私的海潮音 英米詩訳選

数年ぶりにブログを再開いたします。主に英詩翻訳、ときどき雑感など。

雑記:楽園の復活 ⑧

2009-12-13 19:14:29 | 自作雑文 楽園の復活
  楽園の復活―マイ・コールド・プレイス― ⑧


 私が惹かれるたぐいの抒情詩を作る人間はみなおのおのの「冷めたい場所」に立っているように思う。これもこのごろ出会ったD・G・ロセッティのつぎの詩などは、まさしく自分が「冷めたい場所」に立っていることに気づいた瞬間の心を描きとめた作品であるように感じる。

  I have been here before,
But when or how I cannot tell
I know the grass beyond the door,
The sweet keen smell,
The sighing sound, the right around the shore.

You have been mine before, ――
   How long ago I may not know;
But just when at that swallow’s soar,
Your neck turned so,
Some veil did fall, -―I knew it all of yore

  わたしはむかしここにいた
  いつかも どうかも知らないが
  たしかに知っているのだ
  戸口の向こうの草はらを
  あまい するどい芳香を
  ため息めいたこの音を 水辺のまわりの煌めきを

  むかしあなたを手にしていた
  どれほどむかしか知らぬまま
  けれど つばめが立ったとき
  あなたの首がふりかえり
  なにかのとばりが落ちて――ただみな過ぎたことと知る
   (D・G・ロセッティ「ふいに光が」)

 伊東静雄がその背を見送る「私が愛し、そのため私につらいひと」が、ここではただ「あなた」と呼ばれる。いったいこの「あなた」とはだれか? 作者たちが男性であるからにはやはり女性であろうか?

 続