲まないでください




扉の向こうががらんどうだとしても
僕がいないわけではないのです
そちらに僕がいるのが見えませんか
見えないのですか




壁のこちらの僕が
扉を開けられないのに
どうして水を飲むのです?




肌がひび割れて
干からびているのです
どうか 扉を開けて
水をください




そう、水を
けれど そちらから
扉は開くのでしょうか




あなたがその泥足を洗うまえに
盤底の鮮血をすくうまえに





最新の画像もっと見る

コメントを投稿