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京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

「悠々不休」

2020年07月25日 | 今日も生かされて

母が病床にあって入院中、この世の最後に読んでいたのだろうと思われるのが『わたしの脇役人生』(沢村貞子)だった。
そして、同じく病院での身辺に置かれてあった文庫本の『私の台所』と、使いさしのテレホンカード1枚とを、母亡きあと私はもらい受けた。

        沢村貞子さんは東京浅草の下町生まれ。母は荻窪の地で生まれ育った。生前、特に沢村さんのファンだと聞いたことはない。カバー内側には著者の顔写真があって、首の傾げ方、あごのひき具合、どことなく母に重なって見え、(ああ、こんなふうな笑顔を浮かべる人だったな)と思わせてくれる。今の私よりも若い60代半ばで、しかも「いのちの灯が細くゆらめきかけている」ときに、この本を読んで何を思ったか。知る由もなく、また、読み終えていたのかどうかもわからない。

「…そろそろ寝ようか、おばあさん  そろそろ寝ましょか、おじいさん  …二人は八十歳」。
私たちも残りの日々をこんなふうに穏やかに暮らしたい、と綴られて終わっている。父にも母にもそういう時間を過ごしてほしかった、と思ってはみるが、人生がもう一度繰り返されることがあろうはずもない。二人の間に生を得た今日。母を思いながら何年ぶりかでこの本を手に取った。

激しい雨が降ったり止んだりの一日だった。雨上りの夕刻、ほんの短い時間だったが驚くほど空が一面に朱く染まった。
椿の実が色づいてきている。明日からまた一歩ずつ、本文にあった「悠々不休」という言葉をいただいて踏み出そうか。
コメント (6)
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